〇.三話 一匹狼の少女時代
昔話は嫌いだ。だが、分からず屋はもっと嫌いだ。
私はずっとここに住んでいたわけではない。数年前、私はもっと………………。
天真爛漫だったらしい…………。
〜〜
「フリット、注文!」
「はぁい!」
厨房は忙しない。小さめの鍋に野菜を流し込んだら、次は肉を炒める。ジュージューといい音が匂いと共に広がっていく。
「ほら、ラーディア!もっとテキパキ働いて!」
「やってるよ!」
私はいつも通り、彼ら三匹、ブラッキーのフリット、ブースターのラーディア、そして、エーフィのセラの働く様子をカウンター席のそばの椅子から眺めていた。休日は親子連れも多く、こんな小さな村でも息をつく暇さえ与えられない。
真剣に働いている彼らを見ていると、私もじっとはしていられなくて………。
「お姉ちゃん!私も手伝う!」
まぁ、こんな具合だ。
「大丈夫よ、メグ。座ってゆっくりしてなさい」
そしてセラ姉さんはいつもこうやって私を引き止める。正直つまらないとは思っていた。だが、別にいいと思えた。何故なら…………。
「………ふぅ!ひと段落ついたか!」
フリット兄さんが伸びをする。そして、厨房の奥の休憩室に向かう。私はこれを待っていたのだ。急いでフリット兄さんの後を追う。
「おい、メグ。ほら、パフェ作っといたぞ」
「やった〜!」
休憩室のテーブルの前に座ると、目の前にパフェが置かれる。パフェグラスから生クリームご溢れそうなくらいに盛られ、てっぺんにはみずみずしいイチゴが飾られている。
スプーンをとって早速口にに押し込めば、甘い味が広がり、幸せを感じる。
「あー、肩痛いー」
ラーディア兄さんとセラ姉さんも来たらしい。自分のお昼をテーブルに広げた。
「オスなのに何言ってるの。シャキっとなさい!」
「っつっても、痛いのは痛いんだよ………」
実のところ、私とフリット兄さん、セラ姉さんとは直接は血が繋がってない。フリット兄さんはセラ姉さんと結婚して、ここに住んでおり、私の実の兄であるラーディア兄さんは親がどうとかで遠縁のフリット兄さんに頼ったとかだそうだ。でも、そんな関係でも私は特に気にしなかった。
「セラ姉!昨日学校の徒競走で一番になったの!」
「すごいじゃん、メグ!よく頑張ったね〜」
セラ姉さんは私の頭を撫でてくれた。とても嬉しかった。
「それに比べ、目の前のオス二匹ときたら………」
「メグが凄すぎるだけだろ!俺はクラスじゃ平均以上は維持していたからな!」
「僕の場合、真っ直ぐ走れるかが問題だし………」
二匹とも私はには追いつけないのだ。大人なのに負けて悔しそうだったのを覚えている。
「オスならもっと頑張んなさい!」
「頑張んなさい♪」
「おい!メグが覚えちまったじゃねーか!」
いつもこの調子だった。私も早く大人になってみんなと料理がしたかった。
〜〜
「明日はメグの誕生日だね」
「あ、そっかぁ」
ラーディア兄さんは思い出したように呟いた。
「ってことは明日でメグも大人かぁ………早いなぁ」
イーブイにはは大人になるときに石に触れてて進化するというしきたりがある。石は八種類あり、水、炎、雷、朝、夜、草、氷、絆と、種類が分けられている。だが、その中でも朝、夜の石は滅多に手に入らない。それでも私は………。
「私、エーフィになりたい!」
姉さんへの憧れはかなり強かった。同じメスなのに、すごくしっかり者でオスにも物怖じしない姿勢は尊敬していた。
「そうか!よし、じゃあ明日街に行ってみよう!近くの石屋さんに行けば一つくらいは置いといてくれてるかもしれな…………」
「残念だけど………」
ラーディアの言葉を遮ってセラ姉さんが話し始めた。
「聞いたらもうないんだって………ごめんね……」
「そ、そんなぁ………」
しょんぼりとうつむいた。せっかくなれると思って期待を膨らませていたのだ。がっくりと肩を落としてしまった。
「水の石ならあるって聞いたけど………」
「…………ヤダ」
「メグ、我慢しなさい」
「ヤダ………」
「メグ………」
「もういいよ………」
私はみんなを無視して自分の部屋に向かった。セラ姉さんに諦めろと言われたのがショックで仕方なかった。
〜〜
「……セラ姉さん……」
「………」
「なんで言うんだよ、別に今言う必要はねーだろ!」
「分かってる」
ラーディアがセラに話しかけると、セラは笑って返した。
「サプライズ。あの子、私が大好きだったから、エーフィになりたいことぐらいはすぐ分かったわ」
「じゃ、じゃぁ…………」
「隣町に行ったら、譲ってくれるポケモンがいたの」
「本当!?」
今嘘をついて何になると言わんばかりに自慢げに笑って見せている。
「明日、とってくるつもりよ。驚いてくれるといいんだけど………」
「あぁ、きっと驚くし、めちゃくちゃ喜んでくれるさ」
昼下がりの暖かさがまだ残っていた。
窓の外をスバメが低空飛行していった。