疾風戦記















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五章-真実は嘘が語る-
五十七話 純真の罪
===前回のあらすじ===
 神隠しの森に、クレイが来ていることをいち早く察知した僕は、みんなを置いてすぐに帰り道を引き返した。黒い影を発見し、追跡すると、そこには背筋が凍るほど冷たい目を持ったポケモンがいた。どうやら戦闘は免れられない様子。倒すのは無理でも逃亡を阻止できれば……。



 念のため、もう一度ステータスを盗む。僕より段違いに早く、段違いに強い。技が見れればかなり大きいのだが、冷凍ビームしか割れていない。相手は確実にこちらを狙ってくる。だから、回避に専念した戦いをしたい。攻撃の隙を作るのは難しいが、少なくともあの氷のレーザーには当たりたくない。そして何より、隙が見えたらやりたいことは……。
 技の体勢。手は前ではなく地面。冷凍ビームはない。なら他の技。ダークライの持つ技といえば……。黒色の手の先から、紫がかった黒い球体が、地面に半分埋まった形で二つ発生。操作主が手を振ると、合図を聞いて半球が地を這い、動き出す。『ダークホール』。飲み込まれれば、夢の中に閉じ込められる……と、表現すればまだファンシーな響きだが、その実、待っているのは悪夢。平面状の時でも相当警戒すべき技だ。こちらでも対応はきっちりしておかなければ命とりなのは知れている。右、空中と、順に回避。球体は、早くてよくは覗き込めなかったが、中は、技名通り、“穴”というのがふさわしい。先の見えない暗闇は、少し見ただけでも不安と恐怖を感じた。

 反撃。技の発動にはもう少しかかるはず。即時性の利く技が欲しい。速さでいえば『地震』。だが、もっと早く。もっと強く。あの時も使った技だ。
『ドラゴンクロー』発動。そのまま『地震』。また、手がどうにかなりそうな力がかかる。不安定だが、火力も即時性もある。青紫色の亀裂が直線的に伸びる。第二波を用意していたクレイは回避に回る。ブレの少ない動きには、付け入る隙をあまり与えてくれない。が、一方的な展開は食い止めた。
 クレイ、手から再び球体を作り出す。今度のは紫が強く、地面にも埋まっていない。『シャドーボール』。ゴーストタイプの強力な遠距離技。高速で飛んでくる。が、照準が僕の中心線の左上に少しだけずらされているあたり、おそらく牽制に使っている。誘導は辛いが、回避に専念する他ないし、当たればそこを突いてくる。でも、強引にでも相手の狙いから外れに行かなければ。
 『岩雪崩』起動。壁を築いて上に逃れる。僕が空中に逃れたところに、悪タイプの強力な遠距離技、悪の波動を打ち込んで来た。ここは急降下で意表をつく。その勢いで『地震』をかける。決まった。ヒット。地面タイプ最高峰は伊達な火力では収まらない。隙は逃さない。『ドラゴンクロー』でさらに畳み掛ける。一発目は命中。二発目の発動中に大きく後退されたことにより回避される。勢いよく振った手が空を切り、体勢が整わない。狙ってくる。すぐに羽ばたいた。体勢は悪くとも直撃は避けられる。空への逃げには成功したが、直後、自分の足に冷たい何かを感じる。

「……ぐっ……!」
『大丈夫ですか!』

 痛い。足が腐って落ちそうな、使い物にならないような。そんな感覚だ。長期戦は不可能。だったら、本当はもう少し安定した時にやりたかったのだが、むしろ今が一番いい頃だと考える。遠くまで、響いてくれ。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 『爆音波』。キーンと、耳に響き、クレイを威圧する。地面より少し高い位置にいたこともあり、音波は森の木を揺らし、空気を唸らせ、陽の光さえ捻じ曲げる。成功だ。


〜〜


「クレセリアの……セレア……さん……?」
「はい、それが私の名です」

 礼儀正しく、挙措がの一つ一つが美しい。三日月を思わせるそのポケモンはクレセリア。セレアと名乗った。

「その件ってのは、サン……俺らの仲間が今相手してるやつのことか」
「はい、彼の名はクレイ。ダークライというポケモンであり、私の因縁の相手でもあります」

 言葉一つ一つは冷静沈着としているが、とても熱のこもった眼差しをしていた。史実でも、クレセリアのとダークライは、互いに義と悪を争っていたという記述は多い。というのも、ダークライは『新月の使者』、クレセリアは『三日月の使者』なんていう呼び方をされることが多く、そういう伝承の方面でも、彼等の対立はお伽話としてもよく扱われる。

