疾風戦記















小説トップ
五章-真実は嘘が語る-
五十八話 違和感を追い詰めたくて
===前回のあらすじ===
 クレイと戦闘になり、初めは好調だったものの、それが返ってクレイに本気を出させてしまった。状況がどんどん悪くなる中、ようやくカロト、ボーバンたちの応援が加わり、その場はなんとか収まった。けど、過度の怪我で僕は立っているのもやっとのくらいで……。







彼らは理由を求めた。
彼らは結果を求めた。
彼らは理想を求めた。
彼らは感情(こころ)を見なかった。

 冷たい声だったんだ。

「お前なんてもう必要ない」

 聞きたくない言葉だったんだ。

「居なくたって別にどうだっていいんだよ」

 体自体が拒絶していたんだ。

「生きている価値もないくせに……」

 動悸がどんどん早くなる。

「一体何の為にここにいるんだよ」

 目の近くが熱くなる。心の麻疹に僕は罹(かか)っていた。
 僕は……僕は……僕は……僕とは……。


〜〜


 毎朝見ているせいで、目に焼き付いている、土の露出した天井が視界に広がった。皮膚には布の感覚。だけど、汗でもとはふかふかであったであろうそれはぐっしょりと濡れている。
 体を起き上がらせた。頭痛は無し。頭の包帯はもう外してもいいだろう。それよりも、先程まで悪い夢を見ていたことを気にかけた。まぁ、もう忘れてしまったから深く考え込むこともないだろうけれど。

『いけませんよー、もしかしたらその夢の中に重要なメッセージが織り込まれているのかもしれないですし』
(……あぁ、天使さんか。おはよう。そうは言っても、忘れたものは忘れたし、しょうがないんじゃないかな)

 声が急に聞こえたからギョッとした。まだここでの生活にも完全には慣れきっていない。この部屋は僕の部屋だということは分かるとする。視界にはノンが、代えの包帯を抱えたまま丸椅子の上で寝息を立てている。
 ベッドから降りる。少しふらついた。足だけが酔った人間の様。頭が重い気がして、バランスを取るのが苦難。それが滑稽なのか知らないが、笑わないでほしいと天使さんに訴える。何とかノンの元へたどり着いたので、軽く揺すってみるが、しばらく起きそうにない。流石に放っておくのも気が引ける。そして、元男としてその性格を疑われる。まず、今にも腕からこぼれ落ちそうな包帯をベッドの上に運び、今度はベッドから毛布を一枚引っ張り出してノンの肩から羽織らせる。僕の面倒を見てくれていたのだから、ちゃんと礼は言わなければならない。ので、布団の上にメモ書きを残して置いた。『また几帳面ですねー』なんてからかわれるのを予想していたが、

『字、汚いですねー。想いがこもっていない!』

全く別方向からのそれも少し気にしていたところに毒を吐かれたのには萎えた。形自体は、三角形や四角形、点や線の組み合わせに近い為、シンプルではある。元より英語が得意分野である以上、その関連で、他国の言語は一定までは基礎を積めば習得は早い。が三本指という点が難易度を想像以上に引き上げているのだ。これでも上手なつもりだが、ミミズとアリと、三角屋根の小屋が出てくる、ぐしゃぐしゃの四コマ漫画でしかない。『字が汚くてすみません』と書き添えようとしたが、『汚い』の意味の語彙をまだ持っていないため、別の言葉でそれっぽい内容を加筆した。

 寝息を立てる綺麗な赤いドラゴンを起こさないよう、ゆっくりとドアを開け、廊下へ。誰もいないとは珍しい。いつもよりも、階段がよく見える。ギルドの探検隊は、出勤時間が一律に八時と設定されているため、昼間にこの廊下で見かけるポケモンは少ない。だから、今は昼である可能性が高いが、時間が分からないのが辛い。腕時計とか、そういう類のやつを買うべきなのだろうか。
 いや、まず、今はそれが重要なんじゃない。ついこの前、僕はクレイに、まぁ最初は押していたけど、後半、完膚なきまでにボコボコにされた。で、ありながら生きている。僕が『爆音波』で呼んだ応援に応じてくれたボーバン、カロト、ランペア、新規でゲーヴェ、彼らがクレイを追い払う、または捕縛したことで事はまとまったのだろう。よく思い出せば、あの時僕を助けに来たポケモンは、もう一匹、クレセリアがいたはずだ。僕は面識がないが、カロトたちは知っている風だったので、味方と考えていいだろう。
 クレセリアといえば、ゲーム上でもダークライとは対になる関係のポケモンだ。恐らくはクレイと何らかの関係を持ち、そして、僕等にとってもプラスになる話もあるはずだ。だとすれば、今、メグやライも含めて、クレセリアと会話をもっているのだろう。

