七十一話 茜差す、閃光の後に
===前回のあらすじ===
自らを犠牲にしてまでカロトは最後までセレアを押さえつけた。粉塵爆発は室内に強く焼き付いた。この部屋で、残ったのは____
その前に。
目標『ターゲット』、捕捉『キャッチ』
空中、飛躍。体躯を右、腕は左。
指を鳴らして空気を揺らす雷音を纏う。
四肢を床に着地。敵は背後、これも挑発。
『ボルテッカー』発動。捕捉した眼前の一匹を狙う。
雷は地を這い、背を伝い、脇を掻い潜り、速く、疾く進む。
無防備確認、続行。矢はおろか、光陰よりも先を行く。音より疾る
青く、鋭く尖った光線は、真っ赤なマグマすら弾いていく。
『ボルテッカー』はマグカルゴに直撃。刹那の爆風、一閃の隙、後方振り返り。
読みを効かせる
『フェイント』、予想外からの攻撃は、強烈な爆発音と相まって大きくダメージを与える。
怯み確認、畳み掛け。『瓦割り』。手を平らかに、側転をかけながら軽快に接近。振り下ろしの反動には回転を使っていく。
決まり手。
読み込み。
後方から柱状の岩石接近、空気音を感知。
恰も その場だけ時が遅くなったように
腕は後ろに、目線は要らない
負荷、ゼロ。受け止め完了。反作用で少し崩れた
投射で返すが基本。
だが、最善手は投げ返すのではなくぶん回すこと。
薙ぎ払う
諸刃の剣だが壊れる寸前まで暴れればそれで良い
右突き、左払い、前方叩きつけ、後方裏突き
小さな体に遠隔武器はアドバンテージ
そろそろバラバラに砕け散る。
持ち場の中央に打ち立てて棒高跳びみたいに自分を跳ねとばす。柱の上に着地。『瓦割り』。脆い柱は上から瓦礫に変貌。
上から順に、尻尾と足で蹴飛ばしていく。命中率はまちまち。牽制力になれば良い。
警戒解除、『高速移動』で第二波に備える。
〜〜
爆煙が晴れる。残った木の葉は一枚もなかった。
倒れているのは、真っ黒に焼けたカロトとセレア、煤のきつい臭いが漂う。
衝撃、冷や汗が出る。
一匹いない
(影に紛れて回避したか……)
警戒
……後方、すぐさま身をよじる。翼の近くを『冷凍ビーム』が通過する。狙いがいい
対峙……する気は無いらしい。また闇の中。裏取りからの奇襲で片付ける気だろう。生憎範囲系の技はなし、探知も不可能、勘頼り。視界は常に広く。一瞬の風も、音も、逃さない。
何かと焦れったい、向こうが仕掛けない限りこちらが仕掛けられないのは分かっていても、どうにも。こちらの仕掛けを狙っている可能性もある。
暑さで考えが焦りに転換されているのかもしれないが、今はこの決断が一番と仮定できる。
斜め後方、直撃狙い
「『竜の波動』!!」
ドラゴンとしても気迫ある波動は、振り返りざまに決める。小爆発。右に逃げる影。巻き込みに成功した。
続いて『暴風』で優勢を……
あれ……体の……自由が……
「……『サイコキネシス』」
正面、クレイの冷酷な表情。右手は、何かを操り、支配するような格好。
どさくさ、というのに付け込まれたらしい。
やられた。
「……全く、こうも簡単に終わってしまうものなのか」
左手が放銃の構え。チェックメイトが見えたりまずい……!殺される……!
カロトの必死の抗争が無駄になる。
託された思いが水の泡になる。
体を……動かして……抗わなければ……いけない。
なのに、自分で自分は動かせない。
「所詮、私の見る目もそこそこだった、ということか」
『サイコキネシス』がさらに強まる。クレイの元に近づけられる。息が詰まって死にそうだ。迂闊になれば死にかねない。踏ん張り、目を瞑る。かろうじて開けたその視界。
暗闇に、一筋の光が差す。すると、進行方向も、置かれた状況も、全てが冷静に掴めた。
「……はっ…」
「……どうした。何がおかしい」
俺は……今すべきことはむしろこれだけ。そう思うと、『サイコキネシス』にだって抗える。
クレイの、彼の両肩をガッチリと掴み、抱き込んだ。
「なっ……なんの真似だ!」
「知ってるかい?うちの策士さんのことだよ」
クレイは動転する。その意味を感づかない。これが、勝機に繋がる行為とも分からないを
「心中でもする気かっ!!」
「どうやら分からねぇみたいだな」
心底、素晴らしい。パーフェクトゲームがここにあった。
「うちの策士さんはな……最初から……」
クレイは、ようやく意味を察した。厳密には、意味を音として感じた。後ろを振り返るがもう遅い。何しろ、俺の視界には……。
「二匹であんたらと戦う気は無かったんだよ」
もうフィレンが映り込んでいる。
「『インファイト』!!」
正義の拳は、素早く、連続で打ち出される。ゲーム終了。