三十五.七話 炎の意志
厨房の右上にあるメモをちらりと見る。
(サラダ、ステーキ、アイス……)
メモの内容を記憶しては、冷蔵庫を見に行く。野菜はあるが、肉類が少ない。今度頼んでおくべきだろう。レタスを頭に乗せ、厨房に戻る。水の入ったボウルの中に入れて、小さな椅子の上に乗って一枚一枚、一口サイズにちぎっていく。
「注文!ここ貼っとくよ!」
サンがメモを切って貼り付けていく。今は昼。もう少し余裕があれば、そう思うばかりだ。
「メグちゃん、アイスクリームは私が作っておくわ。無理しないでね。」
「はい、どうも…ありがとう…です。」
グレンから励ましの言葉を受け、少々固くなってしまった。
それはいいとして、問題はこの現状だ。やはり厨房を五匹で回すのは不可能だろうか。いや、できるはずだ。
「メグー!会いたいってポケモンが…」
「はぁ?ったく、誰よ…忙しいってのに…」
水道で手を洗い、厨房を出る。用があるなら早めに済ませたい。
「はいはい、なんの用で……」
私が相手の顔を見たとき、呆然としてしまった。
「よっ!元気にしてたか?」
懐かしい顔だ。ただでさえ嫌気が差すし、なによりもこんな有様を、一番見られたくなかったのに……。
「……何やってんのよ、兄さん」
〜〜
お客さんの数が減ったあたりで、グレンやサンに後を任せて、兄を私の部屋に通した。彼はラーディア、ブースターだ。私がとにかく嫌いな奴だ。ソファに座っている彼にジュースを差し出し、向かい側に座る。喉が渇いていたらしく、すぐに飲み始めた。
「……店は?」
「ああ、それがな……」
グラスを置いて、こちらを見た。
「フリットがお前を探してどっかに行ってな。一匹じゃどうしようもないから畳んだんだ。」
フリットとは、私の義兄のブラッキーだ。相当な方向音痴だったはずだが。
「…で、あんたはこれからどうするの?」
わざわざこんなとこに来たのだ。所持金だってゼロに等しいはずだ。
「そう!それ!俺、ここで働くよ!」
「……」
だろうと思った。まぁ、正直なところ、こいつに来てもらって助かったと言えば助かった。
「天才コックの腕、なめんなよ!」
得意げにこちらを見てきたので、軽く無視してやった。