疾風戦記

















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間章 -4-
〇.七話 インダストリアル・ジャングル
 父親は優秀な木こりだった。水タイプではあったが、むしろ水タイプだったからこそ木の育成に相当な理解力を深めていた。子供のころはよく父の仕事を見せてもらいに行ったし、汗水垂らして働く現場のポケモンたちの顔も、今でも鮮明に覚えている。
 私は………いや、「僕」は父親の仕事を誇りに思っていたし、周りからもとても必要とされる素晴らしいものだと思っていた。



 産業革命、というやつだった。向こうのほうで木材に代わる新たな建築用材が現れた。おまけに機械化のせいで大量生産も可能。木材よりも「安全」で「信頼」できて「長持ち」するというのが特徴だと広められていた。当然、こんな変動は当然、木こりの父親にも少なからず余波として伝わってくる。収入は減る。木をこっても、売れないうえに元より燃料としても不向きだったのがダメ出しだった。父親は早い段階で職を変え、家族共々都会へとなだれ込んだ。
 しかし、自動化の進み始めた世界に職業なんてほとんど残ってはいなかった。「僕」達と同じ道をたどった田舎育ちたちが、貧困街なるものを作り上げ、治安は悪くなる一方。父親は力仕事ができた分にはどうにかというものはあったようだが、それでも扱いとか、そういうのはほんとに悪かった。今でこそ余生を楽しんでいて来れているが、当時のあの頃の父親の心境はとても複雑だっただろう。



 経営学を志し始めたのはこのあたり。手を付けられてはいたが、変化し始めた経済構造の中では事前知識なんて歴史と同等。ほとんど独自で研究も進めた。現在定められている労働基準、それから新技術導入に要る経済的影響の論文、あれは僕と同僚が築きあげたもの。もう惨状は目にしたくなかったからこそ熱中できた。お国に渡したら即座に対応してくれた。僕…いや、「私」のできることはすべてやり尽せたと思った。山の木が、手入れもされずに放置されるのは、見るに堪えなかっただけが心残りに過ぎない。




〜〜


「…今月分の予算案です。ご拝謁ください」
「あ、ありがと。ソアよりも十倍は仕事が早くて助かるわ。おかげで明日は早起きできそうね」
「何か予定でも?」
「王様に呼ばれたってソアがちょっとね。六時が待ち合わせらしいわ」

 経理については、習得していたのが私くらいだったためか、事務関連の仕事を半合法的に手伝っている。正直、これくらい貯蓄があるなら損失もいたくないが、彼女は倹約癖が強いらしい。まあ、それでも簡単に処理はできる。探索のない日はこうやって一日を過ごしている。

「……メグさん」
「ん?何?」

 パソコンのキーボードを打ち終えて伸びをするメグがこちらを向く。

「仕事……とは、何でしょうか」
「…………は?なんて?」
「いえ、なんでも。それでは」
「…………ならいいけど………」

 ぼそっとでも、口からこぼれてしまったあたり、まだ僕はあの時代に未練があるのだろう。でも、それでも別段どうということはなった。昔はよかったが、今が悪いとは思わない。





 昔だって、今だって、誰もが真剣に働いているのだから。
 

■筆者メッセージ
いろいろあって急遽、書かせていただきました。誤字、脱字が大量と思われます。
本当はコラボキャラの話をすべて書ききってから投稿したかったところでした。
許してください。できる範囲で何でもしますから。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
フィーゴン ( 2016/07/09(土) 01:33 )