「私は彼を追跡してこちらに赴きましたが、途中で見失い、この祠にたどり着いたのです。そして、再び別の場所を探そうと後にしようとした時、彼は現れ、セレビィを襲って祠に祀られていたものを……私は、すぐに眠らされてしまい、何もできませんでした」

 申し訳ありません、と付け加えて頭を下げた。いやいや、と、こちらからも労いをかける。

「つまりは、セレアさん、あんたはそのクレイってポケモンがどっちに向かったかは見てないんだな?」

 ゲーヴェが正しいことを言ったせいで、少し拍子抜けたが、まぁそうだ。となると、頭数が増えただけで実質進展がない。だが……。

「ある程度なら掴めます。私も彼をずっと追っているので、彼は、どこかへ赴く際は、逃げる場合を想定して必ず、“入り組んだ場所”を確認しておいている、ということは分かります」

 入り組んだ場所……僕はランペアに目線をやった。ランペアはうなづくと、地図を取り出し、僕にも見えるように屈む。ここから東の方は、洞窟や泉などが点在していて逃走には有利だ。

「つまり東側……。でも、情報が少ないなぁ……せめて、北側、南側、どっちに逃げたかまで分かればいいんだけど……」
「そこまでは私も分かりかねません……」

 俯き加減になられて、かえってこっちが恐縮してしまう。場所の特定は困難だ。ここは分かれて探しに行くのが妥当だが、交信手段もなしに森の中を単独で行動するのは危険を伴う。どうするべきかと悩んでいた時だった。

 遠くから、耳鳴りをも起こすような大きな音が響いた。驚いて肩をすくめる。が、少し頭を回せば、その訳はすぐわかった。もしかして……!

「『爆音波』だ!」

 方位は南。つまり、サンはその方向のどこかにいる。セレアさんの情報も総合することで、場所を特定できる。南東、ここまで分かれば、話は早い。

「ボーバンには僕が乗る、ゲーヴェはランペアを乗せて!セレアさんは……念のためギルドに!」

 指示通り、僕はボーバンの肩に掴まり、ランペアはゲーヴェに。だけど……。

「いえ、私もついていきます。私も、何か尽力せねばなりません」

 セレアは自分の意志を通した。いざという時のため、安全なところでいておいてもらいたいし、それに……。僕は少し悩んだ。けど、おそらく彼女を説得できる要素はない。

「分かった。だけど、念のため、ボーバンとゲーヴェの間を飛んで!」
「分かりました」

 再び深い礼。挙措と心の清いポケモンだ。つくづく思った。


〜〜


 伏線は蒔いた。そこからすこし。使えない足は二本に増えていた。ここで片翼を失えばゲームオーバー。向こうもそれが分かっているせいか、背後を常に狙ってくる。相手の当初の狙いは、『あわよくば倒す』だったのだろう。だが、さっきの爆音波の意味はすぐに理解されたらしく、『早く終わらせる』に切り替えてきた。並大抵じゃない。動きが見えない。
 『サイコキネシス』により、付近の大木の枝がへし折られ、鋭い凶器となって僕を追尾する。右へ低空飛行で逃げる。回避方向も読まれているらしく、逆も突かれる。それに気づいては重力に逆らい、また体力がすり減る。岩雪崩で何本かあしらうが、そろそろ限界。一本が抜けて来た。そして……。

「……!がああぁっ!」
『サンさん!』

 右腕。痛みと共に赤黒い液体が滴り落ちる。すぐに引き抜き、必死で抑えるが、治らない。止まらない。クレイの方を見る。攻撃体制は『冷凍ビーム』とよく分かる。照準、入った。狙いがブレていない。ダメだ……!このままじゃ……。

『サンさん!屈んで!』

 とっさに天使さんから指示が出た。痛みをこらえて頭を下げる。



「『火炎放射』!」

 クレイは『冷凍ビーム』を中断。回避に移った。後ろを振り返る。火の源はボーバン。間に合ってくれた。続いてゲーヴェ、そして……知らないクレセリアもついて来ている。

「……ちっ……もう来たか……」

 攻撃をやめ、クレイは逃走に戻った。石はまだ持っている。

「待ちなさい!」

 クレイに向かってクレセリアが叫ぶ。だけど、大丈夫と制してカロトが指示を出す。

「ボーバン!僕を下ろしたら追跡お願い!」
「おうよ!」

 着陸し、カロトを下ろすと、再びボーバンは羽ばたいた。クレイの行く手を追う。

 僕は、急に力が抜け、視界が暗転して地面に落ちた。それからは、幾らかか話しかけられていたようだけど、あまりよく聞こえていない。

フィーゴン ( 2016/10/23(日) 16:11 )