疾風戦記

















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五章-真実は嘘が語る-
五十五話 探偵ごっこはお遊び程度に
===前回のあらすじ===
 謎を解き明かし、神隠しの森の最奥部に辿り着いた僕等。セレビィのレビィの案内で森の祠の中を見たけど、森の石は既に無くなっていた。どうやって探そうかと悩んでいた時、ソアではない、空気を読まない声が聞こえてきた。


 オンバーン。種族名はそれだ。僕と同じドラゴンタイプだが、あちらは地面ではなく飛行タイプ。コウモリに似た外見で、紫と黒をベースとした体。耳は……まぁポケモンで例えるならドゴームだろう。体格にそぐわない大きさだ。音を使った攻撃が主体。僕の持ち技でもある『爆音波』を彼も使える。何かと種族での面では共通点はあると思うのだが、性格では真逆だろう。西洋の一昔前にありそうな、茶色ベースのチェック柄の帽子。鹿撃ち帽、という名前だと聞いたことがあるが、今は関係ない。そいつをかぶり、右手には虫眼鏡。左手には手帳。服は着ていないからポケットは当然ないし、鞄も持っていないのだが、明らかにペンがない。メモ帳に挟まっている様子もない。それではもはやただの紙束じゃないか!というツッコミが炸裂しそうだが、初対面だからさすがに無視。でも、陽気なナンパ好きルカリオの面影は感じてしまう。

「……誰だ?」

 開口一番はボーバン。威嚇気味。面倒ごとはお断りの姿勢だ。しかし、怯みもしていない。ど天然ピカチュウの面影を感じてしまう。

「さすらいの探偵……てとこだな! ゲーヴェって名前だ。事件の匂いがしてな、ついて来させてもらったぜ!」

 ドヤ顔気味。この世にはこんな奴もいるのかと思うと、世界はまだまだ広い。ゲーヴェは僕らを見回してから、奥の方に目をやる。

「見た所、祠の中の……なんかが盗まれたみたいだな!この事件の真相を解き明かしてやるぜ!」

 これはメグに飛ばされる。ただでさえソア単体でも心労担っているのに、さらにもう一つ疲労の種が増えてはいけない。

「「「「お断りします」」」」
「何でだよ!」

 口裏を合わせてはいなかったが、綺麗に声が被った。そもそもに、これに任せるよりもカロトに頼んだ方が断然早い。僕らは互いに顔を見合わせて、異議がないことを確かめ合う。

「……分かった! そりゃあパッと出てきた奴が本当に探偵かどうかなんて分からねーよな! それなら仕方ねーよな!」

 そこじゃない。うんうんと自分で頷いているが、そこじゃないのだ。信頼の度合いよりも、信頼していても任せてはいけないポケモンが存在することを認識してほしい。

「なら、この事件を俺が解き明かして証明してやるぜ!」

 人の話を聞かないタイプだ。早速レビィの方に歩みを進めている。話の概要を聞きに行くのだろう。自由奔放はつくづく困るとため息を吐いたが、そこで少し気になった。僕らを“つけて来た”と言っていた。こちらとしても、尾行されていた気は殊更なかったのに。


〜〜

 ある程度、犯人の特徴は絞ることができる。一つは空中を進めるということ。ここに来るまで、僕等も経験したが地べたを歩き回っているだけではたどり着けない。宙に浮く、あるいは低空飛行が出来なければここにたどり着くことも出来ない。木の枝を伝って進むことも、出来なくはないが現実的ではない。そして、そもそもにこの場所に石があると知っている者。これについてはミランやレビィくらいしか知らなかったが、石が盗まれているということは情報が漏れていると考えるのが妥当。となると、トレジャータウンの住民である可能性が濃厚。

『あとはー、鍵のかかった祠を容易く開け、中身を取り出しもう一度錠をする、このプロセスを安易にできる、ですかね』

 エスパータイプだろうか?いや、でも、同じエスパータイプであるレビィが、自分と同タイプのポケモンの存在を忘れるとは思えない。だとすると、合鍵を作れるポケモンであればいいのだろうか。

