疾風戦記

















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四章 -夢幻は儚く-
四十三話 勝って戦を祝えよ祝え
===前回のあらすじ===
 ライとフィレンの活躍により、ノンとソアを救出できた一行。ノンも、ライの言葉で自分を見つめ直すことができ、ひとまずは安心というところにまで漕ぎ着けた。そして、こういうことがあった場合、やることといえば当然…………………。


 ライのスカーフの色は紺碧に決まった。ボーバンの奇妙な動きの訳は、ライと以前から面識があり、ライの頼みでノンを見守っていたかららしい。そして、兄が敵方にいるということにショックを受けないようにと、隠し通そうとしていたという。青色の指輪は、ライと交信できる唯一の品だったが、ライの意識もそう遠くまで飛ばせなくなってしまっていたため、数日前から交信が途絶えてしまったらしい。
 そうそう、フィレンがこの前、『メタルクロー』を忘れて『はどうだん』を覚えなおしたことを自慢してきた。“剣”への対抗策として導入したらしい。そして、物理技ばかり使っていたフィレンは、特殊技の魅力が分からなかったため、特殊攻撃の格好良さを問うてきたから、「かっこいいんじゃないかな、ライやこの前来たティルもそうだったし」と返したら、数秒おいてから「そういうことかぁぁぁぁぁぁぁ!」って叫んだ。ますますこのポケモンが分からない。
 っと、あと語りはこれくらいにする。
 ソアが前に話していた通り、「お国の公式の狗になったことを盛大に祝うパーティ」は予定通り開かれた。「幹部撃退、ノンとソア救出成功パーティ」も含まれているらしい。この前のバーベキューパーティは基地内部が使えないなどで小規模に終わったが、今回は地上一階と屋外を使って飲み物から肉、魚、木の実、野菜、ファストフード、お酒のつまみに至るまで充実したバイキングを展開。厨房のラーディアに頼めばフルコースさえ振舞ってくれるらしい。おかげで大忙しだそうだが、順調ではあるようだ。ちなみにメグはギルドのメインメンバーというのもあって手伝いはしておらず、代わりにグレンが頑張っている。
 地上二階の展望台は自由に出入り可能。地下一階の全員の部屋はプライバシーのことも考えて廊下を塞いでいる。地下二階は食料倉庫だけは塞ぎ、会議室で、椅子と机をどかして簡易的なカジノをしている。財政的な部分はキリマル担当だ。医務室はいつでも最良で最高の対応ができるようにと、ノンとその他数名が交代でいてくれている。
 そして、僕が今いる地下三階はやはり大盛況。お酒に酔いながら戦うやつも、相当真剣にやるやつも、だいたい同じように歓声を浴びている。パクス・ロマーナは多分こんなだったんだろう。戦争の護衛軍に参加したことを祝っているようなものなのに、よくもまあここまで緊張感がないものだと思う。まぁ、たまにはいいんだろう。トップがあれなのだから。

 一瞬、空気が揺れた。

「………え………?」

 明らかにそこだけ時間が違っていた。黒いコートを袖を通さず羽織ったピカチュウ。もちろんソアではない。ただならぬ風格。身体的な特徴はないものの、目は正面を捉え、何を考えているか分からないその顔は、歴戦だけを物語る。僕の横を通り過ぎ、歩いていく後ろ姿。そのコートの下から、剣先の光がチラついていた。


〜〜


 半ば強引にだが、解説席に座らされている。実況はメグ。いつも通りのテキトーさだ。今は喉が枯れそうなので給水中だ。パワー勝負よりもテクニック勝負の方に見応えを感じてしまうのは、やはり自分の強さの問題だろう。僕にはテクニックを動かす体さえないのだ。憧れは感じるが、まあ仕方ない。

「どう、ここまで見てきて」

 メグは退屈……まではいかないが、あくびはしている。

「正直、どれもいいと思うよ。ベストはフィレンとライボルトのクルトかな。フィレンの電撃への臨機応変な対応は良かったし、クルトの急接近狙いでのオーバーヒートも見事だったよ」
「へー、随分とレポートみたいな感想ね」
「こんなのしか言えないからさ……」
「ふ〜ん……じゃ、実際に体感すればどう?」
「……はい?」

 メグの話を片耳に流し込んでいたが、一語句、どうしても支えて仕方ないものがあって、メグと向き合った。ニヤニヤしながらこちらを見ている。これは嫌な予感だ。

「……楽しんでる?」
「もちろん」

 これはダメなやつだ。抗議しても無駄だろう。ヘタレみたいだが、メグ相手には理論は効かない。

「じゃ、手近にいるやつですごく強そうなやつを………あ、いたいた。ねー、あんたー」
メグは実況席から身を乗り出し、周囲を見渡して近くの一匹に声をかける。メグだって、僕の実力くらい知っているのだから、つくづく鬼だと思う。
 メグの声に反応して振り向いたのは、ここら辺では珍しい黒コートをまとったピカチュウだった。

■筆者メッセージ
間に合わなかった……。どうも。
サボり癖がどんどんどんどん進行しています。何もする気になれなーいっていう状態で、毎日が光速に過ぎていきます。四十代五十代になったらさらに速くなるのだろうからそれが怖いです。
さて、ラストシーンのピカチュウはコラボキャラです。誰かは次のお楽しみです。かっこよく書きたいので、サボってる場合ではないですね……。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
フィーゴン ( 2016/06/20(月) 00:59 )