疾風戦記















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六章 青い波動
七十七話 天使の願い
===前回のあらすじ===
 フィレンはアルトに敗れ、重傷を負った。フィレンのためにも僕は、敵さんの本拠地を探し回った………のだけども、一向に手がかりなし。落ち込んでそのまま帰ろうかという時に、天使さんに話しかけて欲しいポケモンを言い渡された。それはガブリアスだったのだけれど……。


 極めてズルい。キリッとした、透き通る声だった。天使さんの声には真剣味が乗っていた。いつもの、ルンルン気分の軽いテンションならば、そんなことやるわけないだろ!、とか適当に流せば充分だったんだけども、このタイミングでのこれは卑怯だ。僕が意気地のない男(今はメス)であるが故に逃げ場がない。

 従順に『イエス、サー(あるいはマム。というか多分マムだな)』とか心の中で敬礼して、十五メートルほど先で周りの景色を眺めながらのんべんだらりと歩き行くガブリアスに話しかければ、それだけでミッションクリア、クエスト攻略なのだろう。けれども、そこも僕の意気地の問題なのか、知らない人に話しかけてはならないというか、知らない人に声をかける勇気がないというか、そういう10歳前後半の浅はかすぎた洗脳のおかげで、こういう局面はかなり苦手だ。何よりも、相手はガブリアスだ。スラッとした体躯、肩や脚部にはトゲが左右それぞれ二本ずつ。ポケモン界屈指の強力なポケモンで、その攻撃性能、防御性能、移動性能はバトルのために生まれてバトルのためにその存在があるのではとも言えなくもない。

 同じドラゴン・地面タイプを有するポケモン同士として、共通的な話題はあるだろうかと模索してみたが、駄目だ。見当もつかない。

『……早く』
「は、はいっ!」

 天使さんが要求を早めてきた。ビクッと身を震えさせたついでに声まで出てしまい、周りの連中の目線が痛い。しぶしぶ、ガブリアスのそばに近づいた。まずは肩を三回……いや、二回だ!叩いた後は……天使さんからは話しかけろって言われてるから、『少し、話いいですか?』とかの文句でオーケー。職業やら名前やらを問われたら率直に答えてそれでいいだろう。よし、万全!さぁ、まずは……肩を二回、トントンッ……っと……。ガブリアスが僕に気づいて後ろを振り返る。

「えーと……少し、話をしても……」
「……!フゥ、フゥなのか!?」
「……はひっ!?」

 なんてこったい!初っ端から予想の斜め上ずっと先の回答されちゃったよ!頭が真っ白。軽くとて、練っていた計画も全てパーだ。おまけに真っ正面から向き合わせられて肩を掴まれて揺すられて、余計何が何だか分からなくなる。というか、フゥ……?今僕のことフゥって言った……?

「えーと……僕の名前はサンなので、人違いかと……思ってまして……」
「なっ……。そ、そうか、すまない。悪かった。ポケモンを探しててな……そいつに似てたもんだからよ」

 おお、ちゃんと答えれば割と冷静。クールな言葉回しがカリスマを感じさせる。ガブリアスは僕から視線をずらし、頭をかいている。

『……やっぱり……っ……ぅう……っ……』
(……天使さん?)

 ……聞こえる。言語とは全く呼べない。音がはっきりとした意味を持たない。それでも一つの感情だけを伝えてくれる。泣きじゃくるような声だった。嬉しさ、の方だ。大体事情が察せた気がする。

「ちょ、ちょっと待ってくれませんか?」
「あ、あぁ……」

 ガブリアスもやや混乱してる。気まずくなるべきところなんだろうけど、天使さんが泣き止むまで待ってあげないとだから、どうもそんな、ガブリアスへの申し訳なさが出てきてくれない。待ってあげて、むしろ言ってあげるべきなのだろう。目を閉じる。何を言ってあげればいいのかも分からないからとりあえず黙って見守った。

