疾風戦記

















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六章 青い波動
七十六話 旧きが故の逡巡
===前回のあらすじ===
 俺は旧友、アルトを追って森の中に向かった。あいつとの久々の会話の後、アルトは急に苦しみだし、目の色を赤く染め、俺を襲いかかった。そして……。


「っがあぁっ!!……」

 木に叩きつけられる。皮膚が焦げる。狭く朧げな視界に映るのは、旧友の二本の脚。真っ直ぐ、何もないかのように立っているのが分かる。口についている血を拭き取った。割と多い。ギリギリの力で飛び退いて、追撃を交わす。受け身はできても立ち上がれない。
 膝を立て、手を突いて、荒い息。少しずつイノチが消えている感覚だ。生物的な、いわば『危機に対する生存本能』が信号を出している。首元に巻いたスカーフを持った。紺色は、暖色を取り込んで濡れている。ポーチの中身に手を入れた。オボンの実……まだ、形としては戦える。胸に掲げたペンダント。さっきの『フレアドライブ』でも燃え尽きはしなかった。戦える……だが、……躊躇っている……のか?
 恐れているわけがないと信じ込む。目の前にいるやつは、アルトじゃなくバシャーモだ。それくらいは認識できているはずだ。なのに何故……何故、わざわざ、正面から戦おうとしない?あいつの『飛び膝蹴り』を避けるためだとか理由をつけて、何故、真っ正面から殴りに行かない……?顔を上げると、嫌に冷たい視線だった。オスの体にはお似合いの佇まいだった。

「……どうにか……どうにか……しなきゃ……だよな……」

 重心を左右にブレさせながら立ち上がる。手が無気力に下に垂れている。冷たい視線に勝つために、こっちからも視線を投げかけるしかなかった。『神速』が使えるとは思えない。なのに『神速』で、左右にゆり動いて撹乱しようとする。見切られているのはもう知っていたはずだ。前傾になったかと思うと、急接近をかけるアルト、一瞬(せつな)に攻撃を仕掛ける。避けられたはずなのだ。見えているのだから。なのに……。


「っ!危ない!!」


 目を瞑っていた俺が、目を開けた時、そこにはメスのフライゴンがいた。




〜〜


 バシャーモは、僕を見て退散した。相性では有利だし、たった一匹だし、他にも仲間が来るかもしれないしで、妥当な判断だと思う。フィレンは、想像もつかないほどの重傷を負った。僕が来る直前までは意識があったみたいだけど、そ来てからパタリと。不思議なのは、オボンの実を使っていなかったこと。忘れていたのかもしれないけど、フィレンらしくない。連れ帰ったら即刻病院送りになって、入院。それから2日経った。さっきお見舞いに行ったところだ。
 石はもちろんだけど盗まれたまま。ミランに伝えたらさらに青ざめるかと思ったけど、「潮時かな……」って呟いただけ。ホント、よく分からない王様だよ。で、今は……。

『拠点探しって訳ですねー』
(フィレンがあーなってる以上、僕らの力で頑張らないとだからね)

 例の強襲の直後、探検隊内だけで会議が行われた。ミランは、二度失敗したとなってはこれ以上はとにかく警戒するしかない。結果、最後の石の在り処も教えにくいそうだ。僕等が突き止める訳にも行かないから、あいつらの根本を探りに行く。そこを叩けば無条件に僕等の方なのだから。
 だが、簡単に見つかればまず苦労しない。だからこそ、この、まだ何も起こっていない状態の間に出来る限りのことはするしかない。……とはいえ……。

(さすがにこれは……情報が少なすぎる……)
『本拠地、まぁこの島にあることは確かなのでしょうがねぇ〜。見つからないものですね〜』

 今来ているのは、島の南の方の遺跡。割と観光スポットとしてまだ機能はしているからポケモンも集中しやすいが、灯台下暗しともよく言う。こう言う場所が一番舐められないのだ。あと、ついでに僕等も観光的なサムシングを楽しむため、ってのもある。……僕等って言っても、天使さんだけだけど。

『“だけ”とはなんですか!“だけ”とは!むしろ私がいることを誇りに思うべきです!私がいるだけでもポケモン百匹連れてるようなものなんですから!』
(よく言うよ……)

 百匹どころか、一匹分にも値しない気がする。天使さんは『神様視点』で僕のことを見ているらしいから、周りの状況を観察するのは中々に長けてるらしい。長けてるらしい、だけ。むしろ、それ以外には傍観しかできないから何の役にも立たない。

(それよりというか、気になるところ見つけたら教えてよね?見逃したー、とかはやめてよ?天使さんの存在意義はむしろそこなんだから)
『なぁるほど、ではサンさんの存在意義はお茶目なボクっ娘で決定ですね!』
(決定するなぁっ!)

 はぁ……疲れる……。あぁーもう、顔に出てるのか、なんだか心配されてるよ……道行くポケモンに変な顔でジロジロ見られてるよ……頼むから何も思わないで、僕が悪いんじゃないんだから……。

『なぁっ!そんな!私が悪いみたいに言わな……』
(……ん?どうしたの?)

 天使さんの言葉が急に切れた。ちょっ、また用事とかじゃないよね!?

(……おーい)

 反応なし。あぁ、なんだか虚しかかな。心の中で『おーい』と叫ぶのがこんなに悲しいことだとは思わなかったよ。それから、長い空白が続いた。僕は道のど真ん中で突っ立っていて、邪魔になりそうだったので脇に逸れた。石造りの道、その両脇に一定間隔で設けられた柱に背を預ける。自然の緑と大理石の白色の調和が、なんとも見事に美しい。青い空の白い雲も、それはそれは美しい。

『……サンさん』

 返信あり。普段この本職悪魔がお喋りな分、この時間は長かった。

(どうしたの?急に黙り込んじゃったりして)
『……へ……さい』
(……うん?)
『……右手へ動いてください』
(あ、あぁ……うん……)

 いつもと様子がおかしい。ノリが軽くないのが一つ、皮肉が入ってないのが一つ。言われるがままに、僕は自分から見て右へと歩いた。遺跡の出口へ向かう道だ。……えっ、合ってるの……?

『その先に、紫色のポケモンが、いますでしょう?』

 確かに見える。視線の先には、紫と、ここからでは見えないけど、お腹が黄色のポケモン、つまりはガブリアスが歩いている。あぁ、本当にフライゴンの方が身長高いんだなぁ。

『彼に話しかけてください』

■筆者メッセージ
少しは手応え感じました。文字数も戻って来ました。……まぁ、1時間ほどオーバーしてますが
フィーゴン ( 2017/04/03(月) 01:21 )