五十三話 やっぱり予想外は道端に
===前回のあらすじ===
王様の依頼で『神隠しの森に調査に来た。だけど、急にポケモンとの戦闘に持ち込まれる。天使さんからは『仕方ないですよ』と言われたし、どうにかこうにかやりくりして、目の前の4匹が片付いたところで見つけたのは……。
たった一文だけの刻印だった。むしろ、ただの岩の形状と言っても通るほど見えづらい。度々飛んでくる波動弾やソーラービームに注意を払いつつ、岩の冷たさを感じ取る。
(おそらくは何か関係があるんだろうな……way、道って単語も使われていることだし……)
『おお!でかしましたね、サンさん!こういう時は役に立ちますね!』
(一言余計だ!)
目を瞑ったまましかめっ面になる。いつか何らかの方法で罰を与えなければ気が済まない。とりあえずは解読開始。一文だけなら数十秒で余裕だ。文字を頭に。頭で言葉に。言葉を小声に。一つの作業を目から頭に、頭から口に、順を追って流れさせる。ただの模様でしかないはずの羅列に、一つの意味を綴っていく。
(……読めた)
『おおー、早い。こっちの文字を覚えるのはあれだけ遅かったのに』
(一言余計だって!)
プププと、苛立つ僕をやはり笑う。もう、構っていたら先に進まない。
(………………って内容)
『……はい?いや、全然意味がわかりませんが……』
(だよね、僕も全然分からない。でも少なくとも……)
謎も冒険も、迷宮入の匂いがした。ただの忠告とも捉えられるだろうと考えて、他のところに援助に向かった。低空飛行は早いけど転びそうになる。落ち着いていこう。周りに警戒を払いつつ。
ヒュン、と、音がした気がした。振り返っても何もない。でも一瞬、自分の影が二つあるように見えた。
〜〜
「よっと、『電磁波』。頼んだよ」
「了解、『ドラゴンクロー』!」
ランペアが足を潰していたおかげで技か当てやすい。鋭く尖った爪が光の弧を描き、相手の脳天に振り落とされる。致命傷になってか、そのまま倒れてくれた。ふう、と技を解いて呼吸を整える。
後方で音がした。まだ、ビークインが残っていたようだ。油断大敵とはこのことを意味するのか。振り返るが遅れている。
「危ない危ない、と」
「ギャァァァ!」
『電磁砲』。電気タイプ最高峰の技。おまけに麻痺まで狙えるのだが、癖があり当てるのが至難だ。だが、熟練なのか、偶々か、直撃を狙えたようだ。腰が抜けてしまいそうだ。
「あ、ありがとう……」
「いいよ、でも気を抜かないように。ボーッとしているといつの間にか誰かに足元をすくわれているかもよ?」
笑いながら僕に手を差し伸べた。好青年だ。鉢巻以外は。手を取り立ち上がる。さっきまで生い茂っていた草は地面が見えるほどにまで禿げている。さらりとソアの方を見た。パチンコ玉という表現がいいだろう。とにかくそんな感じで飛び回り、あらぬ方向に軌道を変えたり、変な体勢で技を放ったり、やりたい放題。あれはしばらく放置でいいだろう。それよりもカロトを探す。さっきの例の文について、意見が聞きたい。6匹ぐらいが集中しているところにいた。ボーバンも近くにいるが、もはや気づいている様相でない。彼のバトルのスタイルはやはり荒れ狂うなのだろうが、それにしては合理的な動きをしている。正しく狂っている、という変に文学的な表現にしか行き着かないので、言及はよそう。
「あぁ……」
「ありゃりゃ、ダメだったかぁ……」
そして、やはりカロトはダメだった。流れ弾で倒される光景はなんとも儚い。回収だけはしよう。踏まれる前に。
避けつつ、当てつつ、戦線の中に飛び込む。泡を吹き、揺すっても反応のないカロトを僕の背に乗せることにした。そのあたりにはもうボーバンが近くを完全に片付けてくれたらしい。そしてソアの方は、敵さんは倒れてるのにまだなお飛び回っている黄色いパチンコ玉がある。呼びかけると止まった。よく考えれば休憩のためにここに立ち寄ったのだ。カロトは休憩どころかオーバーキルだが、寝かせてやることにして僕らで食事を楽しむことにした。リュックの中はぐちゃぐちゃだった。
〜〜
先を目指す。ただただ歩く。冗談半分で飛びながら進んでみる気も湧かない。鬱蒼とした森は景色が変わらず、地図は役にも立ってくれない。自殺するのに樹海がいいとは、誰にも見られないからなのだが、実感が湧いてくる。こんな経験二度とないだろう。
「ねー、まだー?まだー?僕疲れたー」
歩きたくないとその場にへたり込む。まぁ、自分勝手は分かっていたがリーダーがいないと探検にもならないのでボーバンの体の上に乗せてもらうことにした。6キロぐらいならそこまで変わらないだろう。
木の葉を踏む音。
「……また広いところだな」
「え!ほんとー!?」
急に活気を取り戻し、光が追いつかないくらい速く走る。どこからその体力は沸いてくるのだか。
『なんか見たことある光景なのが気になりますね……』
(……まさかね……)
真ん中に石。それを囲むように大きな木。空は依然澄み渡り、綺麗な秋晴れを見せている。やはりまったく同じだ。
『ループしているね』
(迷い込んだようですね……この一本道のはずの迷路に)
どこにも分岐はなかった。右に曲がり続けている実感もなかった。何か、言い寄れぬ力が働いている。これを解くのは、先ほどの岩に書かれた文が、やっぱり関係しているんだと思うけど、ゆっくり考えても分からないものはわからなかった。