疾風戦記















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五章-真実は嘘が語る-
六十九話 私の嫌いな貴方へ
===前回のあらすじ===
 戦闘開始、目標を死守せよ。



 足摺る音は、空間に強く響く。速度を緩和し、停止。フレアドライブ、重たい一撃。青色の体毛はまた少し焦げた。燻んだ視界を拭い去る。
一つ、相性の悪い相手は速攻戦に持ち込む。叩き込む。抑え込む。
 半歩、右足を後方へ。手を、赤土に付けてクラウチング。
前傾。重心が前方に傾き始め、速度の源を作る。

神風の速さで、たまにはガチろうか。

 足は、バネのように体を弾き飛ばした。数メートル先の標的まで、もはや秒では数えられない。それでも、一挙手一投足はブレさせない。
標的の眼前で静止、後ろに引いた手に力を込める。『インファイト』、防(まも)りを捨てた撃(せ)め。懐に潜り込めば、重たい一撃を何発も叩き込む。
緩急を付けて。
最後の一撃で、コータスを強く吹き飛ばした。内壁に当たり、最早動かず。標的を移す。まだあと十と何匹。
 正直、目を開けていた時よりやりやすい。
 青く揺れる波紋を追いつつ、カロトに受けた、俺への指示を反芻。タイミング的に大分先だ。まぁ余裕、むしろ上等。

 直上、跳躍。天井の小さな突起に手をかける。目を開けると、地盤が揺れていた。読み通り。左斜め下に視線を配ると、やはりボーバン。揺れが収まってから、体躯を回転させ、天井に足をつけて『神速』起動。降下の勢いで強襲をかける。また目を閉じた。



〜〜


 小声で、背中に乗っているゲーヴェに指示を送る。まぁ、いつも通り。僕の攻撃はたかが知れているだから、いつも通り発火材に点火がお決まり。だが、セレアは、これまでの戦闘の具合から耐久能力が桁外れであることが分かっている。はっぱカッターをばら撒いて、それにタネ爆弾では不足。しかし、これくらいしかまともな戦い方がない以上、この典型に何か一工夫が必要だ。

「……机上の空論、ってやつじゃねーのか?」

 やっぱり。疑問を投げかけられるも無理はない。多分、無茶だと思う。でも、

「失敗は、ゼロパーセント」

 先を読み切れ。頭脳しか取り柄がないなら、取り柄の頭脳で戦えばいい。

 頭の苗から、木の葉を飛ばす。開戦した。もちろん避ける。僕らも二手に割れ、ゲーヴェは右から竜の波動。貫通的攻撃で妨害を狙う。両者反応。回避に意識を撒く隙を狙って更に木の葉を撒き散らす。なるべく満遍なく。より多く、より拡散的に。

「『サイコキネシス』」

 セレアの目が青く光る。重力が複数方向から来たような感覚。体が動かない……どころか、息ができない。けど、冷静。視界の隅、クレイの攻撃をやり過ごしたゲーヴェが『火炎放射』でセレアを狙い撃ち。解除、対応手に『シャドーボール』。解放される。読み通り。これからも。


〜〜


 左へ。
だるい。眠い。暑い。活動を拒絶する三要素が集まってるけど、こんな状況で手を抜くのは正直ありえない。先頭が苦手なノンちゃんのお守りも任されてることだし、しゃーないしゃーない。ちょっと本気出しますか。
 視視界には全部映ってるけど、まぁここから仕掛けられるのは五、六匹が限界。『電光石火』の速さで仕掛け。ノンには、遠距離に絞れと指示は出してある。

 停止、方向変更はスムーズに。体を回転させ、尻尾を相手にぶつける。余裕ね。吹き飛んだわ。おそらく一発。二手目。接近を確認してから、地面に後ろ足を突っ込む。地盤がひっくり返り、近づいて来たモウカザルは勢いでぶつかった。畳返しっていうんだっけ、これ。まぁ、間違ってるんだろうけど。返した地盤を口に咥える。引き抜こうと思えば引き抜けた。ぐるぐる回転をつけてシュート。豪速球。あの様子だと、三体くらい仕留められたかしら。