「クレッフィだ! 犯人はクレッフィだな!」

 なんか言ってる。ゲーヴェのドヤ顔が再び。僕と同じように考えたのか、あるいは単に鍵を開けられるからという理由か。クレッフィとは、鋼、フェアリータイプの鍵束の形のポケモンだが、トレジャータウンではまず見ない。そして、体は宙に浮いているように見えるが、地面からの影響はちゃんと受ける。除外。親切にランペアが指摘してあげると、「だよな! 俺もそう思っていたぜ!」だって。いよいよフォローのしようがない。一通り考え込んで、結論を出して犯人を仕立て上げては否定されてのサイクルを繰り返した。そのうちに、さすがに学習したらしい。迂闊には答えを出さないようになった。……と思ったら……。

「考えるよりも先に、現場調査だ! あたりを調べれば何か出て来るはずだぜ!」

 ツッコませるためにやってるだろ。故意にとさえ思われる気分転換をはじめ、祠の周囲をくまなく調べる。虫眼鏡で調査しているため、野草観察にしかみえない。
 結局何も出てこなかった様子だ。

「次は聞き込み調査だな! 何か不審な点を探し出していけば答えにたどり着くはずだ!」

 だから、そうじゃないのだ。ゲーヴェが先立って行動している限り、一向に話が進展しない気がする。カロトが

「レビィさん、最近石について何でもいいので話はありますか?」
「えーっと……二日前……かと思いますが……定期的に手入れをしているため、祠を開いて磨いた後、また祠に戻しました」
「その時、鍵は?」
「閉めました。確認もしました」
「その瞬間を誰かに見られたということは?」
「有り得ません。ここには私くらいしか来ませんので……」

 筋の通った質問だ。手際よく進めて行く。

『さすがはうちの策士ですね』

 事件というのはこういう風にテキパキと進まなければならない。僕等も早めに退散しないと帰りには日が暮れるし、ソアも探さなければならない。

「その手入れ道具を見せてもらえるかい?」

 ゲーヴェが割り込んで来た。いやいや、そうじゃないだろう。手入れ道具を見て何をするつもりなのだ。

「結構ですよ。確かあちらの物置に……」

 そしてレビィも何でそれを素直に受けてしまうのか。ボケが高度でツッコミが追いつかない。レビィは祠から少し離れたところにある、これまた緑に近づいてしまっている木製の物置の扉を開ける。ガサゴソと中身を探ると、いろんなものがこぼれ落ちた。
 鏡、ウインディの形の置物、それから何冊もの新聞、そして緑色の石……。

(緑色の石!?)
『あぁ、そーゆーパターンでしたかー』

「レビィさん、ストップストップ!」

 僕が呼びかけると、不思議そうな顔をしながらこちらを見た。そして、足元に目をやる。少し固まってから、その石を拾い上げると……ゆっくりとこちらに目線を合わせる。

「て……てへっ……?」


〜〜


 彼女のおっちょこちょいに付き合わされて、日が沈みはじめた。何度も謝罪したため、さすがにもう許してあげよう。なぜか僕らについて来ているゲーヴェが自分の手柄のように喋っているが、そうじゃないだろ、と、ついに声を出して突っ込んでしまった。ボーバンが。今日はどれだけ無駄に1日が過ぎてしまったかと思ってうなだれた。帰ることになったが、飛ぶ体力なんて残ってないのでやはり歩き。また落ち葉の踏みつける音を聞きつつ木の隙間を練り歩いた。夕日が頭上を綺麗に色づかせ、そろそろ星も見えはじめている。ようやく綺麗で幻想的だと思えた。ホッとその光景に癒しを感じた、その時。

『……?どうしたんですか?サンさん』
(いや……少し…)

 身震い、というか、嫌な予感がした。そういえばあの時。あの石の解読をした時に感じた妙な何かにも似ている。影が二つ。黒……黒……。冷たい視線……。

(……そういえば……!)

 カロトは言っていた。前にラレスと戦った時に、もう一匹ポケモンがいたと。

 僕は逆方向に駆け出した。仮説が正しければ、この森の最奥部に来たのは、僕等とゲーヴェ以外にもいる。仮にそうなら……今の頃には……。

 周囲に注意を払い、奥を目指して低空飛行を続ける。一瞬右目にに映った黒い影を、見逃すことはできなかった。名前は確か……。

『クレイ、でしたよね』

■筆者メッセージ
メグ「新キャラよりも私らを使いなさいよ!ネタ切れでもないくせに!」

展開の速さはご愛嬌。遅く、緩やかにしようとはしているのですが、どうも自分には腕が足りないようです。でも、ここから先はずっと自分が書きたがっていた領域なので、しっかりと練りこんで書き進めたいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
フィーゴン ( 2016/10/09(日) 20:39 )