四十九話 緑のマフラー
屋外。日も暮れた暗がりの中、一匹のポケモンが騒がしいギルドの前を通りすがっていた。不夜城をちらと見ても、無視しているかのよう。付近の街、トレジャーランドを目指している。外へ星を眺めに来たライとボーバンは、そのポケモンを目撃した。暗くて所持品、装飾品なんかはまるで見えないが、確かにそこに影があった。この街が平和ボケしていても、流石に夕暮れに一匹で出歩く奴は少ない。不審に思ったのか、ボーバンは声をかけるためポケモンに近づいた。
「なぁ、あんた」
ヒトカゲはこちらを見た。呼ばれたことに気づいて足を止める。
「何か用かい?」
「いや、ただこんな時間に一匹でってのが気掛かりでな」
遠目では見えなかったマフラー、その下からぶら下げられたペンダント。不夜城の光を少しだけ反射していた。
「寝床を探していてね。修業中の身で、野宿は避けたいと思っているんだ」
何でもこの日は静かなところがいいらしく、このギルドはお気に召さなかったらしい。話しているうちにライも近づいてきた。
「なるほどな……名前は」
「ラウス。君たちは?」
「俺はボーバン。こっちがライだ」
遠くの山から徐ろに月が見え隠れ。太陽の上端がもう少しで沈む。
「……そうだ、修業中、何だろ?なら……」
一抹の風。日の光が消え、青みがかった月が浮かび始めた。
「俺らと、戦ってみるかい?」
微風は青い草を揺らした。月下に三匹。互いを見合う。
「……だが、どうするんだ?一対一だと一匹参加できないし、二対二だと一匹足りない。乱闘でもしてみるつもりじゃないだろ?」
ラウスの提案は尤も。ボーバンもいい案が出ずに唸っている様子。
「……それなら、もう心配いらなそうだぞ」
ライが呟いた。エスパーお得意の『予知』、だろうか。ライが見た不夜城から、一匹のポケモンが出てくる。逆光でシルエットしか見えなかったが、徐々にその本体を表す。黄色いやつ。頭には『ラノンちゃんラブ!』と書かれた特製ハチマキ。デンリュウのランペアだった。
「話は遠目から聞かせてもらってたよ。二対二で、丁度……でしょ?」
月は雲に隠れた。日の明かりを失った地面がさらに暗くなる。
〜〜
ライとラウス、ランペアとボーバン。双方、タッグを組むのは初めてだが、バトルには慣れているため苦ではない様子。雲が取れ、月が露わになるその瞬(とき)を狙う。
再び、草が青みを帯びた。
先手はライ。『火炎放射』。牽制。右から左へ薙ぎ払い、焦げた匂いを立ち込めさせる。ボーバンは上昇。ランペアは防御の姿勢。ダメージを最低限に抑える。ボーバンはライに接近。急降下の勢いで『アイアンテール』を仕掛ける。が、あくまで様子見。ランペアは、ボーバンの対応先を見てラウスの方へ。『電磁波』を飛ばしてで優勢を取ろうとするも守るで受け流された。ラウス、大文字で反撃。炎がランペアを焦がし、大きく体力を削る。しかし、大技を放った反動でやや態勢が安定しない。狙い所。電気の波長を崩して『怪電波』。ラウスは右に回避行動。避けたものの、ボーバンの動きまで読めていなかった。ラウスの回避先を『燕返し』で切り出す。しかし、敵の行動が読めていなかったのはボーバンだけではない。急激にボーバンの体躯が消える。ライの『サイコキネシス』は強力だった。隙を見せたライの方へランペアが接近。ラウスが起き上がりと同時に『火炎放射』で妨害。はらりと体をよじってランペアは回避した。ラウスがライのそばに転がり込み、背中合わせにボーバンの様子を伺う。ライはランペアの方だ。
「……作戦は?」
ラウスが呟く。耳打ち、に近い。ライは少し唸ってから返事する。
「まとまっていない。そっちは」
汗がたらりと。緊迫する状況は変わらない。
「こっちもだ。どうする」
隙は見せない。見せたらそこを押し切られる。技の構えは出来ても、実現にまでは至らない。
「……まとまってない同士で、掛け合わせてみるかい?」
「……乗った」
ラウスは自分のペンダントを握りしめた。やけに大事そうに。
ライは山頂の月と星を見つめた。頼んだぞと言わんばかりに。