疾風戦記















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六章 青い波動
八十話 Wish__奇跡を呼び起こす軌跡
ジラーチさんは突如として光り輝き、そして_______。

















 何も起こりません。

 ……え?放たれた光は徐々に輝きを失っていき、ジラーチさんの決めポーズだけが残ります。

「……あのー……」

 こういうものなのでしょうか?いや、そうではないはず。動くのも躊躇う状況で、両手の爪を互いにカチカチとすり合わせます。目線をまじまじと合わせるのが辛いので、ちょっと流し目っぽくチラッ、チラッと様子を伺います。異常なし。異常があってほしい。静かで、止まっている時間です。洞窟に刻まれる水音がなければ、時が止まったという言い訳でもしてやったところでした。

「ぴぎゃああああああああ!!」

 その静寂だからこそ、叫び声は輪をかけて響くのです。……え!?どこから!?突如、空間面の一部が渦巻きぽっかりとした穴を形成します。そこから出てきたのは__。

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁああ!!お助けぇぇぇぇぇぇええ!!」

 泣きべそかいてるジラーチ君でした。あれ、二匹目!?

「こらぁ!!待たんかあああ!馬鹿者ぉぉぉ!!」

 そして、別の空間穴、さっきのよりちょっとおっきいやつができて、そこから出てきたのは……白色、すらっとした四足歩行、胴の部分を中心に彩る金色の、装飾。あ、ああああ……あ、ああ……。

「アルセウスさんですか!?」

 このラノベ的急展開は何でしょう!星の子ならいいでしょう。創造神は軽々と現界してはならない存在です。
 星の子ジラーチ君は、洞窟のホール内を3周くらいアルセウスさんと追いかけっこをした末に私の後ろに隠れました。私の腰のあたりを掴んで、涙ぐみながらアルセウスさんを睨みつけてます。

「馬鹿者がぁ!転生は禁止!何度も言っていただろう!」
「仕方ないじゃん!言われたからには何でもする!それが僕のお仕事なんだよ!」

 ……あのー……。

「黙らんか!こんな精巧な機械の依り代を使って何をしているかと思えばこんなところで世界の秩序を壊すようなことばかり繰り返しおって……」

 あのー……。

「それ以外に僕の存在意義はないでしょ!みんなの願い事を叶えるくらいしか能がないんだからそれを取り上げなくてもいいじゃないか!」
「悪用しろとは誰も言っておらん!願いを叶えてやるときは素性、性格、家系、好みのスパゲティの味まで把握してからにしろ!これも前に言ったはずだ!」

 あのー。

「第一さ!それなら何で僕を創造したわけさ!いるだけでルールブレイカーならそもそも何で創っちゃったの?!馬鹿じゃないの?!」
「ああ、初めは正直、理想の権化として召喚したさ!だが気づいたよ!明らかにお前は失敗作だ!いなけりゃよかったと何度も思ったよ!」
「なっ……そんなこと言わなくてもいいじゃないか!」
「お前もお前だ!何を______」




「あーのー!!!」


 大声はドーム状の部屋で反響して、耳にキーンッというモスキート音を残します。ギロッと睨めば決め手でした。もちろん、振り返ってジラーチさんにも。突然のことで、当惑している様子です。

