八十六話 天使の要求
===前回のあらすじ===
フゥの参加により、三つ目の石の捜索の効率は大いに向上することが見込まれる。嬉しいのは嬉しいのだけども、どうして急にこうまで協力的になってくれたのだろうか。元は僕に口封じさせるレベルだったのに。
「何を仰いますやら!そんなの、サンさんが大っ嫌いだからに決まってるじゃありませんか!」
「……にっこり笑って答えられてもなぁ」
現実世界……いや、この世界が確かに『現実』であることは僕が生きているのがその証拠だから、どちらかというと『元の世界』。元の世界で僕は確かに『ポケットモンスター』、縮めて『ポケモン』というゲームソフトを起動し、プレイヤーとして操作手を操作した。その時に手持ちとして腰のボールに入れていたポケモンは六匹。エルレイド、ラプラス、ファイアロー、ガブリアス、ボスゴドラ、そして、フライゴン。別段特別扱いはエルレイドのみで、他のポケモンも、愛情を持って育てた……つもりではあるし、それぞれ強さは僕が保証する。……レベルの高さが売りだった節もあるが、扱いやすいパーティだったことには変わらない。
その一匹を名乗るからには、こんな異常現象の最中、やはり『信じない』の選択はあり得ないのだが、嫌われているとまではつゆほどにも思わない。確かに性格は『おとなしい』だったはずだけど、出会った当初は内気っぽい喋り方だったしその点は頷ける。そう考えついてからよくよく思い返せば、ゲーム内でも不可思議な確率が発生したこともよくあった。『絆』というパラメーターは最大値であったものの、その『仕様』があまり発生していなかった。『なつき』が最大値にするめにも、少しだけ、データ上の計算とは誤差が生じていたこともあった。あの頃は計算ミスや試行ミスとして流したけども。
要するところ、一つ一つが小さな静かな抵抗であったのかも知れない。そこまでして嫌う理由は、実はまだ教えてもらってない。乙女心はよく分からないというやつなので、早く教えてほしい。
「とーにかく、は」
ギルドテント出口付近、一、二歩先を軽くステップを刻んだフゥが、くるっとこちらに向き直った。
「私は、あなたが私のトレーナーだなんて認めてないのです。その点はご理解いただけてますよね?」
「……なんとなくは」
指をちっちっちっ、と振る。違うでしょ、っていうジェスチャーだ。じゃあ答えさせる意味もなかったのでは、と言う前に話を始められる。
「分かってませんね、サンさんは私を見ていない。私なんて眼中にないはずです!きっと、フィレンさんとかノンさんとかに夢中なはずです」
「夢中って何さ夢中って!」
ノンはいいとして、なんでフィレンが挙がるのさ!
「私は、サンさんが気付くまで、ゆるりおお待ちしていますよ〜」
くるっと、背を向ける。青と橙のフォルム、そして翅はとても美しさと希少さを感じさせてくれる。そのまま、出口を抜けて外へ。光がそろそろ差し始めている様子だった。今の僕の気分は……飼い犬にいいようにパシリ扱いを受ける飼い主。全くもって理解に苦しむ。
「おい、サン」
「……ひゃうん!?いつからそこに!」
ボーッとしていたら、後ろに既にフィレンが。「結構前からだ」と言う辺りは僕はちょっと、日頃から意識を尖らせなければなるまい。
「これから捜索だろ、付き合わせろよ〜」
「え?い、いや、フィレンはまだ完全に体治ってないし……」
「杖は要らねーから歩いてドロップキックならできる。ボディガードとしては充分なスキルだろ?」
「ドロップキックは少なくとも役に立たないと思う」
包帯巻かれてると説得力が薄い。休んで来なよ、って言っても聞かない。「体は動かさないと治らねーから」だって。いよいよ戦闘狂だよ。
「……はぁ……仕方ないなぁ。フゥと僕じゃ戦力的にも物足りない感じあるし……」
「よっしゃ!」
ガッツポーズ。このガッツポーズはフゥと一緒になれる、の方のガッツポーズなのだろうか。そうだとしたら……つらい。
フィレンは(包帯を巻いた足で、だけども)駆け出して、フゥの側に近寄った。そして、会話を始める。まぁ、少なくとも悪くはないことだと思う。始めの頃の天使さんが、あんなにも活発的になったんだ。『ようき』な性格であることは、グループの盛り上げとか、そういうのには不可欠。うんうん、良きかな良きかな。
「サンさーん!こっちですよー!」
フゥが手を振る。早く来い、ってことだろう。ま、答えるしかないもんね。
「うん、今行______
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青い方の葉っぱが少し揺れた。太陽が東に再び歩みだす。風を受けてパタパタとテントが音を立てる。
「サンさーん!こっちですよー!」
……あれ?
「おーい、早く返事しろー」
……え、でも……。
「う、うん!分かったー!」
……気のせい、かな。