四十一話 鈍色とパラサイティズム
===前回のあらすじ===
ノンと、ついでにソアの救助のため、“三角湖の森”に来た僕等。だけど、次々と倒されて、ノンとソアの元にたどり着いたのはフィレンだけに。そのとき、風が舞って1匹のポケモンが現れた。そのポケモンはまさしく…………………。
雲が出て、鋼鉄の鎧は光沢を放たず灰色を主張する。
「……あんたが中ボスってやつか」
口に付着していた血液を、汗と共に拭い取りながら、フィレンは目の前の未知の敵を睨みつけていた。ラティオス、ライは、地面付近に降り立つと、フィレンを一瞥してからアインツの方に頭を下げた。
「後方から回り込んできました敵、三匹、墜落を確認しました」
フィレンとノンが、息を呑んだ。
「ご苦労だ。では、先程倒しそびれたであろうあいつを始末してこい」
「御意」
ライは、頭を上げるとノンに背を向け、フィレンの方に向かう。
「そんな……どうして……!ねぇ、お兄ちゃん!」
ライの動きが止まる。そして、顔を後ろに向け、ノンを睨みつけた。親類、兄からの思ってもいない行動に鳥肌が立つ。
「黙れ」
「貴様に兄扱いされる筋合いはない」
ノンは、心を空っぽにされたようだった。これまでの自分をすべて否定されたようだった。
「……おい」
ライはようやく、フィレンの怒りの眼光に気が付いたらしい。
「何だよ、お前。自分の妹がそんなに嫌いか?」
「好き嫌いなど関係ない。妹として扱う必要性がどこにある?」
「つまり、どうでもいいってのか………!なら…………」
フィレンは、足に力を込める。全神経を集中させ、解放した時…………………………。
「『神速』!」
競べの口火が切られた。
地を蹴り、空を切り、フィレンは神風となって走り去る。その勢いを保たせ、ライの左後方に回り込んで思い切り前に跳び、体を捻って攻撃の態勢を取る。
「…………!」
フィレンは驚きに満ちた表情をした。目で追われていた。ライが手をかざすと、『サイコキネシス』が発動してフィレンの動きが落ちる。手を右方向に振ると、フィレンは急速に右方向に飛ばされた。背中を強打。元々負っていた傷にも響き、ダメージは大きい。
フィレンはすぐに起き上がった。足についた砂を落とす。それから目標をまっすぐ見据えたあと、ゆっくりと目を瞑った。自分の力をフルに活用しないと勝てないと、そう確信したかのように、呼吸を落ち着かせ始め、空気と一体となって『“波”の流“動”』を汲み取っていく。もはや今の彼に、目も耳も要らない。ライが右手を横一直線に振ると、空間がねじ曲って隕石………流星が相見える。流星は音を超えてフィレンに向かう。彼はそれを左、右に体を傾けて回避、脚力を最大まで引き上げて再び疾る。草を踏み、花を揺らす。ライの放った竜の波動も、はらりと躱し、ライの懐に潜り込んで『インファイト』を仕掛ける。金属の鳴く音と共に、ライを押し込んでいく。しかし、目立った外傷はなく、反撃の流星群をモロに食らい、地面に叩きつけられる。それでも怯まず、攻めを続ける。何度でも殴りかかり、手の神経を麻痺させながら。
ライの方も、押されているのに変わりはなく、急上昇して空中から標的を狙撃していく。命中率を落としてでも、防衛を決め込んだといったところ。地に雨のように降り注ぐエネルギー弾を、左右に避けながら、フィレンはそばの木に登り、『神速』を上方向に起動させて大きく飛翔する。
『サイコキネシス』による抵抗も、空中、しかも先と違って波動を的確に読み込んだ状態のフィレンの常軌を逸したスピードは減速に至らない。『メタルクロー』を発動させ、ライの脳天を叩いて落とす。落下したライは地面付近に来ると、反重力で態勢を立て直し、フィレンも受け身をとって元の状態に戻る。間髪入れずにフィレンが攻撃を仕掛け、ライをさらに押していくが、防衛に徹すれば確実なライの方が数段有利である。元々手傷を負っていたフィレンは、依然として劣勢にあった。
〜〜
どうして、みんな戦うんですか……?
どうして、みんな攻撃し合うんですか……?
互いが互いにを潰し合うことに、何の意味があるんですか……?
どうしてこうも、何もかもうまくいってくれないんですか……?
やっぱり、私のせいなのでしょうか……。
私が、こんなだから、いけないのでしょうか……。
私のせいで、お兄ちゃんは変わってしまったんでしょうか……。
私のせいで、フィレンさんはあんなに苦しんでいるんでしょうか……。
いつもいつも、私が寄り付くで、誰かが苦しむのでしょうか……。
ソアさんは、私が楽しくしていればいいと、そう言ってくれました……。
ですが、誰かが苦しんでいる前で、楽しくなんてできません……。
私が“寄生”することで、また誰かから しあわせ が逃げていく……。
何度も……何度も……思っていました……。
私が……私自身が……私という存在が……。
『いなければ』
自責の念は目から、雫となって、頬を伝って落ちていった。
〜〜
すすり泣く声にフィレンは立ちすくんだ。罪悪感とも、責任感とも、懐疑心とも言えない感傷は
彼の心を貫いた。
「……仲間の声に油断するとは、やはり半端者だな」
ゼロ距離にライはいた。後方からの気配に対応しようとするも叶わない。竜の波動で吹き飛ばされ、背中を地面に叩きつける。
「所詮、『絆』などという友情ごっこは、足を引っ張る種になるだけだ」
フラフラと立ち上がるフィレン。最早、体力も限界だった。
「終わりだ…………!」
フィレンは、今まで閉じていた目をゆっくりと開けていく。
「流星群……………!」
「そろそろなんじゃねーの?」
ライが手を横一直線に振ろうとした時だった。
自信に満ちた表情と共に、空が再び晴れ始めた。