四十話 現の空
==前回のあらすじ==
ノン、ついでにソアの救助に向かった僕等。だけど、相手側にいた**に戦況を大きく覆され、フィレン側も僕ら側も撃ち落とされてしまった。あのポケモンは一体………………。
……セーフ、といったところだ。カロトの指示通り、ボーバンが倒される寸前で『見切り』を発動させてよかった。相当な高さから落ちたが、木の枝が落下速度を落としてくれなければ骨が折れていても納得がいく。ボーバンはビクともしないから、木に寄りかかる形で寝かせ、常備しているオボンの実をそばに置いておいた。あの竜は俺らが落ちたのを見るなり取ったに行った。サンの方に向かったのかもしれないが、あっちはメグがいるし、まぁ大丈夫だろう。しかし、地上戦。周囲に警戒を張りながら進みたいところだ。目を閉じ、神経を研ぎ澄まし、周囲の状況を“視る”。波動なんて読むのは何年ぶりだろうか。心なんて読むのは億劫だったからほとんど使っておらず、感覚が戻るのにラグがあった。もしかしたらうまく機能しない可能性もある。
(右前方……3匹………左後方………5匹………)
想像以上に多い。やはり空中を行った方が効率がよかったのだろう。
〜〜
「『神速』!」
「があっ!」
ラスト一匹は力なく倒れた。周囲に波動は感じない。
(さて………)
俺はラスト一匹の手に握られているものを見た。短い柄の先端に、包丁よりもずっと鋭く、細い、尖った刃がくっついている。柄の部分を持ち、天高く昇る太陽にかざす。銀色の光沢を放ち、反射した光が眩しい。これが“武器”というやつだろう。“剣”……というのだっただろうか。今まで平和ボケしていて気がつかなかったが、確かにこれなら、ポケモンの技よりも殺傷能力は段違いに高いだろう。しかも、拳と違って中距離にまで届く。これから先、素手での戦闘は不利かもしれない。まぁ、さっきのやつらはただただぶん回しているだけに近かったし、『見切り』と、森という地形を利用した『神速』による撹乱でで余裕だったが、訓練すれば、使い手によっては、単独でこんな国も壊滅できるかもしれない。
俺は“剣”を地面に置き、草の茂るその先を進んだ。
〜〜
目を開けると、縛られているのがわかった。場所はどこかの森のど真ん中の広場。隣でソアさんも縛られながら寝息を立てており、ソアさんのそばにいるキリキザンは辺りを忙しく見回している。
突如、頭痛が走る。襲われ、連れ去られてからの記憶がないことから、後頭部を強く殴られたということは察しがついた。おそらく目的はソアさんによって仲間を誘い込んで叩き潰す作戦。カロトさんならそれくらい承知の上で作戦を立てるだろうし、皆さんならどんな強敵ともまともにやりあえる。………でも…………実のところどうだろう。私があの時簡単に倒されなければ………。私1匹では無理であったとしても、何とかソアさんだけでも捕まるのを遅れさせられれば……………。
結局、足手まといは私じゃないか。結局、迷惑をかけたのは私じゃないか。
「おい!」
私から見て前方、広場の隅の草が揺れた。そこから痛々しい傷を負ったフィレンさんが現れる。何連戦したのかも分からない。どんな相手と戦ったのかも分からない。だからこそ、無力な私の罪悪感は大きかった。
「なっ!貴様、どうやってここまでたどり着い………」
「ノンちゃん!待ってよろ!今すぐそいつをぶっ倒して助けてやるからな!」
「おい!セリフに割り込むな!」
フィレンさんはそんな体でも真っ直ぐ、胸を張って立っていた。その姿は逞しく、私の何倍も立派なのは誰でもわかる。
「くっ………こちらとて、そちらの都合の良いように解放させるわけにはいかぬ…………。来い!三八一号!」
キリキザンが叫ぶと、その瞬間……………………。
風が舞った。
空気が淀んだ。
木がざわめいた。
「……………何………で………」
私の兄は、そこにいた。