疾風戦記

















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六章 青い波動
八十二話 未来予測図(前編)
===前回のあらすじ===
 天使さんことフゥが仲間に加わった。つまりそれは、僕の天敵が増えたことも意味している。


 新人、一名追加。正直眠い。夏が終われば気怠さも無くなるかと思ってたけど、そうでもなかった。冬でも暖房熱が熱い。かといって、外に出る気も、これも訳あってまるでない。サンから連絡があったのがついさっき。役立たずなソアの代わりに大体の仕事を受け持ってる私のところにするのは当然。だけど、あいつは私の機嫌まで考えてるわけもなかったみたい。
 リモコンを手繰り寄せ、スイッチをカチッと押す……あ、もう切ってるのか。にしては暑くない?この部屋。私のために、私のためだけに、こっそりギルドの貯金から引き落としたお金で作らせた、アンティークな模様と造形が特徴の綺麗な机に、頬をべったりくっつけて突っ伏す。木の感覚がいい。これがいい。つーっ、と顔を冷やしていく。机が冷たいのではない。私が熱すぎるのだろう。前足を揃えて、背筋を伸ばし、机を蹴飛ばしてくるくるっとキャスター椅子を回す。ドア、本棚、壁、壁、ドア、本棚、壁、壁……えぇ、こんなことしてる場合じゃないのだけども。
 四足歩行に切り変え、ピョンっと椅子から降りると、反動でキャスター椅子がさっきより勢いをつけて回り出した。ドアに向かって右側の壁に近づく。近づくだけで熱気を感じる。冬の光熱費はあまり考えていなかったが、夏の倍はかかるかもしれない。とりあえず、その壁をドスッと一発殴ると、そそくさとヒーターの温度を下げたような音がが聞こえた。後で壁は修理しておかなければ。
 さて、そして向かって左側の本棚。こちらもこちらでやや熱い。本棚だから迂闊に叩くと倒れてしまいかねないので、床で伝えた。同じように、ヒーターの温度を下げてくれた。床の方にも書類を作らなくては。

 だからと言って、すぐに温度が変わってくれるはずもない。ここは居眠りでもしてやりたいところなのだけども、戻ってきたソアに寝顔だけは見られたくない。あいつのことだから、和やかに眺めるだけだろう。そう思うと吐き気と目眩がする。自分のプライドにかけて、断じてそれはできない。自分の部屋で寝ればいいことなのだが、これは外に出れない理由にも関わるのだけども、私自身が熱を溜め込みやすいせいで、冬場は暖房器具みたいに重宝される。正直暑苦しいから、道中にどこかでもみくちゃにされる。だから迂闊に出れない。
 それに、まだ書類整理が終わっていない。新人が入ってくるなら、手続きとか必要になるし、道具とかも一式揃えなきゃいけない。面倒くさい。サンに言われた時は正直イライラして受話器ごと握りつぶしそうになったけど、どうにもサンを怒る気にはならない。あいつ、根はオス……あいつは『オトコ』って言ってたっけ……まぁそんなだから、ってはずなんだけど、どうも私の対オス撲滅センサーが反応しない。意気地なしのオスなら反応できるんだけど、意気地なしの元オスのメスは反応できないらしい。認めたらそれこそ調子が狂うから、あいつに対しては最大限努力して嫌悪した。……最大限の努力の嫌悪ってなんだろ。
 まぁ、その辺は『サン』っていう『ニンゲン』の『ニンゲン』らしい所以なのかもしれない。何より、悪いやつではなさそうだからどうでもいいとしよう。芯の部分は、お姉ちゃんに似てる気も……いや、ないない。

 ノックが三回。

「メグさーん、サンさんが戻りましたー、ギルドの入り口まで来てくださぁーい」
「オッケー」

 どうやら来たみたい。入り口まで見つからずにいく方法は無いかしら。


〜〜


「そいつが新人?」
「あ、……う、うん……」

 いつも通りの怖い目線。体毛がボサボサになってるのは多分、ここに来る途中で誰かにもみくちゃにされたからだろう。冬にこれを見たら、飛びつきたくなる人も多いと思う。

「初めまして!フゥと申します!よろしくお願いします!」

 敬礼……天使さん自身は一方的に知ってるから、緊張感がない。メグは少しうなづくと、視線を移した。……ルートの方に。

「……話だと一匹のはずだけど?」
「俺は単に一泊させてもらうだけだ。金は払うし、朝になったら勝手に出ていく」
「ふぅ〜ん……」

 ジト目で睨みつけた後、メグはまた数回頷いた。

「ま、見所はありそうね。じゃあこっち来て。電話で事情は大体聞いてるけど、経歴だとか部屋だとか荷物だとか、とりあえず案内がてらに手続き済ませてくから」

 プイッと振り返って、こっちに来い、と顎で指図した。

「ノンちゃんはルートを部屋まで案内。はいこれ、地下一階の18号室の鍵」
「あわわっ、は、はい!ありがとうございますっ!」

 人見知り改善のためにも、緊張混じりに張り切っている。見守りたい気持ちが高まる。

「ほら、」

メグに呼ばれて振り返、痛ぁっ!あ、足を……足を……思いっきり叩かれ……ううっ……。

「元オスならそれくらいで泣かないの。ほら、あんたはこいつと一緒に来ないとでしょ」
「あ、そ、そっか……そうだよね……」

 足が使えないので翼を使おう。ゆっくりと羽ばたき、低空を維持する。

「何やってんの、こんな狭いとこで羽ばたかないでよ……ったく、身長考えなさいよ、埃が舞うのよ!」
「あ、ご、ごめん……」

 理不尽はいつも通りだなぁ……。痛い足を引きずって、僕はフゥとメグの後に続く。

■筆者メッセージ
八十二話にして、ようやく気付きました。イチイチタイトル決めに苦戦していた今日でしたが、前後編と書けばいいということに今更気付きました。
フィーゴン ( 2017/05/14(日) 20:53 )