 ポケモンの出入りが多く、早くも老朽化が進んでいると思しき階段。一段一段をゆっくりと踏みしめていく。ふらつく感覚はもうないが、段々に積まれた石が今にも崩れそうで恐怖心を掻き立てる。上階のフードコート、その一角に、ポケモンが密集していた。それとはかけ離れてピカチュウがいるのはとりあえずスルー。陽気なルカリオがこちらに気付き、手を振った。それを見て、他のポケモンも一斉にこちらに注目を向ける。群衆の中央にいたクレセリアは、黙って静かに会釈した。その隣で、オンバーンが翼の先の三本の赤い爪をかざして笑っている。


〜〜


 サンが復活したため、セレアの話と、戦闘の様相とを、総合して話を進めることになった。セレア自身も、クレイの技構成などは把握していないらしいので、貴重な情報源。セレアとサンが軽い自己紹介を挟み、寝ていて事情をよく知らないサンがまずは質問から入る。

「それでさ、結局クレイはあの後どうなったの?」

 クレイの逃亡を抑止した後、力尽きてしまったという話だ。帰ってきた時も、夥しい出血だったので、この質問の理由については簡単に理解できた。

「クレイはボーバンに追跡させたけど、結局逃亡。石も持っていかれちゃったんだ……」

 この質問には、カロトが、すぐさま答える。申し訳なさそうに、「ごめん」と付け加え、頭の苗もそれに順応して萎びたたため、サンは手を振って気にしていないとジェスチャーで表現する。

「国王さんにそれ伝えたら、顔を青ざめてな。というのも、その森の石を所定の祠に納めなければ、どういう原理でか、悪いポケモン……というか、気性の荒いポケモンが多発するようになったんだってさ。この調子で残り二つが無くなれば、まぁ無法地帯そのものだろう」

 続いてライが話を繋ぐ。石の重要性は説明を受けていなかったため、そこまで意識は強くなかったが故か、サンは自分のしてしまった大きな失態を悔やんだでいる様子だ。気にすることない、とフォローを入れても、耳に届いている風がない。

「クレイは、次は別の石を狙ってくるでしょう。しかし、場所がまだ特定できない以上、下手に動くことはできないはずです。が、となると、身を隠すのが最善のため、彼の捜索は依然として困難です」

 セレアの言葉も刺さり、さらに落ち込んでいる。ここは、気を利かせて何か話題を変えてやるべきだろう。話も思うように運ばせなければならない。俺なりにでも、どうにかできるはずだ。

「そろそろ、サン、お前の戦った実感を教えてくれないか?」
「そうね。この会議が長引いている原因もそれだし。早く終わらせてくれる?」

 最後の最後に出てきたのがこの言葉だった。メグも珍しく俺に同調。こいつは損得ではなく、面倒の度合いで決めているから、当然といえば当然かもしれない。サンはゆっくり深呼吸をした。また、いつものように、誰かに強制的に励まされたように急に立ち直り、俺らに向き直る。

「大まかに……で、いいかな……?いろいろあって、正確には覚えていないんだよね……」

 ボヤきながら頭を掻いた。自己主張というか、自分の意志が相変わらず弱い奴だ。初めてあった時からこんな調子だ。本当にあいつに似通っている。疲れたようにため息をついてしまった。らしくない。
 ここで、ノンちゃんが階段を登ってきた。看病ご苦労様、と労ってあげた。ライのやつから視線を感じる。

■筆者メッセージ
追記:12/23 一部、文を挿入しました
フィーゴン ( 2016/10/30(日) 20:00 )