『ぐずっ……サン……ざん…………おでがい(お願い)……が……あり……まず……』
(……聞きましょう)
『彼を……ルート君……を……森に……づれできて(連れてきて)……ぐだざい……』
(……了解)

 女の子に泣きながら頼みごとをされたら、断れない魔力ってあるよね。これをできれば人間の頃に体験したかった。頷き一つ、僕は、ガブリアス、ルート君と呼ばれた彼の腕を掴んだ。

「来て!」
「ぉ、おい!」

 戸惑ってるみたいだけど、とりあえずそれはいいや。あぁ、なるほど、引っ張る側の気持ちはこうなのか。いつしかのフィレンも同じ気持ち……だとは思えないな。石の道を、進路を無視した方向に直進。緑の迷路を、掻き分けて前へ。どこへ進むかは……あ、言われてなかったな。指示が来ないし。とりあえずはやや奥の方を目指しておこう。小枝も無視、木の葉の音も無視。遂には獣道とも呼べない場所に到達した。さっきまで見えていた白い石の群れはもう見えない。……やっぱり適当に走るのはやめよう。

(天使さん、どこに行けばいいのー?)
『そこで結構です!少々お待ちを!』

 どうやら泣き止んだ見たい。いつも通り……からは少し元気がないけど、回復してる。少々お待ちって……しかも適当に選んだここでいいの……?不安というか、むしろ、腕を掴んで必死の行動に出た意味がないような気がしなくもない。ちょっと待ってて欲しいってルートには伝えたけど、うん。納得はあまりしてない様子。それもそのはず。いきなり遺跡群付近で出会った、探してるポケモンに似ている謎の少女に急に話しかけられたのに、自分はそのポケモンじゃないよ、って否定された上に森に連れ込まれて二匹きり。あれ?わりかし危ないシチュエーションじゃないか、これ。今更自分がメスである事実に気付く。うん、この場所なら、助けなんてもはや来ない。……ヤバい。まさか、腹いせに殴られたり……もっと酷ければ……わぁ、あまり想像したくない。青い空、白い雲、高い山、低い草。どうにもこうにも、ばくおんぱを放っても誰にも気づいてもらえなさそうな場所だ。鳥ポケモンが飛び立ち、上からはポケモンが落下して来ていて、ほんのり小川の音が聞こえる。太陽も高く昇ってきたしそろそろ帰り……いや、待て……今何かおかしかったような……。
 青い空、白い雲、高い山、低い草。鳥ポケモンが飛び立ち、そして……。

 大空を見上げた。真っ青な空には相応しい、黄緑、橙、そして青色の、フライゴンと思われるポケモンは、空気抵抗に逆らって、翼も使わず、ただ重力のちからに従って落ちて来ていた。

「……げっ……」

 僕の反応を見て、ルートも気づいたらしい。そして、上を向いて……あろうことか目を見開いている。何やってんだよ!危機感を覚えろよ!

ここら辺に落ちてくるみたいだから、さっさと避け……あっ。



 ドッスーン!!という音が響いた時、僕は危うく意識が飛ぶところだった。痛い……で済んだ良かった。

 フライゴン……通常種とは異なる色合いのポケモン、色違いのフライゴンは、さも何事もなかったのように立ち上がり、土を払った。

「お久しぶりです!フゥ、ただいまここに戻りました!」

 後ろに手を組み、羽をふわりと動かして、ルートにニコッと、笑みかけた。

「サンさんには、こっちの方が分かりやすいですよね」

次いで、痛みに耐えつつ立ち上がっている僕に向き直る。

「こんにちは!天使さんはこちらの世界に降臨いたしました!」

 羽を丸く、体を包むように曲げて。微笑んだ顔は僕にも向けられた。
 その笑顔はさながら………………天使のようで。

■筆者メッセージ
サブヒロイン追加。メインヒロインはもちろんサン。
フィーゴン ( 2017/04/09(日) 11:43 )