九十三話 バベルの塔 #Floor_B
===前回のあらすじ===
『大空の塔』の内部に侵入できた僕達。順調に階層を登っていくのだけれど、どうにも様子がおかしい。というのは、何故かエネミーと一切遭遇しない。そして、二十階。僕らは例のゾロアークを部屋の先に見つけた。のだけども……。
気配すらなかった。その撃は急に来た。
「カロト!!」
「カロトさん!」
壁に叩きつけられ、抵抗なく床に倒れこむ。ノンが介抱をしに行くが、カロトの耐久能力ではまさかまだ立てるとは思えない。
「やぁー、うちの大将からは『足止め』をって言われてたんだけども、ラッキーにも、一番厄介なん飛ばせたわぁー。あとは袋叩きにされるなりなんなりして退却くらいかねぇ〜」
不敵に笑う。目は一切笑っていなかった。腕をトントン、と、準備体操を終えたかのように振舞っている。完全に不意をついた『辻斬り』が決まり、カロトは動く気配がなかった。でも、どこから?僕は直前まで、確かに様子を観察していた。途中からは一歩も動いてなかった。動い……て……あれ?確かフィレンは足音がしたって……。
「というかあんたら、ほんと気をつけなきゃダメだよ?お兄さんね、こう見えて図太いから。小話ヒソヒソしてる間に天井伝って背後とったりしちゃうタチだから。それとそこのステータス君は……」
パタンッ、と指を鳴らす。目の前に、ゾロアーク型の生物……いや、人形ができる。
「こーゆーのもちゃんと考えようね〜?見えてるもんが全てじゃないんだよこの世界」
身代わりでうまく索敵から逸れたということだ。そうだ。明らかに僕のせいだ。僕が失敗しなければ……。そのせいでカロトが……。
「落ち着け」
フィレンが僕の肩に手を置く。
「前の失敗を考え込んだところでどーにかなる話じゃねーだろ。特に今は」
激しの言葉だ。戒めかもしれないけど、僕はそう捉えたい。ライが今、カロトが倒れたのを受けて指示を考えている。カロトはもう動けそうにないし、避難させるのがベスト。また、ゾロアークへの対抗策。前に対戦したときは、クレイやセレアを担ぎながら出会ったにも関わらず、僕ら全員の攻撃を全て受け流していた。よって、僕らが寄ってたかって袋叩きにしたところで、時間を稼がれて終わるのも目に見える。なら、一匹残して他は先に行くのが一番現実的。フィレンもそこまで考えたのか、前に一歩出た。
「ここは俺が……」
「俺がやる」
ボーバンが早かった。目つきがいつもよりも悪く見える。
「だからお前らはさっさと行っとけ」
「ボーバン……」
ちょっとほほ笑んだ。こういう顔はあまり見ない。寡黙だったし、何より顔怖いから、急に親近感が湧いた。
「……頼むぞボーバン。ノンは十一階に戻ってカロトを下へ連れてってくれ。戻ってくる必要はない。他は、上に行くぞ」
ライは信頼したらしい。僕も、不安が残りつつもボーバンに頼んでゾロアークを足止めしてもらった。
「……大丈夫、なのかな……?」
「心配ないさ」
ライは妙に自信ありげだった。
「あいつのタイマン、見たことあるか?」
〜〜
「俺の相手はそこのボーマンダで充分なのか、こりゃあ大層見くびられたもんだね〜」
ため息をついている。
「恋したポケモン一匹も守れなかった能無しとやり合えなんて、悲しくて手加減しても足りねぇや」
ギロッ、と、ボーバンの顔が変わった。
「俺はそんな大層な奴でもないさ。確かに能無しさ。いっつもそんなことばかり思ってきた。そんな俺だ。だからよ……」
フゥーッ、と炎を吐く。
「手加減してやってもいいんだぞ」
前脚で地面を叩く。『地震』は轟音を巻き込んでゾロアークの元へ向かう。咄嗟、跳躍でやり過ごした。
「おっとっと……こいつは期待以上。やっぱ手加減とか面倒だったし全力出しちゃおっかな〜」
「手加減して灰にされるか、手加減せず灰にされるか、どっちがいいか答えろ」
「うーんと、灰にされない方がいっかもね」
「ほう……じゃ、灰にされる前に名前は聞いておこう」
「ローク。なんだい?ヒーローショーの主役みたいに名乗りゃあいいのか?」
「必要ない」
地が揺らぐ。隆起する。沈下する。変化に気づき、ロークは跳躍した。空中にさらされた体は、飛行タイプの格好の獲物となった。『逆鱗』に触れる。尻尾で叩きつけ、鋭い岩に叩きつける。すぐさま受け身でロークは立ち上がるが、それでも隙を作らない。『アイアンテール』が岩ごと薙ぎ払う。これは回避。しかし、先手を取られてばかりで面白くなく、ロークは『火炎放射』で距離を置かせようとする。直撃。いや、突進。それは捨て身に近い。ロークは『身代わり』でやり過ごすが、一瞬でそれも無力化。それは、それは……そのドラゴンは、戦場の鬼だった。