六十八話 戦闘開始、作戦Aへ移行する
===前回のあらすじ===
僕らは遂に、敵を追い詰めだと思っていたけど、それは間違いだった。気がつけば立場は逆転していて、追い詰められているのはむしろ僕らだった。こんな時、もしかしたら、戦況をひっくり返してくれるようなポケモンは、彼しかいない。
「出口側三〇匹にはフィレンとボーバン!右側二十五匹はライとサン!左側二十五匹にはメグ、ノン!正面二〇匹にソア!」
「僕とゲーヴェで、セレアとクレイを追う」
声は震えていた。武者震いではなく、戦々恐々、の方だろうか。それでも、四つの足で少なからずまっすぐと立っていた。赤いマグマが瞳孔に映っている。皮膚を焦がす熱が彼を取り巻く。振り向かずとも、意を察せと。
鼻で嗤い、口角を上げ、強く頷き、策を肯定。
セイバーズは動き出した。
誰でもない、他でもない、パートナーを支えるために。
不安など、以ての外。その後、小声で伝わる細かい指令は、結束力を、縄のように硬く、太く強く引き締める。
戦闘開始。作戦Aが失敗したら、作戦Bに移る。作戦がなければ、その場で作るまで。
〜〜
ゲーヴェはまだ分かっていなかった。あくまで彼はそういう奴だが、カロトの実力と、クレイ、セレアの実力との差は明瞭。気でも狂ったか、それとも真っ先に楽になりたいのか。どっちにしろ、自分1匹じゃ倒せない。他も手が余ってない。頼るしかないものの、以ての外な不安はまだ多く。
重量は気にするほどでもない。飛行できる。低めだから、この体勢からの攻撃は不可能だが、回避はまぁやろうと思えば。長い廊下。クレイやセレアはさらに先に逃げる。これには追いつきようがない。
しかし、嬉しいことに、こいつらは止まってくれた。
最奥部。
左右の壁画はウインディを模した何かと、その他諸々、おそらくポケモン。ご立派な王冠は隣の白長いポケモンが備え付けているのが、眼前のやつ。それを挟んで中央に台座。
ここだけ壁画が描かれているのか……。いや、むしろ逆。元は洞窟内の大半に描かれていた壁画が、風化とマグマの熱で溶け出した、と考えるべきだ。そう思うと、この部屋は少しばかり涼しい。
「あら、こちらまでいらしたのですか?」
台座の上のルビー色の石にクレイが手を掛けた後、セレアがこちらの視線に気づく。
「残念だが、チェックメイトだ。逃げ場は無い上に、結局私達なら脱出も可能だ」
視線は、カロトに向けられた。
睨み合い。退かない。
「……有能なポケモンと期待はしていたが、こうなることは仕方なかったのかもしれんな」
「残念だけど、王手には早すぎるよ。僕にはこの状況の、一〇〇〇手先まで読み通す」
冷たい空気をだんだんとプラス方向に押し退ける。ヘタレはこの空間に1匹もいない」
「なら、もし私がもう一手先を見通せば?」
挑発句はさらに重なる。ピリピリとした臨場感は、まるでそこがドラマの舞台のようだった。限りないリアリティーと、それにそぐわないファンタジーがここにはあった。望みを絶つのが絶望ならば、希望は………。
「その時は、新しい一手でねじ伏せる」
望みを希求することから始まる。