疾風戦記

















小説トップ
五章-真実は嘘が語る-
六十五話  炎の抜け道
===前回のあらすじ===
 俺たちは『根源の洞窟』で『熱の石』の調査を行なっている。ここは俺には暑すぎて、満足にバトルもできねぇ。早いとこクレイを取っ捕まえてこの話を終わらせたい気持ちなんだが、やっぱダンジョンである以上、こういう戦闘は仕方ねぇのかもしれねぇ。


 ざっと五匹。種類も分かれている。この前覚えた『波動弾』が貫通でもすれば、一気に倒せたりできるのにとか、妄想に耽る。その妄想に引き摺られてか、それとなく『波動弾』で攻撃してみるが、遠距離射撃がこんなに難しいなんて……。
 洞窟内の湿度は異常だった。普通になんて戦えない。サン、ライ、その他数メンバーは何事もないように、むしろ外よりは心地よいかのようにしているが、俺は体から汗が滝のように出て止まらない。足元の陥没したところにドロドロのマグマが溜まって池みたいになっている。何も考えていなければ足を突っ込むところだ。
 何発かの『波動弾』の後、遠隔を諦めて接近。『火炎放射』を読み込んで先手に回避。『神速』で裏取りを狙うが、近くに別のポケモン。今更気付いて、気を配っていると、また振り出し。接近に失敗。

「……くそっ!」

 汚い言葉で吐き捨てる。額の汗を拭き取った。落ち着こう。考えよう。だけど、こんな時に限って頭はショートしたように、バグったように、正解を一つも導き出してくれない。余計、頭を掻きむしり、時間も過ぎていく。洞窟内、且つ敵は五匹。こんな局面、今まで何度もあったはずが、どうしてか、何も閃かない。
 視界の隅、ノンちゃんが映る。赤い体の機械質な細い腕から、必死に攻撃を行っている。向こうの方は、ノンちゃんがうまく戦えていないのを察しているのか、集中的に攻撃を行っている。それに一生懸命対応している。
 あれ……?対応漏れが見えた。後ろのバクーダに気付いていない……!『岩雪崩』。ガラガラ、という岩音に気付いて振り返ったみたいだ。けど、遅い。

「ノンちゃん!危な……」

 何とかしなければ、という思いが助けの手を差し伸べようとする。その手の先を、風が通り過ぎた。黒色の翼が彼女を覆う。ゲーヴェ。オンバーンの、最近入ってきた探偵を名乗るポケモン。ソアとトークが弾んでいたし、根っからの間抜けなのかと思っていた。ゲーヴェはノンちゃんに何かを叫ぶ。おそらく技、『癒しの波動』をお願いしたのか、ノンちゃんはそれに応じてゲーヴェの体力を回復する。そして、ゲーヴェが『暴風』を作り出して、一掃。俺がノンちゃんにしてあげたかったのは、まさにそれだ。

 先を越された、って感じがした。額に手を添える。また苛々した。思い通りにいかない不自由さ。もどかしい。

 ここでようやく、自分が冷静じゃないことに気付いた。ずっとそわそわしていることに気付いた。単に暑いとかじゃない。遣る瀬無いこの気持ちを何処へも発散できなくて、不完全燃焼でもしたように頭を故障させていたのだ。
 そうだとも。敵は五匹、狭い洞窟内、ここに息がつまる暑さ、これが加わった局面だって、今まで散々見てきた。俺は、ここのギルドに入るまで、ふわふわと浮かれた旅をしていたんじゃない。
 右手で、右頬をパチン、と叩いた。それも少し強めに。赤くなっているのでは、というくらいジンジン痛む。眠気は元々なかったが、何か醒めた。
 集中。
 額の汗を拭った。


〜〜


 最後の一匹を、フィレンが放った『波動弾』が綺麗な青い軌道を描きながら倒したところで、僕はホッと息を吐いた。こんな場所で、おそらくとてもバトルに集中なんてできないはず。その環境下で、あそこまで頑張れるフィレンに、僕は尊敬の感情すら憶えた。相棒として、誇らしい限りだ。
 そこからしばらく一本道になった。そこを歩いている間にようやくカロトがボーバンの上で起きた。水と、冷やしておいた氷枕を与えたところ、歩けるほどにまで回復したという。『光合成』の力ってすごいなぁ。内壁は、さっきより深部にいるのかさらに赤みを増した。ポタポタと、天井から何かが垂れていると思ったら、マグマだったりする。壁がなくなり、開けた場所に出たと思ったら、地面の大半がマグマだまりだったりする。ここまでくると、僕も暑いと感じる。なのに、フィレンもメグも、もう文句を吐かない。慣れたのか、あるいはそれほど疲れたのかは分からない。
 少し広いところに出た。そこには、ポケモンが待ち構えて……あれ?