 急に体が宙に浮いた。後ろ足を掴まれたみたい。体を捻ると、バンギラス。この体勢じゃ攻撃できない。大きく振りかぶって、投げ飛ばす。空気を切る音さえ聞こえる。赤色の、熱い壁にぶつかった。反作用でとんでもない力が自分の小さな体にかかる。ちょっとまずい……かな。

「……ありがと」

 立ち上がると同じタイミングで、『癒しの波動』が飛んで来た。私に当たって全回復。さっきまでの痛みはもうない。土と砂を払ったら、さぁ……。

「戦闘再開よ」

 

〜〜


 “カロトというナエトルの少年。彼の戦いは甘んじて見られない。隣のゲーヴェというオンバーンの青年に指示を送れば、形勢逆転の一手もあり得る。”
クレイからです。
だから、先の『サイコキネシス』で潰しておきたかったのですが、そうはうまくいかない……ですよね。
 『シャドーボール』と『火炎放射』で生じた小規模の爆風で、カロトを見失いました。舞い上がった葉っぱの二、三枚が燃える。成る程、おそらくはこれが狙いとみれました。ラレスからの情報通り。大炎上すれば、私はともかく、クレイが危ないでしょう。
 しかし、彼の話では、爆破の予兆があれば躱せるとか。私は耐え切れる自信があるので、なら良いのですが、劣勢に傾くのは良くないので、邪魔を狙います。仮に仕掛けられても特に問題なく、『冷凍ビーム』でどんな形にでも緩和できれば良いでしょう。

 強襲、左手。『悪の波動』。正確な狙いです。回避。ゲーヴェは、今の今まで頭がソアのようなものだと少し舐めていましたが、筋は良いようです。気が抜けません。

 あたりにはもう、結構な量の葉っぱが溜まってました。このままでは向こうの思う壺というやつでしょう。少し急ぎます。黒い翼が旋回……。私の方に竜の波動、余裕を作ってからクレイに急襲……。見えました。

「『冷凍ビーム』!!」

 不意につけます。反応遅延。ゲーヴェの左翼に氷塊が引っ付きます。

「ぐうッ……!」
「ゲーヴェ!!」

 上々。ここでゲーヴェを攻めれば倒せそう。ですが、彼に背後を見せるのは良くありません。

「『サイコキネシス』……」
「うぐッ……」

 支配。状態は完璧です。もはやここからの劣勢は考えられません。

「ひとつ、よろしいでしょうか?」

 念動力で手前に引き寄せます。苦しそうにもがくかと思えば、諦めたように案外従順なのです。首は力を抜いているように垂れていました。

「私の嫌いな方は、三種類ございます」

「一つは偽善者、一つは愚か者、そして、最後の一つは……」



「世間知らずの正義です」

 ピクリと、彼は動きました。

「私の嫌いな、あなた方を、私は倒すのです。何か問題ありますでしょうか?」

 何も知らないのに、私のことも分からないのに、出しゃばるとは愚の骨頂。私は、私の嫌いな正義を蹴散らすのです。これが私の正義なのです。

「……確かに、僕もその三つ……そんなに好きじゃないよ……」

 口が開きました。そりゃあ驚きます。こんな貧弱なナエトルが、私の『サイコキネシス』に抗っているのです。力を強めても、止まりません。

「けど……僕が嫌いなのは……もう一つあるんだ……それは……」

 顔を、こちらに向けました。眼は血走ってました。

「僕らの正義を否定する、あんたらだ!!」

 叫び。気付いて振り返ると、『暴風』が巻き上がり始めてました。

フィーゴン ( 2017/02/05(日) 19:39 )