疾風戦記

















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五章-真実は嘘が語る-
六十一話 不安感を煽りたくて
===前回のあらすじ===
 セレアさんが加わり、探検がより一層楽なものになった。寒さだけが唯一の敵だけど、余裕を持って先へ進めている。でもどうやら、ギルド内では何やら不穏な空気が流れているようで……。


「連れてきたぞ」

 フードコートの一角、一際周りからの視界に入りにくい席に、カロトはいた。メグも感はいいので、例の石に関することだとはそれとなく分かる。だが、カロトがここにいるのはおかしい。確か、探検中のはず……。

「ありがとう、ライ。助かるよ」
「ねぇ、何であんたがここにいるわけ?勝手に抜けてきたのなら私としても見過ごせないんだけど」

 ひょこっと椅子に飛び乗り、尻を付いてどっかりと座る。距離を縮めて、尚且つ形相を怖くしたせいか、カロトは少し怯えた。視線をライの方に移すが、お品書きを持ってウェイトレスにコーヒーを注文している。こちらを見てくれないあたり、内心は少し楽しんでいるのだろう。

「じ、事情があって……だから……」
「はぁ?」
「い……いや、だから……」
「何それ」

 一単語にかけられる重量はカロトには強すぎた。完全に萎縮してしまい、頭の苗も少し縮こまっている。沈黙したのが悪くしたのか、メグは大きなため息を一息。そして、大儀そうに言葉を連ねていく。

「私もね、面倒ごとは起こしたくないの。わかる?あんたはあくまでギルドの模範生な訳。そのあんたがルール破ってどうするの?まったく……」

 グレンがお盆を頭に乗せて来て、ライのそばに置いた。コーヒーはライが取り、ミルクティーはメグがとった。カロトはココアをメグから恐縮そうに受け取った。ズズーッと、音を立てて飲んでいく。ミルクの匂いと砂糖の甘さが口の中を温めた。

「……で、要件は?くだらないことだったら容赦しないから」

 コトッ、とカップを置きふたたび睨んだ。カロトはまた小さくなるが、ココアを口に流し込み、飲み込み終えると、決断でもしたかのように向き直った。

「このことは、他言無用でお願い」

 真剣な表情になってから、メグはテーブルにもたれながらもカロトの話を聞いた。


〜〜


「今日も終わった終わった〜」

 フィレンは気持ちよさそうに伸びをした。今日のは少し手こずったけど、この三匹に死角はなかった。連携が良く、フィレンが回復アイテムも持ち合わせているため戦型がなかなか崩れない。
 熱源を発見し次第、僕はすぐにその暖炉に近づいた。まるで体中の皮膚が完全に再生するような気分だ。炎から上る煙も一切気にならない。口元が緩み、恍惚な表情になる。

『本当に寒がりですね、私もですが』
(この体だと、寒さにはやっぱり勝てないよ、どうしても)

 身近に炎タイプでもいればいいのだがとつくづく思う。できることなら暖かいところで何時間でものんびりとしていたいのだが、メグが許さないだろう。

「お、ライにカロト。それにメグ、こんなところで何してるんだ?」

 フィレンが声を発した方を見ると、その三匹がフードコートを後にしようとしていた。

「話し合いだ。石の件についてでうちのギルドも警戒を張ろうか、ってな」

 ライが答えた。メグが急にライの方を見て少し驚いたような素振りをしたように見えたのが見過ごせない。嘘を言っているのだろうか。

「それでも、カロトがここにいるのはおかしくない?カロトはゲーヴェやボーバンと探検していたはずだよ」

 そうだったはずだ。僕は少なくともそう聞いた。僕等の帰りが少し遅かったとはいえ、探検を途中で抜けなければ話し合いなんてできない。

「私が呼んだの」

 僕の言葉を切り裂くように割り込んで来た。

「こいつの頭だけじゃ不安だからね。事情をつけて戻させたわ」
「そ…そうなんだ、急に帰ってこいって言われた時はびっくりしたよ……。あはは……」

 それとなく作り笑い。フィレンは気にしていない。むしろ、「そうだったんだな!」って笑ってるよ。

「おー、結構集まってんじゃん!どうしたんだー?」

 ここでソア二号が追加された。ゲーヴェ、続いてボーバンものそのそと入って来た。少し雑談だとフィレンが説明する。なんだか久しぶりにこれだけ集まった気がする。残るはソアとノンの二匹だ。この空気でソアが来るのは危ない気がするが……。

「ひゃっほーぅ!寒〜い!」
「ま、待ってくださいー!」

 案の定。足にバネでも付いているかのような軽快なステップ。おそらく、寝ていたソアを起こしたのであろうノンが参入。フードコートのポケモンの密度がさらに上がる。

「わぁー!いっぱいいるー!何してるのー?何してるのー?」

 体の周りをくるくると回ったり、八の字を描いたり、やりたい放題だ。ノンは漸く追いついて、息を切らした。よく見ると、ソアの右手にはA5サイズの紙が握られていて、くるくる回るとともに、紙も靡いていた。

「ソア、それ……」
「ん……あ!思い出したー!」

 手に握られていたものの存在すら忘れていたらしい。合点、と、手を叩いた。付いていく身として心配になる。

(ソアって、何歳くらいなんだろう……十か十一ならまだ分からなくもないけど……)
『人間でいう十、十一歳はどうだか知りませんが、ソアさんの歳は、どうやら十五のようです』
(十五……え!?)

 やはり異質だった。こういうキャラクターは、過去に壮大な闇を持っていることが多いけど、ソアは昔、何かあったのだろうか……それとも、単にバカなだけなのだろうか。

「ジャーン!ミラン君からお呼ばれされちゃったんだー!いーでしょー」

 内容はどうやら、明日の午前中、国王さんの所に向かうということの様子。早く言いなさい、とメグが言ってくるのかと期待したが、そうでもなかった。

「そっ。じゃ、明日に備えて私はもう寝るわ。起きなかったやつから順に巴投げね」

 イーブイが巴投げをするのか……という疑問はさておき、メグは、背を向けて地下に通ずる階段に向かった。去り際、メグが誰かをちらと見た気がしたが、早すぎて確認はできなかった。今日のメグは少し妙なところが多い。

■筆者メッセージ
一週間更新が飛んだ上に、思ったように書けませんでした。反省したいです。スマホは戻って来ましたが、今度はテストです。遣る瀬無い気持ちです。
フィーゴン ( 2016/12/04(日) 23:55 )