「すみません、分からないので一から説明してください」

 何でここでこのセリフが急に出せたのでしょう。知らん顔もできたんですけどね……。

「せ、説明だと!?部外者は____」



「勝手に話を進めないでください。一から、分かりやすく説明してください。いいですね?」
「だ、だが……」

「い、い、で、す、ね?」
「は、はい……」

 多分、Sっ気はこの辺りから身についたんでしょうね。この世界を統べるような存在が、こんなにチキンでいいものかと思ったのはもっと先のことです。


〜〜


「天秤?」
「あくまで例えの例だ。そんなものだと思ってくれ」

 世界というのは、負荷をかけすぎると壊れる……というのはまあある程度は飲み込めました。つまりは、歴史が変わったり、超次元的な力が加わり、それが野放図にさらされると簡単にバラバラと瓦解するのだそうです。ちょうど、トランプで作ったタワーの上に、積み木を乗せたらどうなるか、ていう感覚なのでしょう。で、その仕組みに対策なしでは世界なんてポンポン壊れていくので、その世界を壊すレベルの『操作』を相殺するための別の『操作』が発生するようです。多くが自然災害によるポケモン全滅で、で、世界が壊れる原因は大半が、結局はポケモンなので、強い衝撃が起こったときはこれが一番手取り早いそうです。
 世界が壊れるだの、厨二な内容ばかりですが、神話ってそういうものですからね。私たちの心がデリケートなように、仮に世界が心を持っていたら、その心もデリケートなのでしょう。だからと言って、『苦しい!もうダメ!みんな消えろ!』は些か困るんですが……。
 非常に精密な“釣り合い”をとって、その釣り合いが壊れたときに、天秤は音を立てて壊れてしまう。そして、その衝撃を、今、このジラーチさんはやってのけた、と。私の命令のものではありますが。

「転生はどれくらいまずいのですか?」
「同世界の生まれ変わり、いわば“蘇生”なら看過できる。異世界の場合、ジャンプするときに二つの世界に強引な接続、その後には分断が起こる。そして、もう起こった後だ」
「ジャンプの時に、事故も起こったから、君のトレーナーさんが原型をとどめて来れているかも分からないし、来れてもいないかもしれないんだ……。これがなければバレなかったのに……」

 えっ……?来れて、ない……?

「来れてないって、そんなことになったらどうなるんですか!?」
「うーん……」


「消される、かな……」

 私の眼に、ようやく焦りが混じりました。

「ふわふわ浮いてる綿毛みたいなものだよ。風が少しあるくらいなら別に流されてくだけでもある程度形は保てるんだけど、不安定な気流というか、例えば嵐に近いところにさらされたら、そりゃあ粉々にされて、なかったことにでもされかねないよ」

 私の決断は、私の決断は________。

「それもこれも、全部あんたのせいだ!よくも邪魔してくれたなじじい!」
「じじいじゃない!この世界任されてまだ200年程だ!新任だ!」

 消えちゃう。彼が……彼がずっと望み続けていた希望が……。

「ほ、方法はないのですか!」

 このセリフが出たのは案外自然だったと思います。誰だって、空気を読めたら勇者になれるような場面でした。私のような、こんな高次元なお話に付いていこうとする物好きが珍しいのか、あるいは定まった運命への抗いに虚しさを感じているのか、アルセウスは唸りをあげるのです。

「……できないこともない」
「ほ、ホントですか!」
「ただし!」

 四肢の一本、鋭く尖った足で私を指差す。仰け反ります。

「その場合、世界(ここ)からお前が消えることになる」


 やり口は、うっすらと見えました。増やした分だけ減らせば良い。その減らす分を、私で充てるのです。それなら、それでいいのです。愛する彼もいないこの世界に、私はいらないから。

「構いません」

 強い眼差しでそう宣言したのでした。数秒の戸惑いをアルセウスは見せた後、よかろう、と呟き、その一言の後、足でコツッと地面を叩いたのでした。体から発光体が飛び散り、下半身から順に体の感覚が消えていくのです。そして私は_________。




ここで一旦記憶が途切れます。


〜〜


「……ここ、は……?」

 まさに薄暗い部屋でした。まさに質素でつまらない部屋でした。清涼飲料水は置かれています。目の癒しのためにか観葉植物も置かれています。しかし、その植物もまさに薄暗かったのでした。部屋の真ん中は、透明なガラスが貼られていて、まるでそこだけが筒抜けたようになっていました。そこは、まさに輝いていました。


──────────貴様は、今から、神に仕える天使として、これからここに籍をおけ。
──────────貴様のトレーナーが、世界(そこ)でうまく生きていけるように補助してやれ。
──────────私も、貴様がいつしか下界に戻れるように尽力する。
──────────だが、貴様を天界へ連れていくにおいて、時間軸を修正し、貴様の存在は完全に抹消された状態で世界が進行している。降りるか降りないかは貴様の自由だ。


 まさに薄暗い部屋の真ん中、ガラス窓……いや、レンズというのが正しいでしょうか。そこからのぞいた世界には、そこには森の緑、そこには小鳥のさえずり、そこには吹き抜けたほのかな風、そこには目を覚まそうとしていた一匹のメスのフライゴンがいる、不思議な不思議な、彼がいる世界でした。

■筆者メッセージ
旅行中に書き上げたモノですので、手荒かもしれません。ご容赦……
フィーゴン ( 2017/04/30(日) 22:02 )