疾風戦記

















小説トップ
五章-真実は嘘が語る-
五十四話 神隠しの抜け道
===前回のあらすじ===
 『神隠しの森』の調査に来た僕等。危ないところをなんとか凌ぎきったものの、森の奥へは不思議な力が働いて進めない。おそらくは、僕が見つけたあの文章が関係しているんだろうけど……。



 国王さんもなぜこれを教えてくれなかったのか。絶対知っていたはずだし、知らなかったらそれこそ国王さんの威厳とかいろいろ関わる。木の葉は少し赤みがかってきれいにはなっているが、見飽きたというのが正直な感想。空が青く澄み渡り、こういう天気ならゆったりと焼き芋でも頬張りたいと思うところだがむしろ澄み渡った青さに苛立ちさえ感じる。風が空気を冷やして、夏の終わりを告げるが、ただ寒いだけ。全ての美しき情景と呼べる要素は否定的にしか取れない。何周目かわからないのが一番の原因として……。

「いい加減不毛だと思わないか?」

 この少し気不味い空気を切り出したのはボーバン。さっきまでソアがいたので多少空気はは温まっていた。そう、『さっきまで』。主に先頭あたりに出て来たポケモンを倒して行こうという名目で前の方に配置してもらったボーバンが歩みを止めると、それに倣ってランペア、次いでカロトを背負った僕も止まる。

「仕方ないさ。もしかしたら進んでいるのかもしれない。気持ちは分かるが落ち着いて行こう」

 思わずナイスと言いたくなるフォロー。だけど、現実から目を離しているようにしか思えないしそれに……。

「サンが提示したその……何だった……?あれの意味を汲み取るのが重要なんじゃないのか?」

 情報は共有しておいたが、両方とも閃かなかったらしい。


「……『道を歩けば進めない、道を拓けばすぐに迷う、道を歩かず道を進め』……」

 道がゲシュタルト崩壊した。歩けば進めないなど、矛盾でしかない。最初にランペアに話した時は考えれば考えるほど分からなくなるとでもいうかのように唸っていた。よもや、とんちではないだろうかという説さえ出ている。歩きながら考えているが、無論、閃くわけもない。だけど、道に従って歩かなければならない、というような意味ではあるし、道を無視して突っ込むことはできない。すでに一匹が実行してしまっている。

『苦戦しているようですね』
(高みの見物だろうね、そっちは)
『いやはや、サンさんが苦しんでいるところは見ていて楽しいものですよ』
(いつも通りだね、もう慣れたよ)

 ははは、と笑い飛ばしながら。ようやく、この“駄”天使の性格を理解した。理解したら、悲観的にしかならなかった。

『まぁ、正直私も分からないんですよ。歩くな、進めってのが。車とかでもあれば歩かずに済みますけど、こんなところに持ってこれるわけもないですからねー』
(……車……そうか!)

「分かった!」

 途端に叫んだため、ボーバンが肩をビクつかせた。やっぱり、空気が澄んでいて声がよく響きやすい。

「何だ、急に」
「答えが見えたんだ。歩かずに進む方法」

 車で閃いた。移動する手段は別に歩くだけではない。歩かなくてもいろんな方法で進むことはできる。もちろん、ここにはそんな便利な機械は存在していないが、それでも僕らにはまだ別の方法がある。
 何が言いたいって、まぁ、歩けなければ、道に沿って『飛べばいい』だけだってこと。カロトの頭があればどれだけ早くに解けただろう。知能指数の差を感じた。


〜〜


 飛びすぎると枝が邪魔なので、なるべく低く。ランペアはボーバンに乗ってフライトした。すこし先に行ったところで降り立てば、今までのところよりも鬱蒼と草が茂り、背の高い木々が空を覆い尽くしている。あっさりでは済まない程、簡単にたどり着いた。木漏れ日が綺麗に差し込み、この風景を一言で表すなら、『幻想的』。
 背中でもぞもぞと何か動いた。カロトが復活したらしい。あの一発の流れ弾で、体感三時間分は眠りについていたのか。身体能力の差を感じた。
 目の前の風景で最も目につくのはやはり、何百年も生きていそうな真ん中の大樹。苔がこびりついて緑っぽい色に変色し、その色は結び付けられている注連縄にも移っている。大樹の下にはこれまた苔がこびりついた人工的な建造物……こう表現すると無機質そうだが、実際のところは自然と同化してこれには命が吹き込まれています、と説明を受けても納得できる。元の世界でいう祠そのもので、観音開きのドアはサビが目立つ……と思いきや、鉄製でもなさそう。

「お待ちしておりました!」

 神秘に胸を打たれているところに、ポケモンがパタパタと飛んできた。外観はいかにも妖精。小さな羽、ぱっと見ると野菜か何かかとも思える。セレビィというポケモンだ。

「私が、この森を守っているセレビィのレビィです。ミランさんからお話をいただいた探検隊の方ですよね! どうぞこちらへ!」

 話をさらさらと進めていく。レビィに促されて祠に近づくと、レビィはあたふたとしながら鍵を取り出し、カチャリと捻った。
 中を覗く。小さな紫のクッション。何も置かれていないが中央が凹んでいる。蔦やらが中にまで入り込んでいて、祠の中でさえやや緑色だ。

「昨日の朝、この祠を確認したところここに置いてありました森の石がなくなっていたのです! きっと心無い方に盗まれたに違いありません!」

 確かに中にそれらしきものはない。クッションの下ももちろん。確かに盗まれたようだ。

「何か心当たりとかはないんですか?」
「それが全く……森の守りはいつも万全でしたから……」

 となると、ますます分からない。そもそも、道具自体がまぼろしのような存在だとされていたのに存在を知っていて、尚且つ場所を特定し、さらりと掠めとる。そんなことが可能なのだろうか。こんな時、探偵のような枠が一匹でもいれば、証拠を立て続けに抑えて事件解決! まで持ち込ませられるのだろう。その役はカロトにさせるのが無難だろうか。

「話は聞かせてもらったぜ!」

 僕、おそらくボーバンとランペアも、そんな考えで相談しなくとも結論に至ったところで、元来た道から間抜けそうな、どことなくフィレンやソアに似た気のするような声が聞こえてきた。KYが五時間以上僕らの周りにいないと世界が崩れたりでもするのだろうか。

■筆者メッセージ
〜その頃のギルド〜
メグ「ソアがいなくて本当に開放的だわ〜」
ノン「その分暇ですけどねー」
フィレン「ノンちゃん、暇なら俺と喫茶店にでも行かないかい?」
ライ「消されたいのか?」
ノン「フィレンさんは優しいし、素敵だし、かっこいいから大丈夫だよ、お兄ちゃん」
フィレン「ふぐぁっ!!」
ノン「フィレンさん!?」
メグ「あーらら、自滅したか」

頑張って、今日中に何話か書き溜めます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました
フィーゴン ( 2016/10/02(日) 20:00 )