「……倒れてる……な……」

 遠目からでも確認できた。あれはヒードラン。マグマの中に住んでいるとか何とか言われる、伝説上のポケモン、というのが設定。四つ足で、体の一部が自分の体内のマグマで溶けている。そんなお偉いポケモンは、引き連れているマグカルゴもろともボロボロにされていたのだ。

「大丈夫か!おい!」

 フィレンが真っ先に近づく。何かをボソボソと呟いているのに気づき、フィレンは耳を傾けた。

「クレイ……この先行ったってよ……」
「……なんだと……!」

 やっぱり情報はどこかから漏れていた。これは、どこかに諜報者がいると考えるのが妥当。でも、お城の中には誰もいないはず。一体何処にそんなやついたのか……。

「まずい……おい、急ぐぞ!早くしないとまた持っていかれる!」
「ですね。ゆっくりしている暇はありません!」

 ライの呼びかけに全員が頷く。ノンを看護に残そうとしたが、「構わず行ってくれ……」と、ボソリと言ったため、ノンは、後ろめたい気持ちになりながらも僕らと一緒に先を目指す。


〜〜


 最深部。炎をくぐり抜けた一番奥は、とても広かった。地上にはない力でくり抜かれたような、そんな大きなホール状の一部屋。そこに最初に辿り着いた時、一番目を引いたのは、真ん中にポツリとあった黒い影……。

「待て!クレイ!!」

 こちらを振り向く目は、前に森の中で相対したときと変わらない。何もかもを凍らせるような冷たいもの。でも二度目だ。屈しない。

「もうおいつめたよー!逃がさないよー!」

 各々が、かっこいいセリフを言おうとしたところを、ソアに一番乗りされる。何とも微妙な空気が少し漂うが、ここで、ライがカロトに確認を取っているのが見えた。カロトが頷くと、ライは前に出た。

「さてと、あんたを洞窟の奥に追い詰めたは追い詰めたって状態だが、賢いあんたなら、こうなることくらい分かってたんだろ?」
「……どういうことだ?」
「話は耳に入っていた。とはいえ、だからと言って一番乗りしたところで、お宝探しに入った場所が『洞窟』なら、一番乗りした奴が負けだ。入り口に戻る時間の何処かで出くわすのは見えている」
「……何が言いたいのか、と聞いている」


「あんた、俺らを消すことを考えたんだろ?」

 マグマがポッと弾けた。室内の温度が少しずつ上がる。

「俺らが執拗にお前を追い回しているからな。邪魔者は潰したい。そこでお前は、一つの作戦を立てた」

「元々、お前は、情報の伝として、何処かにポケモンを忍ばせておいていた。……いや、最初は別れて行動するつもりはなかったが、物の流れでその方針を定めた……ってところか」

 クレイは黙っている。ポケモンを忍ばせた……やっぱり。クレイはそうやって先回りしていたのか。でも、ポケモンを忍ばせた……としても、何処にいたのだろう。僕は、このことを再びじっくり考える。情報漏れするならお城の中だけなのだけど、謁見の間には誰もいなかったし、いたとしても、あのキーンが気付く。ずっと怖い顔をしていたけど、あれはおそらく周りに誰もいないことを確認していたのだろう。それに、一度目はもしかしたら警戒を緩めていたなかもしれないけど、二度もそうはいかない。そこまでうまくいったらこんな国、本当に終わりだ。……ということは、いわば諜報者というのは、実は……。

「そして、その忍び込ませたポケモンと、あらかじめ用意した手下とで、混乱を狙って強襲……ってのを、何処かで行う……つもりだった」

「そして、それがここ。この部屋の中に、見れば二〇はいるか。これ、隠すって言わないぜ?」

 クレイの顔は徐々に険しくなり始める。ライは、余裕があるかのようにニヤリと嗤ってみせる。

「さ、もう自分でもそろそろ気付かれてるって分かってんだろ?」

「早く前に出てこいよ」

 ライは後ろを向いた。彼が呼んだ名前は……。

■筆者メッセージ
フィーゴン先生の次回作に……という打ち切りではありません。
次、誰が呼ばれるかと、簡単ですので予想しながら待っていてください。多分、呼ばれるのは一週間後です。
フィーゴン ( 2017/01/08(日) 23:03 )