疾風戦記

















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六章 青い波動
八十四話 未来予測図(後編)
===前回のあらすじ===
 フゥ、メグと別れて、医務室に僕は向かった。らしくないフィレンに一つ、ぼくは説教をした。どうやら調子を取り戻してくれたみたいだけど、僕はまだまだ舐められたままのようだ。


「……なるほど……」
「ま、そんなとこさ。あいつも変わったもんだよな〜、ほんと」
「変わったって騒ぎじゃないよ!そ、それで……フィレンの初恋のポケモンは無事なの!?」
「ワヅキのことか。人質に取られてる、って話だが、ならまた生きてるだろ。だが、アルトが屈服させられてるわけだ。助け出すのは相当難しいだろうな……」

 思ってたよりドロドロした話だった。フィレンの初恋のポケモンと、フィレンの幼馴染のポケモンとが両方とも、無理やりとはいえ向こうサイド……。さっきまでフィレンが落ち込んでいたのも無理ない。むしろ、こんな話、盛り返した僕が悪かった。というか……

「僕以外にも元人間のポケモンと出会ってたの!?」
「ああ。自称だったからあまり気にしたことはなかったが、確かにあいつは元人間だ」
「しかも性転換もしてたの!?」
「らしくてな。口調はオスっぽかったからそっちもあまり気にも留めなかったな」

 驚きで言葉が出ないとはこのこと。偶然というのか、なんというのか……。

「俺もお前にあった時はびっくりしたぜ。何しろ経歴から完全にダブってだからな。おかげであの時は返ってめちゃくちゃ笑っちまった」

 今思い出してもやっぱ笑える、じゃなくて!そういう笑いだったのかよ!というか笑わないでよ!

「……はぁ〜あ、ありがとな」
「……え?」
「すっきりしたんだよ。洗いざらい全部話したら、心持ちが軽くなった」
「それなら良かった、けど……」

 存在は知っていた。けど、いるわけないだろうと言われていたわけだね。バカにされてる感が半端じゃない。というか、半分バカにされてきてたことにようやく気付かされた。複雑な気分。あの頃、めちゃくちゃ笑われた時、天使さんにさえ笑われて恥ずかしかったのに……。
 あれ?でもあの時……。

『人間って所詮ゲームやマンガの話だろうが!』

あんなこと言って、しかも怒ってる風だったけど……あれは何だったんだろう……。

「じゃ、俺らもフードコートに行くか!」
「え?」
「『え?』じゃねーだろ?外で話してたの聞いてたんだぞ。新入りを出迎えてやらなきゃなんねーだろ」
「あ、そ、そっか!」

 結局、フィレンが怪我をしていても僕は引っ張られる側なのかぁ……。一人じゃ歩けそうにないので、痛くないようにゆっくりと背中に乗せた。


〜〜


「……それでですね!ここでサンさんはこう思ったわけですよ!『これだけ見れると別にかわいいのに』って!」
「なっ……」
「メ、メグさん、そんなことやってたんですか!?」
「やってたわ。玉座にヒョイってね。別にそれ見られてるのはいいんだけど、何よあいつ、『別に』って……」
「ほんとですよね!腰抜けなのにちょっと偉そうですよね〜」

 フードコートに戻ると、そこは地獄絵図と化していた。

「やぁ〜あんた、最初は天然系かなって思ってたけど、同類だったのね」
「ふっふ〜ん、私だって最初から気が合うだろうとは思ってましたとも!」

 メグと天使さんは意気投合してるらしく、というか、グループの中心が天使さんだから全方面に対して想定以上に溶け込んでいる。というのも、僕を出しにして盛り上がってる様子で、要は、僕を必要としない僕の暴露会が行われていた。ねぇ、何してくれちゃってんの!?

「へぇ〜、新入りってあの子のことか?」

 おい〜、と肩を叩く。

「何で今まで紹介してくれなかったんだよ〜。溌剌系で可愛くて優しそうでいいやつじゃねーか〜」

 どこがだ!!

「あ、サンさんとフィレンさんが来ました!」

 ノン、なんでそこで呼んじゃうの!このまま百八十度振り返って逃走したい気分だったのに!ノンがこちらを呼んだと同時に、ゆらり、とライとメグが近づいて来た。

「サン君〜?ちょっと一つお話いいかな〜。どうやら君、ノンに会った時に『告白したい』だの『プロポーズしたい』だのなんだの思ったらしいじゃないか〜。ん〜?」
「げっ……!」
「サン、どうやら私と初対面の時に『こんなイーブイがいるところには入りたくない』とか考えたらしいじゃなぁ〜い?」
「げげげっ……!」

 顔が青ざめる。うぷぷっ、て感じで天使さんが笑ってる。ノン以外全員は哀れみの目だ。ノンは……告白だの、に反応して顔を赤らめてる。

「は、はめやがったなぁぁぁぁぁ!!」

 ライとメグに引きずられていく。いつの間にか、フィレンはボーバンに背負われている。

「さぁ〜さ、私ちょーっとサンに用事があるから抜けるわね?」
「奇遇だな、俺も彼に用があってね〜。なんなら一緒に同時に済ませてしまうかい?」
「あんたに賛成する日が来るなんて、明日は雪かしら?」
「全くだね」

 談笑していた。僕は最後まで叫び続けた。

「やだぁっ!離してぇっ!お願いだからあああああ!!まだ死にたくないよぉおおおお!!」



 抵抗むなしく。

フィーゴン ( 2017/05/28(日) 15:22 )