疾風戦記

















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三章 -偶然は道端に-
三十四話 流砂防衛戦線
===前回のあらすじ===

 地下で盛り上がっている間にギルドを盗賊団に包囲されてしまった。突破口が見えない中、カロトはある作戦を講じる。


 テントの中からゾロゾロとポケモンが出てきた。

「うわっ……。これ作り直さないとじゃない………」

 群集を先導しているメグは、自分のギルドの入り口を一瞥する。

「どうしてくれんのよ………。修理代請求するわよ?」
「ふざけるな!ぶっ壊されたくなけりゃそっちのフライゴンとルカリオを出せ!」

 冗談は…………通じないようだ。改めて状況を見るが、明らか一つのギルドを潰しに来た、という量じゃない。放っておけば国が丸々一つ消えかねない。まぁ、そこまでまだ考えが行き着いていないあたり、こいつら……………。

「バカね」
「あぁ!?」

 感情に忠実なタイプらしい。挑発をかければすぐつっかかりそうなバカ。

「なんならやってみれば?悪いけど、うちには偶然…………………」

 メグの後方……マフォクシーのティルを中心に、マニューラ、ウォーグル、デンリュウ、キュウコン、ルージュラ…………総数は三〇匹余り。

「………手練が揃っているからね」

 プチンっとバンギラスの中で何かが切れたらしい。

「おい、お前ら!全員でかかれ!!」

 怒号と共に開戦した。夏らしさの抜けない午後である。


〜〜


「『でんこうせっか』」

 メグの拳でタテトプスが弾丸となり、後方にいるカブトを巻き添えにしていく。

「おい、そっちどうだ」
「上々。そっちこそ、へましないでよ」
「当たり前だろ?」

 ティルの放った熱波が行動できるポケモンを制限していき、絞った相手を『サイコキネシス』や『火炎放射』で倒していく。ザコ相手には申し分ない火力。取りこぼした敵はメグがついでぐらいに吹っ飛ばしていく。
 戦況は意外と優勢だった。マニューラが先陣を切って前線を押し上げ、続くポケモンが守りを固めていく。進行スピードも悪くない。敵は依然、減っているようには見えないが。それでもザコ相手なら充分に戦えている。
 ティルは体力は回復したとはいえ、疲労は既に限界に近いはずだ。それでも、ステッキを振り、相手を動かし、操り、潰しにかかる。

「今のところは大丈夫か」
「そうね。でも、もうちょっとこいつらは止めておきたいわ。それより………」

 メグがずっと気になっているのは味方の方だ。向こう、左側のポケモンと戦っているあのデンリュウ。ランペアという名前らしいのだが、頭に何の意味があるのか変な内容の鉢巻きを巻きつけている。
 ティルにこの場を任せてランペアに話を聞きにいくことにした。

「ねぇ、あんた」
「ん?僕のこと?」

『10万ボルト』を敵さんに放ちながら応答した。顔立ちはかっこいいとは言えないが好青年らしい口調だ。

「その鉢巻きを何なの?『ラノンちゃんラヴ!』って、どういう意図があるの?」
「え!?まさか君はあの『ラノンちゃん』を知らないって言うの!?現在、人気沸騰中の有名アイドルだよ!?」

 あ、ヤバイ奴だ。私が嫌いなオスは、一に勇敢気取り、二に臆病者、そして三にオタクなのだ。ついでに真面目な奴も嫌いだ。とりあえずオスなら全員嫌いだが、こいつらは特に嫌いなのだ。目付きを凶悪にして、嫌悪感をアピールしていくが、こいつもこいつで平然と構えてやがる。諦めて、飛んできたイシツブテをキャッチした。

「ちなみに所属はここさ!」
「はい!?」

 驚いて、イシツブテをグライガーに投げ飛ばすはずが照準がずれてしまった。つまり、またこのギルドに変なのが増員されたということ。マシなやつはなぜ集まらないのか。

「ほら、あのキュウコン。グレンって名前なんだけど、あいつも僕らの仲間なのさ」

 ランペアの示す先………一匹のメスのキュウコンがいる。物凄くスタイルもいいし、顔立ちもいい。その為か、周りのオスどもは敵味方問わずにメロメロになり、攻撃意欲を失っている。また今度、あの色気について尋ねてみよう。嫉妬を越えて憧憬だ。
 ティルのいた場所に早足で戻る。



「……!」

 突風。いや、マニューラが吹き飛ばされた。ギルドのテントの柱に当たり、そのまま前方に倒れる。どうやらトリデプスにやられたらしい。
 こうなってはまずいのは戦況の劣悪化か。まだもう少し粘りたかったのだが、相当早い段階で撤退を要求されるかもしれない。カロトたちが上手くやってくれるかどうかは別として、私も簡単に追い詰められるつもりもない。ここはマニューラの代わりとして私が前線を押し上げていくべきだろう。

「『ハサミギロチン』!」
「………しまっ…………」

 あーあ、考え事し過ぎたかな。


〜〜


 戦線は後退しつつあった。突破要員のマニューラ、主力のメグがほぼ同時にやられ、勢いを失い始めた。逆に、厄介な二匹を仕留めた相手は逆に勢い付き、押されていたものを押し返していく。

「くっ…………全員撤退!ウォングはマラを、ティルはメグを運んでくれ!殿は僕が務める!」
「分かった!頼んだぞ!」

 ランペアの声により、ウォーグルがマニューラを背中に乗せる。ティルは『サイコキネシス』でメグを浮かせ、テントの中に逃げ込んだ。その他のポケモンも、ランペアが敵を惹き付けている間にテントの中へ避難する。全員入ったのを確認してから、ランペアも逃げた。

「お前ら!テントの中に入れ!!ぶっ潰してやるぞ!!」またもや怒号がなり響く。テントの布を破り、柱を壊し、地下への階段や二階への階段へとなだれ込む。


〜〜


二階、展望室。柱を二本も失い、倒壊の恐れもあるこの部屋で、階段を上がってくる敵に技を当てて突き落としながら、ノンはカロトに聞いた。

「大丈夫…………なんですか?」

 カロトは下の様子を耳で調べている。

「…………計画成功」

 カロトはそれだけ応えた。

■筆者メッセージ
どうも。
これがこだわりハチマキの真実です。
みんなアイドルオタクだったのだ…………。
キリマル、ランペア、グレンが構成する『フルカラー』については……今のところ、本編での登場は考えていません。き………きっと出るよ………。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
フィーゴン ( 2016/04/12(火) 18:54 )