三十八話 日常はいつも奇想天外
===前回のあらすじ===
本格的に、実力を伸ばしつつあるピカチュウギルド。平和ボケしながらまたパーティをしようという話になり、ノンとソアに留守番させていたのだが、どうやら何かあったみたいで………………。
「ただいまー」
前足を使うとバランスを崩して倒れてしまうくらいの荷物のため、頭でテントを押しのけた。バサっという音がしていつも通りの例の基地が目の前に現れ………………るわけないか。またなのか…………。
「え……な…………何これ……」
サンは少し動揺した。荒らされている。とは言っても、小規模の乱闘があったような散らかり方で、机の上の荷物は床に落ちていても引き出しやらがこじ開けられた形跡は全くない。
「おい!ソアとノンがいねーぞ!
「何!?どこにもか!?」
留守番組二匹が両方消えたようだ。ソアはともかく、ノンまで……………。ここを放置して買い物に行くような無責任なポケモンではないし…………………多分……………。
「………テーブルの上に紙切れ…………」
カロトは紙を手に取り、文字を読み取る。
「………これ………!」
「どうかした?」
カロトは紙切れをこちらに見せる。
「『お前たちの団長はこちらで預からせてもらった。助けたくば、"三角湖の森"の奥地の広場に来い。……………………クレセント幹部 アインツ』……………なるほどな…………」
〜〜
つまるところ、誘導だろう。誘い込んで伏兵で一気にカタをつけるといったところ。森の中なら視界が制限されるし成功率も高い。しかし、相手方が僕らに目をつけるようになるとは、今後は注意が必要そうだ。
「有名になり始めているから、そこを潰しに来たんだな。かなり精密に計画が立てられたと考えるべきかもしれないな」
「でも、あれでしょ?団長ってことはノンは連れてかれてないんでしょ?だったらわざわざ行かなくてもいいんじゃない?まずあいつは不死身だし、むしろ檻の中を楽しむタイプだし。」
正論だから困る。ソアなら勝手に逃げ出して勝手に壊滅させて帰ってくるかもしれない。
『そうなると、助けに行かず、ノンさんを探した方が無難ですね』
(なんでこんな発想に行き着くんだ)
ソアがある意味不憫すぎる。でも、うまくいけば相手が勝手に自滅する。ならいいに越したことはないのだ。メグなんて、あいつのために足を動かしたくないと言わんばかりにどっかりと椅子に座り込んだ。
「その…………なんだけど…………」
カロトがおずおずと口を開いた。
「追伸で、『近くにいた可愛いメスもついでに預からせてもらったぞ』って……………」
数秒間の沈黙……………………それを破ったのはやはりこいつだった。
「さぁ!カロト!何つっ立ってやがるんだ!早く作戦立てて救出に向かうぞ!」
「……………はいはい…………」
呆れ気味に返し、カロトは書庫へ向かう。周辺地図を取りに行くのだろう。
「……………はぁ、しょうがないわね。人肌脱ごうかしら、仲間のためにもね」
先ほどまでの反対勢力が嘘のよう。満場一致に切り替わり………………………。
「いや、やめておくべきだ」
ボーバンが口を挟んだ。
「ん、何故だ?ノンを助けるためなら早い方がいいだろ?」
「いや、何でっていうと……………」
ボーバンは言葉を詰まらせる。目を泳がせて、ごまかしている。その一連の仕草が、ただただ怪しく見えて仕方ない。
「うーん………そうだ!やはり相手の手の内が見えている以上、突っ込むのは損だと思う。遠征中のポケモンや調査中のポケモンも集めて総がかりで行った方が………………」
「確かにそうだ。だが、その必要はないぜ」
フィレンはカロトの方を見る。地図の上にポーン駒を置いて唸っている。
「あいつは、そんなことしなくてもこの状況をどうにかできるからな」
フィレンは、この前の一件でカロトの才知を認めたらしい。そういえば、圧倒的に強いランクルスとの勝負を最終的には引き分け、むしろこちらの勝利に近い形にしたとも聞いた。やってくれるかもしれない。
「……………作戦は立てた」
カロトの言葉で全員がテーブルに集まる。
「で、どうすんの?よくあるアニメみたいに『ここは俺に任せろ』みたいなのをしまくるわけ?」
「いや、その必要はない」
カロトは駒を手で浮かせ、ふらふらと揺らしてみせる。
「地上がダメなら
宙だ」
カロトは駒を置いて、僕らの方を見る。確かに空中戦なら、視界を遮るものは全くない。それどころか、敵との遭遇も極端に減る。だが、現在ここにいるポケモンで飛ぶことができるのはボーバンと僕だけ。つまり、背中に乗せていくことになるのだが、そうなると…………。
「リスクが高すぎるだろ。俺やサンが落とされれば終わりなんだぞ」
「空中とはいえ、敵の数は侮れないわ。厳しくならないかしら?」
「分かってる…………だから………………」
カロトは駒をもう一つ取り出し、地図の上に置いた。場所は………………。
「………挟み討ち。戦力も分散できる」
敵陣と思わしき場所の後方だった。