七十二話 戦線確保の後に
===前回のあらすじ===
カロトの必死の抵抗により、セレアは倒れた。そして、クレイもまた、カロトの残した術中にハマり……。
「ホントにドンピシャだったなー!」
「全くだな」
フィレンがカロトから受けた指示……爆発音が聞こえたらどんな状態であっても奥の部屋に急行すること。たとえ爆発音が聞こえなくても、相手の数が二割以下になったら向かうこと。この二つだけ。全て読んでいた、と言うことだろうか。一命は取り留めたカロトだが、回復するまでは口をきけない。
「……心配です……」
「安心しなさい。オスならあれくらい食らって当然よ」
あの後、僕は百匹近くいたポケモンを残さず倒し、奥の部屋で戦っていたクレイとセレアを拘束して帰った。形としては…….圧勝かな?帰り道は長かったし、歩いているうちに夜が明けてしまったけど、みんな理由を悟っているから疲れたとかはソアしか言わなかった。寝ていて逃げられ骨折り損はホントに御免だ。
「……全く、地面タイプのお前がまさか、今までお前が『地震』の使い方を理解してなかったとはな……」
「あぁ、あはは……まぁね」
『ほんっと情けないですね!』
(あんたのせいだろっ!!)
石は見事保持。念のため、今はフィレンが持っていて、警察署長でもあるキーンがクレイとセレアを引き取りに来るついでに渡すつもりだ。カロトを除き、全員がノンの『癒しの波動』で回復ている。でも、どうやらオボンの実は支給されたみたいで、ソアがさっきから小さな口で早くも三個目に手を伸ばしている。町の広場のど真ん中、ボロボロのダークライとクレセリアを縄にかけて見張っている。ガーディさんと一緒。まぁあまりいい気分じゃないと言うかなんと言うか。ジロジロと見られていくためどことなく晒し首の気分だ。
……というか遅い。キーンは真面目な奴だと思っていたからこそ、この遅刻は意外に思う。
「……おい、動くなよ。何もできやしないだろ?」
フィレンが、グラッと動いたクレイに話しかける。
「……まさか、勝ったつもりか?」
「……はぁ?何言ってんだよ」
フィレンは聞き返そうとした。あの時、あのインファイトが決まった時点でもはや全てが決まったも同然なのに、揺さぶりやハッタリをかけているのだろうか。ぼそりと呟いた言葉の意味を聞き返そうとしたフィレンだったが、それも遮られる。
「失礼、大変遅れてしまいました。深く謝罪します」
義理と予定調和っぽさと格式の挨拶。キーンが深々と頭を下げた。
「遅かったな、急用でもあったのか?」
「国王様と少々、本事件に関して対談を執り行っておりました。故、報告を受けたのも先ほどでございます」
あー、でも、一歩も引かないな、これ。流石というか、性格を全うしているというか。
「それでは、私が責任を持って牢獄へ連行いたしま……」
「ねーねー!!」
キーンの話をソアが遮る。「ちょっと、ソア!」ってメグ。あぁ……疲れてるから早くして欲しいのに……。
「きみだーれ?」
一瞬でその場が凍りついた。
「……まさか……な」
ライが呟く。
「……どなた、と問われましても、私はキーンにございます。国王様の右腕としてお支えしている……」
「えー、ちがうよー?キーンはキーンだもーん。きみキーンじゃないでしょー?」
ソアの発言は、意味のわからない妄言とも取れるが、今回のは妄言として言っている気がしなかった。
「何を言われようと、私はキーンで……」
「誰でございますか?私のドッペルゲンガーを演じているのは」
声の主を振り返った。……キーンがいた。
(……キーンが二匹!?)
『おおー、面白くなってきましたよー!』
(面白がってる場合じゃないでしょ!!)
双子なわけない。でも、外見がそっくりの二匹だった。
「先程、私に対して今回のミッションの成功を伝えられたと伝達係のガーディからお聞きいたしました。誠、偽物がおられると私の仕事に支障をきたすためやめていただきたいのですが」
かなり怖い顔だ。この前メグと言い合ってたときよりさらに一段と。
「……つまんねーな、こんな早くバレるか?ふつー」
急に語調が変わる。
風が切れた。目標は……やはりクレイとセレア。縄が切られる。『辻斬り』という奴だろう。零コンマ一秒以下の早業は、誰の目でも追えなかった。そして、徐々に『術(イリュージョン)』が解けていく。
「悪りぃーけど、うちにこの二匹はまだ必要なんでね」
ゾロアーク。にひっと嗤うと、『火炎放射』ばらまく。フィレンが反射的に避ける。瞬く間、空気を大きく揺らして、クレイとセレアを両脇に抱える。
「無様だねー、何されたんだい?」
「……済まない。作戦は失敗した」
「問題なし。むしろ、好都合なもんでね」
ボソボソとした話し合い。フライゴンは耳がいいのかな、とか考えてる場合じゃないけど……。ここで一考。謎のゾロアークは担いでだと攻撃を振り切るのが精一杯、でも、好都合ということは……何か裏があるということ。ゾロアークがクレイと同じクレセントのポケモンというのは確定で、おそらく援護部隊みたいに、クレイの作戦が成功しても失敗しても、同伴して帰り道を手助けする予定だったんだろう。でも、これじゃゾロアークも力尽きちゃいそうだ。それなのに好都合……。
《バカだねぇ〜、嬢ちゃん》
……!そうか!
《俺が……》
あの時と同じ……。
《こんなことを一匹でやると思うかい?》
周りを見渡す。屋根の上に接近する影をいち早く見つけた。
飛翔。狙いを定め、突っ込んでくる相手に『ドラゴンクロー』をぶつけにいく。
どうやらバシャーモ。軽やかなステップで家を飛び越えてきている。僕にも気づいているようではある。
「『ドラゴンクロー』!!」
渾身の振りかぶり。正面から急接近、目標をリーチに捉えた。
空を切った。周りを見回す。右にも、左にもいない。……陰った視界で意味を察した。上。飛び越えてくる。振り切られた。まずい。前傾で飛んでいたため、切り返しには時間がいる。なるべくノータイムを目指し、空気を蹴った。バシャーモは、手に『炎のパンチ』を構え、そのまま広場の中央に降り立ち、地面を抉った。手の炎が地面をさらに焦がす。
ゾロアークの攻撃を切り返したみんなは、中央に降り立ったそのポケモンを見つめた。
うち、一匹は呆然と立って、目を見開いた。
「……アルト……?」
フィレンだった。バシャーモは抉れた地面にまっすぐ立った。