四十三話 勝って戦を祝えよ祝え
===前回のあらすじ===
ライとフィレンの活躍により、ノンとソアを救出できた一行。ノンも、ライの言葉で自分を見つめ直すことができ、ひとまずは安心というところにまで漕ぎ着けた。そして、こういうことがあった場合、やることといえば当然…………………。
ライのスカーフの色は紺碧に決まった。ボーバンの奇妙な動きの訳は、ライと以前から面識があり、ライの頼みでノンを見守っていたかららしい。そして、兄が敵方にいるということにショックを受けないようにと、隠し通そうとしていたという。青色の指輪は、ライと交信できる唯一の品だったが、ライの意識もそう遠くまで飛ばせなくなってしまっていたため、数日前から交信が途絶えてしまったらしい。
そうそう、フィレンがこの前、『メタルクロー』を忘れて『はどうだん』を覚えなおしたことを自慢してきた。“剣”への対抗策として導入したらしい。そして、物理技ばかり使っていたフィレンは、特殊技の魅力が分からなかったため、特殊攻撃の格好良さを問うてきたから、「かっこいいんじゃないかな、ライやこの前来たティルもそうだったし」と返したら、数秒おいてから「そういうことかぁぁぁぁぁぁぁ!」って叫んだ。ますますこのポケモンが分からない。
っと、あと語りはこれくらいにする。
ソアが前に話していた通り、「お国の公式の狗になったことを盛大に祝うパーティ」は予定通り開かれた。「幹部撃退、ノンとソア救出成功パーティ」も含まれているらしい。この前のバーベキューパーティは基地内部が使えないなどで小規模に終わったが、今回は地上一階と屋外を使って飲み物から肉、魚、木の実、野菜、ファストフード、お酒のつまみに至るまで充実したバイキングを展開。厨房のラーディアに頼めばフルコースさえ振舞ってくれるらしい。おかげで大忙しだそうだが、順調ではあるようだ。ちなみにメグはギルドのメインメンバーというのもあって手伝いはしておらず、代わりにグレンが頑張っている。
地上二階の展望台は自由に出入り可能。地下一階の全員の部屋はプライバシーのことも考えて廊下を塞いでいる。地下二階は食料倉庫だけは塞ぎ、会議室で、椅子と机をどかして簡易的なカジノをしている。財政的な部分はキリマル担当だ。医務室はいつでも最良で最高の対応ができるようにと、ノンとその他数名が交代でいてくれている。
そして、僕が今いる地下三階はやはり大盛況。お酒に酔いながら戦うやつも、相当真剣にやるやつも、だいたい同じように歓声を浴びている。パクス・ロマーナは多分こんなだったんだろう。戦争の護衛軍に参加したことを祝っているようなものなのに、よくもまあここまで緊張感がないものだと思う。まぁ、たまにはいいんだろう。トップがあれなのだから。
一瞬、空気が揺れた。
「………え………?」
明らかにそこだけ時間が違っていた。黒いコートを袖を通さず羽織ったピカチュウ。もちろんソアではない。ただならぬ風格。身体的な特徴はないものの、目は正面を捉え、何を考えているか分からないその顔は、歴戦だけを物語る。僕の横を通り過ぎ、歩いていく後ろ姿。そのコートの下から、剣先の光がチラついていた。
〜〜
半ば強引にだが、解説席に座らされている。実況はメグ。いつも通りのテキトーさだ。今は喉が枯れそうなので給水中だ。パワー勝負よりもテクニック勝負の方に見応えを感じてしまうのは、やはり自分の強さの問題だろう。僕にはテクニックを動かす体さえないのだ。憧れは感じるが、まあ仕方ない。
「どう、ここまで見てきて」
メグは退屈……まではいかないが、あくびはしている。
「正直、どれもいいと思うよ。ベストはフィレンとライボルトのクルトかな。フィレンの電撃への臨機応変な対応は良かったし、クルトの急接近狙いでのオーバーヒートも見事だったよ」
「へー、随分とレポートみたいな感想ね」
「こんなのしか言えないからさ……」
「ふ〜ん……じゃ、実際に体感すればどう?」
「……はい?」
メグの話を片耳に流し込んでいたが、一語句、どうしても支えて仕方ないものがあって、メグと向き合った。ニヤニヤしながらこちらを見ている。これは嫌な予感だ。
「……楽しんでる?」
「もちろん」
これはダメなやつだ。抗議しても無駄だろう。ヘタレみたいだが、メグ相手には理論は効かない。
「じゃ、手近にいるやつですごく強そうなやつを………あ、いたいた。ねー、あんたー」
メグは実況席から身を乗り出し、周囲を見渡して近くの一匹に声をかける。メグだって、僕の実力くらい知っているのだから、つくづく鬼だと思う。
メグの声に反応して振り向いたのは、ここら辺では珍しい黒コートをまとったピカチュウだった。