三十六話 お国の頂上
===前回のあらすじ===
ギルドの基地完成により、活動の幅を飛躍的に大きくしていくピカチュウギルドのメンバーたち。ボーバンの怪しい行動が気になる中、僕らの話は中盤へと差し掛かる。
私のバカ兄さん、ブースターのラーディアが来たことで厨房はスムーズにお客を捌けるようになっている。普通はしないような火の調整で一〇分もかけずに料理を完成させていく。私も同じようにしてみたが、肉は外は黒く焦げるのに、中まで火が通らない。炎タイプだから、そういう知識があるのだろう。しかしそれだけではなく、例えば包丁が刻む音はおかしいし、水の量も、量っているとは思えない。なのに、できる料理は私と同じ………いや、それ以上もよくある。他の厨房のポケモンへの指示も的確で、テキパキと動いて料理が作られている。そのお陰か、私は暇を作ることができるようになった。サンも、ここまで休日なしでずっと体を動かしていたから、朝からずっと寝ている。こういう時、私はPCを立ち上げてゲームをする。久々で感覚が戻らないが、まぁ二時間もすれば大丈夫だろう。
とはいえ、こういう至福のひと時は、どういう訳か何らかの形、まぁ、大体はワンパターンなのだが、壊されるわけだ。
「やっほー!メグー!」
そら来た。もはや耐性がついた。コーヒーを啜りながらあしらうことだって容易にできる。
「王様にお呼ばれされたよー!」
「ぶばっ!げほっ、げほっ!」
盲点。買い換えたばかりのPCにコーヒーの飛沫がかかる。
「ちょっと!何よいきなり!」
「王様にお呼ばれされたんだよー!」
あぁ…………。一部のキーが反応しない………。しかも、壊滅的なのは母音3つが集中的に死んだ………。
とりあえず、ソアは殴り飛ばした。しかし、王様に呼ばれたともなると、おめかししていかないとだろう。まぁ、戦時中に半武力組織を呼んでいるのだ。用件は大体想像がつく。
〜〜
高い税金、戦争で消える人口、狭くなる領土、そしてどうしようもないくらいの不況………。
国民から反感を買う要素、その全てを集約したような国勢において、未だに政権は頂上から動いていない。元の世界の日本はこの状況よりまだ豊かであるのに、なぜか反発が多い。この差は何なのだろうか。きになるものがあった。
「……ここか」
ボーバンは初めてまじまじと見るらしい。相当大きなお城で、独特な装飾は中世ヨーロッパをイメージさせる。丸でここだけタイムスリップしたようだ。
『いやぁ〜、立派ですね〜』
(ホント、見ていて圧巻だよね)
城に見とれていると、正門から一匹のポケモンが出てきた。
「お待ちしておりました。ピカチュウギルドの代表の方々で間違いありませんね?」
橙色の毛、出で立ちだけでも威圧感を放つ、そのポケモンはウインディ。
「久しぶり、キーン!」
ソアは前にお城に来ていて、面識があるらしい。なのに、ウインディ、キーンは挨拶もせず、マニュアルを読んでいるかのような口ぶりで続ける。
「国王様は現在、お城のバルコニーにて演説中です。終了までしばらくお待ちください。」
「そっちから呼んどいて何よそれ」
「こちらが要求した時刻はとっくに過ぎています故………」
「え?でもソアは………」
全員の視線がソアに集まる。
「ごっめーん!朝の9時じゃなくて朝の6時だった〜!」
この後、ソアがどうなったかは言うまでもない。
〜〜
「………であり、戦争は今後も長期化が予想される。しかし、我が国の総力を持って今後も侵攻を食い止めていきたい」
バルコニーで一礼した、赤色の派手な衣装に身を包んだミュウ、ミラン国王はそのまま奥へと消え、群衆はすぐにばらばらになっていった。
内容を要約すれば、進展ゼロだ。戦線は動かされるばかりで放っておけば制圧されかねないという。そんな内容を、遠回しに遠回しに語っているだけだった。しかし、むしろこれが当然というのが民衆の反応だ。
「さ、行くわよ」
メグの一声でお城の正門に向かう。キーンが中に案内してくれるようで、赤色のカーペットの上を通り過ぎ………あれ?変だな…………普通なら…………。
「こちらが国王様のお部屋でございます。詳細については中で国王様直々に話させてもらいます。」
キーンは二回ノックし、金ぴかのドアを押した。
「国王様、ピカチュウギルド御一行をお連れいたし……………」
キーンがドアを開けるとそこでは…………。
「あ……………」
ミラン国王は、ちり取と箒を持っていた。服装と行為が全く一致しておらず、呆然としてしまう。ミランは、ちり取と箒を床に置き、ドアに近づくと、ニコッと笑ってからドアをバタンと閉めた。
「えぇ!?何!?」
「ごめん………あと……あと一〇分でいいから待って………。」
ドア越しにミランの声が聞こえてきた。かなり必死な様子。
キーンも頭を抱えている。僕は、この城に入ってから使用人らしいポケモンを一匹も見ていない理由が分かった気がした。
『最も大変な職業って、王様なのかもしれませんね』
戦時中は特にそうなのだろう。