疾風戦記

















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四章 -夢幻は儚く-
四十六話 緋色の推理
===前回のあらすじ===
 アビスとカロトの激戦は、カロトの勝ちに終わった。でも、バトルスタジアムではまだまだバトルが繰り広げられる。ずっと眺めていると僕も……………。


 そろそろ、僕も戦ってみたいところだ。今の所、この世界では勝ち星は一回きり。しかも、頭脳戦とかではなく、まっすぐ突っ込んできた火力バカを倒しただけ。この世界にも“経験値”の概念が存在することはステータスを見れば一目瞭然。戦闘慣れしていない身としても、早く力を付けておきたい。
 そうとなれば、善は急げ。白熱する実況席へと足を運ぶ。

「次、いい?」
「ん?あんたが戦うの?分かったわ。ちょっと待ちなさい」

 メグはカロトに指示してパソコンの“予約”の欄を開かせる。カロトの時もそうだったが、皆疲弊し始めているのか予約が一件もない。

「この分なら次は良さそうね。相手、探しといてね〜」
「オーケー」

 僕は再び観客席を歩いた。

『本当に見つかるんですかね〜』
(ま、やってみるさ)


〜〜


『“ま、やってみるさ”、ドヤァ、でしたっけ?』
(………笑わないでよ)

 誰も相手してくれなかった。煽ってくる天使さんは気にしないことにしたが、今やっているバトルももう終わりそうだし、早く…………。

「そこまで!勝者、ボーバン!」

 終わっちゃったよ!ますますまずい……。メグさんなら「なら、責任として1発殴らせて」だろう。ドSの行動パターンは読めている。もう時間もない。近くにも対戦を受けてくれそうなポケモンはいない。どうすれば………。

 その時、バトルフィールドの中央に幾何学模様の線が描かれた。その線から上方向に大きな光が伸びる。一直線に伸びた光線は、だんだんと中心に集約されるように細く、淡くなり、消滅した。中央に一匹のリグレーが立ちすくむ。目が暗い赤色だが。リグレーは周りを一瞥するとしまった、と頭を抱えた。

「あー、座標少しずれちゃったか、別の世界だなー、もう一回かー」

 手に持っているもの。あれは……エンターカード………だっけ。昔やっていたゲームで出てきたアイテムだ。地面に規則的に並べるとマグナゲートという入り口を発生させ、遠方のダンジョンへ移動できる………ものなのだが、遠方という制限自体も、ダンジョンという定義自体も相当曖昧なのか、世界すら飛び越えれるようだ。もはやただのテレポート装置と考えても申し分ないのかもしれない。それはそうと、これは丁度いい。対戦相手を探していたところだったので、声をかけてみることにした。

「ねぇ」
「ん………、何?」

 自己紹介、は後でいいか。

「この世界にきて突然で悪いけど、僕、対戦相手を探しているんだ」
「また突然だなー、しかも僕って……ははーん、分かったわよ」
「え?」

 リグレーは突然、ニヤニヤ……いや、クスクスが正しいな。笑いながら僕を見てきた。赤い瞳は何を視たのだろう。

「見た所、狂戦士って風でもないから、対戦相手探しの目的は純粋に経験積み。にもかかわらず、すでにフライゴンにまで進化してしまっている……その上、外見的に強いポケモンを選んで戦おうとするでもなく、アタシみたいなリグレーと戦いたがる……。対戦自体に慣れていないから勝手をつかみたいってわけだね。つまり…………君はポケモンに“なって”からまだ日が浅いんだね 」
「な……」

 ず、図星……!?驚異的な推理力。ここまで見透かすとは、このリグレー、一体……。

「しかも、体はメスなのに口調はオス。こっちにきてしまったってことも踏まえると、つまり………君、人間の男からポケモンのメスになっちゃったんだ〜」
「うっ…」

 そ、そこまで見破られるとは……。しかも、半ば面白がられている……。

『いや〜気が合いそうな方ですね〜。直接話せないのが残念なくらいです』
(僕としては敵が増えて泣きそうなんだけど……)

 からかいの対象になってしまうのは仕方ないことだとしても、どうしてこうもこの世界はドSが大量発生するのか。

「いや〜災難だね〜。どう?メスになっちゃった気分とかさ」
『あ、もしかしてまんざらでもないんじゃないですか?前は死にたいとか嘆いていたのに、今はそうでもないじゃないですかー。普通ならまだまだ違和感とか残る時期ですよね〜』
(僕に対して慈悲は存在しないのかよ!)

 これでも一度、ご臨終しているのだ。少しは気を遣われてもいいはずだ。

「あ、勝負に関してだけど、面倒だからヤダかなー。あ、何か賭けるなら別だけどねー」

 そして、この上から目線。リグレーに舐められるとは僕も落ちぶれたものだ。

「分かったよ……じゃあ僕が勝ったら………そうだな、そのエンターカードを一組、記念にもらえる?」
「予備もあるからオーケーだよ、じゃ、アタシが勝ったら君を一時間ずーっといじらせてー」
「はい!?」
「うん、交渉成立!じゃ、早速始めよー」
「ちょ、ちょっと!?」

 完全に僕が損しかしないようなやつだ。仮に僕が勝ったとしても、結局いじり倒されるやつだ。ドSの行動パターンは読めている。だけど、抵抗したら反感………はメグとは違って買わなさそうだが、対戦が取り消しになりうる。そもそも、対戦自体が目的なのに、わざわざ対戦したくないと抵抗する意味もない。しぶしぶ、僕はフィールドに足を運んだ。

「自己紹介がまだだったね。アイル・シャオニクス。まぁ、『アイ』って呼んでねー」
「僕はサン。よろしく」
「言っておくけど、アタシ、バトルには自信あるから」

 アイは手のひらの3つの光を点滅させて、強さを誇示する。

「僕も、手加減はしないつもり」

と、建前では言ったが、本心では、リグレーだし簡単に倒せるだろうと思っていた。予想は完全に的を外した。

■筆者メッセージ
どうも。
今回は、タチバナさんからのキャラ、『アイ』をコラボキャラとして登場させています。
早くしろ、本編遅いぞ!、と思っていらっしゃる方々、申し訳ありません。自分の右頬を三回叩いておきますので、どうかそれで許してください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
フィーゴン ( 2016/07/17(日) 23:48 )