疾風戦記















小説トップ
間章 -3-
〇.三五話 アイロニックガール
 雨が降った。

 豪雨だった。

 降った雨は川に流れ込んだ。

 川は激流になった。

 何もかもを飲み込むその勢いは止まらなかった。




 一匹のポケモンを飲み込んでさえも…………。


〜〜


 葬式が終わった。泣いているポケモンもいた。私は………何も喋れなかった。棺を運び、戻ってきたフリット兄さんとラーディア兄さんが私の前に座った。フリット兄さんもかなり落ち込んでいた。愛したポケモンが他界した気持ちはどうなんだろう。
 ラーディア兄さんも喋らず、無言が続いた。私が姉さんを慕っていたのは知られていただろうから、かける言葉を探しているのだろう。

「……これ」

 ラーディア兄さんが口を開いた。私の目の前に、桃色に輝く石を置いた。

「下流で見つかったとき、握りしめていたらしい。とっても強く………」

 姉さんはもうここにはいない。でも、まだ信じていたかった。姉さんはまだここにいると。そう思っていたら、姉さんがこの石にいる気がした。
姉さんに会いたかった。だから…………。

 会わせてくださいと、そう願った。


〜〜


 私の願いは通じなかった。
 冷たい石の感触が私を拒絶したのだ。
 ラーディア兄さんも、フリット兄さんも、目の前の現象に驚いていた。

「え………な、なんで………」

 姉さんは、戻っては来なかった。

「そ、そうだ!水の石!水の石なら………」
「もう、いい………」

 フォローしようとしたラーディア兄さんの言葉を切った。視界が水で覆われたようにぼやけ始めた。耐えられなかった。ここにいるのが辛くなった。嫌われたんだ。


 私は……………………………。


 気付いたときには、私は家を出ていた。走って走って走り続けて、それでも涙は止まらなかった。息が切れそうになっても、足が動かなくなりそうでも、それでも悲しくて悲しくて仕方なかった。

 姉を殺した世界を憎んだ。
 姉を殺されても何もできなかった私の兄たちを憎んだ。
 私を拒絶した神を憎んだ。
 そして、何より、私を憎んだ。

 だから嫌いなんだ。理不尽な仕打ちが。
 だから嫌いなんだ。勇敢気取りのオスたちが。
 だから嫌いなんだ………………………。何よりも私自身が。


 走っているうちに街に着いた。持ち物もお金もない。だから結局、私は家にも住んでいなかった。路地裏のホームレスに混じって毎日物を盗んで、捕まりそうになっては殴り飛ばして、もう、『こころ』なんて悠長なものはどこにもなかった。現実を見つめ、過去の幸せもかすれ、擦り切れて消えそうになっていた。
 雪のある日、私は段ボールにくるまって寒さを凌いでいた。とはいえ、段ボールなんかが寒さを凌げるわけもない。

「………寒い………」

 でも、私は今日の食べた物をを確保しなければならなかった。段ボールから這い出て路地裏から通りすがるポケモンを見る。体がまともに動くか分からないので、弱そうなやつを選んだ。私はポケモンに向かって飛びかかり、拳を突き出した。

「………!」

 受け止められた。容易く。私の手を受け止められるやつなんてまずいないと思っていたので衝撃が大きかった。そのポケモンは神妙な顔でこちらを見たかと思うと、急に顔を綻ばせた。

「ん?どーしたの?」

 笑いながら語りかけてきた。思わず引っ込み、警戒する。………強い。このままじゃ警察にまた追い回されるかもしれない。体力も限界近くなのに、そうなるとまずい。
 私は踵を返して逃げ出した。路地を使って複雑なルートをとりうまく撒いた。気がつけばここがどこかもわからない。雪はさらに強く吹雪き、さらに私の体温を奪っていった。目の前の白さがだんだんとぼやけ始めた。

「………寒い………。」

 耳の先や手足の先が痛み出した。体のどこかが凍りついている気さえした。そして、ついに雪の上に倒れこんだ。
 私はこのまま死んでしまうのだろう。こんな所で誰も知られるに屍になって、忘れ去られ、私はいなかったと、そうされてしまうのだ。
 私は、残っていた力で手を伸ばした。雪が私の腕さえ覆っていく。どうせ最期なら、誰かに握って欲しかった。ラーディア兄さんでも、フリット兄さんでも、セラ姉さんでもいい。
 誰かに……助けて欲しかった………………。




 手にわずかに体温が戻り始めた。
 諦めた顔を上げると、さっき私が殴りかかろうとしていたポケモン、名前も知らないピカチュウは、傘をさしながらこちらを見ていた。

「大丈夫?」

 ニコッと笑った顔が私の体温を上げてくれた。

「家がないなら、うちに来ない?あったかいよ!」
「………なんで……私なの………?」

 かすれかけの声を振り絞って言った。私以外にも救いを求めているポケモンは周りにいくらでもいる。その中で、何故、私を選んだのか。

「それはね!」


「一番笑って欲しいからなんだ!」


 ………姉さん………。



ーーーーメグ、オスはなんでいるか知ってる?ーーーー
ーーーーうん!オスはメスを守るためにいるんだよね!ーーーー
ーーーーそうよ。じゃあ…………ーーーー



…………私…………。



ーーーーメスはなんでいるか知ってる?ーーーー
ーーーーうーん…………ーーーー



…………私………この、ピカチュウに………。



ーーーーメスはね…………ーーーー


ーーーー好きになったオスを、『一生』を持ってでも支えるためにいるのよーーーー





「…………分かったわ。」

 私はピカチュウの手を握りしめて立ちあがった。

「あんたに『一生』を捧げてみる」

 涙はやっと止まってくれた。




メグ→Meg→Marguerite→マーガレット 花言葉は「誠実」
ラーディア→radia→Lycroris 『radia』ta→彼岸花 花言葉は「また会う日を楽しみに」
フリット→frit→『Frit』illaria→クロユリ 花言葉は「恋」
セラ→cera→『Cera』sus→サクラ 花言葉は「精神美」

■筆者メッセージ
 どうも。スマホに慣れました、早速。文章ばっかり打っているとこうなるんだなと。
花言葉は、色と花言葉が最も適するものがあまりなくて、こうなりました。やっぱりメグさんはツンデレだったというわけです。
 表紙絵追加しました。手書きです。ついでにプロフィールのアイコンまでかいたので腕が痛かったです。ツイッター始めたとさらしておいて、ここら辺でお別れです。
 ここまで読んでいただきありがとうございました!

追記:5/9 表現を一部訂正しました。
  5/13 一部、空白、余白を挿入しました。
フィーゴン ( 2016/04/30(土) 16:25 )