疾風戦記

















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五章-真実は嘘が語る-
五十九話 不信感に問いかけたくて
===前回のあらすじ===
 『神隠しの森』で、石を守りきることができなかった僕らだけど、クレイのことをずっと追いかけているというセレアを情報源に、彼について話を進める。


「まず、僕は祠に着く前、広場でのポケモンとの戦闘の時に、視線を感じたんだ。一瞬で背筋が凍るような、とてつもない眼光だったと思う。初めは宛もなかったから分からなかったけど、よくよく考えれば、あれはクレイで間違いなかったと思う。帰り道にそれに気付いて、大急ぎで引き返したんだ。事情を伝えれば、もっと上手くできたよね……」

 ごめん、と申し訳なさそうにまた会釈しました。同じように気を遣っていると、謝りグセは良くないぞ、とフィレンさん助言しました。苦笑しながら彼を見たあと、前を向いて、急に顔をしかめました。誰かに何度も指摘されて、それに苛立っていいるかのような。一息、ため息で次の段落へ移ります。

「案の定、見つけたんだ。黒色の影で、間違いなかったと思う。初めは逃走ばかりだったけど、こちらから攻撃を仕掛けたら応対してきてね。瞬間的に付近に移動する手段があるらしくって、背後からの『冷凍ビーム』で即死だったところだったよ」

 『冷凍ビーム』。氷タイプの強力な技。私、ドラゴンタイプにとっては致命傷になる技。ですが、サンさんは地面・ドラゴンタイプと、ドラゴンタイプの中でも取り分け氷タイプの技には弱い。ので、致命傷、では済まされません。私の知らないところでそんなことが起こってしまっていたなんて、と、申し訳なさが込み上げます。顔にも出ていたようで、メグさんから深く考えなくていいから、と言われました。身長差から、椅子を介しても上目遣いのはずなのに、その目には説得力があります。

「とりあえず、隙を見ての『爆音波』。これに狙いを絞ったから、まずは技を避けつつ、カウンター気味に『地震』を狙ったんだ。そのために『ドラゴンクロー』と『地震』を同時に使って、それで……」
「ちょっと待って」

 サンさんの話をカロトさんが遮ります。

「クレイって、浮いてるんじゃないの?地面タイプの技は有効とは思えないけど……」
「えっと……何と説明すればいいのやら……」

 サンさんは恐らく、『人間の頃の知識』を利用してダークライに地震が有効であるという結論を導いたのでしょう。しかし、私達がその『人間の頃の知識』をまともに理解、もしくは把握できるかを悩んでいるのでしょう。

「その点については、私が説明を」

 困っているサンさんに手を差し伸べたのはセレアさんです。凛とした顔が何とも頼もしいです。

「ダークライは、本体も元より『影』でできています。地面から浮いているように見えますが、実際のところは地面に干渉していて、いくら上空に向かおうと、直下の地面が揺らげばその影響を受けてしまいかねないのです」
「そう!俺も同じことを考えていてのさ!」

 ゲーヴェさんがセレアさんに同調します。つまり、浮いているように見えても影は影。ということだそうです。目に見えていることが全てではない。優しい旅ポケモンの二匹が、いつしか何度も教えてくれていた気がします。

「なので、『ドラゴンクロー』が命中したように、『地震』も同等に命中したのです。ですから……その……つまり……」

 セレアさんは、急に目線を揺らしました。目線の方向を見ようとしましたが、すぐに、何でもありません、と言葉を添えて顔を上げてしまった。何を見ていたのかは、はっきり言って分からなかったのですが、兄さんやカロトさんは何か勘付いたような顔をしています。

「ステータスは」
「レベルが75。それ以外は覚えていないけど……技なら、『悪の波動』『冷凍ビーム』『ダークホール』『サイコキネシス』の四つだと思う」

 フィレンさんの質問も汲み取ります。強敵なのでしょう。私は、ドラゴンタイプであると同時に、エスパータイプという、悪タイプに頗る弱いタイプも兼ね備えています。気を使うべきでしょう。

「……まぁ、僕から話せるのはこれくらい……かな……」
「情報ありがとう。助かる」

 兄さんが感謝を述べます。情報、に、他意が含まれている気がしてなりません。

「それじゃ、お開きにしよう。親方」
「ふぉっふぇー!……かいさーん!」

 今までずっと黙っていたと思ったら、特等席でお菓子を頬ばらされていたようです。ポロポロとクッキーの欠片が溢れました。急いで全て飲み込みましたが、解散の号令の後再び間食を再開しました。


〜〜


 深夜。もはや誰もが寝静まったその頃に。ライは廊下を歩いていた。静か過ぎて気味が悪いほどのこの空間で、ライが目指していたのは……。
 ノックを二回。ガチャリと音を立て、隊員用の部屋のドアが開かれる。月明かりが、窓の外に配置された光に反射されているだけでとても暗い。

「……起きているだろ?」
「……まぁな」
もぞもぞと、紺色がかった毛布が動く。黒色の大きな翼が目立った。

「話がある。少し付き合ってくれ」
「眠いからな、少しだけだぞ」

 ゲーヴェはのそのそと布団から這い出た。

フィーゴン ( 2016/11/06(日) 22:27 )