疾風戦記















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三章 -偶然は道端に-
三十二話 消えない焔
===前回のあらすじ===

 別次元から来たというティルと名乗るマフォクシーは、オスをバカにするメグに挑戦を申し込んだ。
 始めは好調だったものの、だんだんとメグの害悪戦法に惑わされ、追い詰められていく…………。


 状況はまさに絶望。いくら攻撃を当てても『ねむる』で全てリセットできる。その上、眠っている間も攻撃は容赦なく続けられる。

「くそっ………『火炎放射』!」

 ティルはもとの冷静さを失い、感情任せに動いていて、命中性能も威力もガタ落ちだ。『いばる』による精神的なダメージがあるのだろう。もはや心がどれくらいズタボロなのかも分からない。もしかすると、最初の方のあの好勢も、メグが『ねむる』で絶望を見せるためにわざと仕組んだものなのかもしれない。そうとまで思えてしまうのだ。ヒョイヒョイっとアトラクション感覚で軽々と避けられ、ティルの怒りはさらに膨張する。メグは避けたあと、ティルに接近する。

「『でんこうせっか』。」

 光にも勝るとも劣らない突進。体を右に傾けてなんとか避けた。

「『サイコキネシス』!」

 追い討ちをかけるも、うまく機能しない。メグに逃げの隙を与えてしまう。

「『火炎放射』!」

 目がブレているとでも言うのか、火炎放射はあらぬ方向へと飛んでいく。
 観客の声援はすでになく、あったのはひとつの思いだけだった。
『また、負ける』………それだけだった。


〜〜


 ………まただ。
 私は久々に強敵とやらに対峙した。それなのに、またなのだ。皆が痛いと泣き叫ぶ傷も、私には何ともなかった。私がただ殴っただけで、相手は人形のように力なく吹っ飛び倒れていく。どことなく自分が異常だということにはかなり前から気づいていた。だから、自分が普通であると、そこまで強くないと、力が全てではないと、証明してもらう誰かを知らないうちに探していたりもした。ソアには負けたが、あいつは別の意味で異常だったせいでたいして証明にもならなかった。
 つまらない。
 こんなにもいい技術を持ってしても、火力を持ってしても、やっぱり私の前には成す術なく倒れるしかないのか。
 つまらない。
 ティルはやはり攻撃を繰り返しているが、火炎放射は暴発を起こし、私がわざわざ避けるまでのものでもなくなっていた。
 火炎放射が様々な方向へと流れ込み、一部がティル自身にまでかかる。火を自分で浴びて、ダメージを受ける。彼はもはや先程までの彼とは違っていた。
 オスは結局オスだったということだろう。意気地無しのくせに威張り散らし、頼りなく、感情任せ。
 くだらないことをやっているようで欠伸まで出てしまった。目の前のティルは自分の炎で焼け焦げた毛を見つめている。バトル中に感傷に浸るとは、よほど私はティルを精神的に追い込んだのだろう。なんだか悪役っぽい。だが、別にそれでもいい。私は結局、何の努力もなく強くなってしまったイーブイなのだ。恨んでくれて大いに結構。慈悲をかけられるより数倍いい。
 ティルは自分の毛の煤をはたいた。
 すると……………………………。


〜〜


 観客がざわめき出す。ティルが自分のステッキの先端を見つめ、目を閉じて呼吸を落ち着かせ始めた。
 『瞑想』。先程、メグの唐突な『ねごと』により、失敗に終わった技。攻撃の手を緩めないメグにたいしては、どう考えても悪手でしかない。
 だが、当のメグは黙ってティルを見ているだけ。“見守る”が正しいのか、一歩も動かない。
 ティルにはもう音も聞こえず、体の感覚もなくなっている。意識の世界で精神を研ぎ澄ます。
 長い一瞬が過ぎ、静寂を破るようにゆっくりとティルのまぶたが開いた。

「……『瞑想』、終わった?」

 ティルの顔はちゃんと前を向いていた。目は確実に、正確に、真っ直ぐにメグを捉えていた。

「あぁ、完璧だぜ。」

 声は自信に塗り替えられ、絶望はなかった。
 メグは少しだけ笑った。

「そう来なくっちゃね!」

 ティルの心に『猛火』が宿る………………。


〜〜


「『でんこうせっか』!」

勢い良く走り出したのはメグ。地を踏み、ティルの元へ向かう。

「『火炎放射』!」

 迎え撃つティルは火炎放射。ステッキの先端に火の塊を作り、前方に向かって溢れ出させて流れをつくる。が、先のものとは比にならない。『業火』と呼ぶに相応しい。炎は空気を焼き、地を焦がし、走ってくるメグを飲み込みにいく。メグは右前脚のバネを利用して左に転がりこむ。そして、再び直進。炎を躱されたティルは『サイコキネシス』で炎を操作し、メグの進路を妨害していく。炎から逃げ、左に逸れたメグは突然、左前脚で踏み切り、走り高跳びの背面跳びのように、迫り来る炎を飛び越える。
 空中程、狙いやすい場所はない。『サイコキネシス』で空中のメグを縛り、勢い良く業火に突き落とす。メグは、落下の風圧と体の回転による風圧とによって火を一時的に消し止め、その隙に右側に転がり、また直進する。ティルは小さめの火をばらまき、熱波も同時に送ることでメグの行動を抑制する。その瞬間に『未来予知』詠唱。させぬと言わんばかりにメグは地面の砂をつかみとって、ティルに投げつける。他のポケモンがやれば『擬似すなかけ』で終わるが、メグがやると『鉄砲水』ならぬ『鉄砲砂』である。ティルは『鉄砲砂』への対処を迫られ、詠唱を中断してサイコキネシスで全て自由落下に持ち込む。
 互いが互いを牽制しあい、互いが互いに知り得た情報を駆使し、互いが互いの行動を読みあって最善手を打ち合う。

「………すごい……。」

 観客は再び熱に包まれ、闘う二匹に惜しみ無く声援をかける。
 競り合う二匹と大歓声が一体化し、ひとつになったとき…………。


勝負は……………。


決着を迎える………………。


 砂煙は晴れ、フィールドに二匹のポケモンが対峙する。音は一切ない。
 一方はマフォクシー。ステッキを片手に力強く立つ。
 もう一方はイーブイ。全身の擦り傷や焼け跡を負いながらも、やはり力強く立つ。が、ニヤッと笑ったあと…………。


彼女は倒れた。
 試合終了のゴングと共に観客の盛り上がりはピークを迎える。皆はティルだけでなく倒れたメグの方も讃えていた。

「中々、良いものを見たな。」

 いつの間にか隣にいたボーバンが呟いた。フィレンは「次の相手は俺だ!」とポケ混みを掻き分け突き進んでいる。
 元気の欠片をもらい、回復したメグは、手当てを受けているティルと向き合った。

「おめでと。まぁ、わたしの本気の半分に勝てたんだから、少しは認めてやるわ。」
「ははっ、きつい冗談だな。」

 戦士たちが終わった闘いについて振り返り、談笑した。その時………………………。
 地上から轟音が響き渡った。

■筆者メッセージ
こんにちは。書き溜め作るとか言っておいて全然ですね………。宿題の闇は突破したのでこれからどんどん作ろうとは思っていますが、なかなかアイデアががががが……………。
春休み終わる前にせめて三章は終わらせたいですね………。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
フィーゴン ( 2016/04/03(日) 21:57 )