三十一話 茜色の武闘家
===前回のあらすじ===
遂にギルドができたというので、中を見て回っていたところ、地下三階ではどっかのイーブイのせいで、闘技場が酷いことになっていた。痺れを切らしてフィレンがフィールドに立とうとするが、別のポケモンに先を越されてしまったらしく………。
あれはマフォクシーというポケモンだ。先手で火力のある特殊攻撃を放てるのが特徴の種族。
「…あんた、誰?ここら辺のやつじゃないでしょ?」
「俺はティル、よろしく。」
「出身と職業ぐらいは言いなさい」
「深くは言えないが、別次元から来たとだけ言っておくぜ。」
観客がざわめき出す。無理もない。『別次元』というのは受け入れがたい。それに対し、メグはすんなり了解した様子。僕のせいだな。
「ここには武者修行として来たんだ。本職は違うが、今は武闘家を名乗っとくよ。」
「ふ〜ん………」
メグは自分で投げた質問なのに、鼻であしらった。
「で、あんた、強いの?」
「自信はあるんだ。少なくともここに来てから負けていないからな。」
「ふ〜ん……じゃ、早速始めましょ。」
開始のゴングはこれから始まる勝負に希望を持たせた。
〜〜
先に仕掛けたのはメグ。脚部の筋力をフルに使い、真っ直ぐティルに突撃する。さすがに見切れたか、ティルは体をそらし、『でんこうせっか』をはらりと躱す。避けられ、体勢を立て直すメグに反撃を行う。
「甘いな!『火炎放射』!」
ティルの杖の先から炎の塊が発生し、前方に向かって溢れ、火の流れを生み出す。流れは一直線にメグの元に向かい、皮膚を焦がしていく。煙によって、一時的にメグの姿が隠れ、警戒によりティルは後方に下がる。
煙を掻き分け、メグが姿を現す。ほぼ無傷だ。二度目の『でんこうせっか』に備え、回避の準備を行う。メグも走りだし、技を繰り出す。
すると、急にメグの姿が消えた。いや、正確には『正面』からというべきだろう。死角に入られ、反応に遅延が生じる。回避不能。メグがティルにとびかかる。
「『サイコキネシス』!」
カウンター気味にティルが技を発動。メグの『でんこうせっか』が速度を失う。ティルはメグの胴をつかみ、投げ飛ばした。追撃に『火炎放射』を繰り出し、『サイコキネシス』も同時に使用し、炎の方向を操作して多角的に攻撃する。
まだ倒れない。再び『でんこうせっか』。だが、技の発動時にメグの動きが少し鈍った。
熱波。ティルの耳から放たれた熱の波長により、相手の攻撃を抑制させたのだ。動きが鈍っている間にティルが何かの詠唱する。
再び『でんこうせっか』を繰り出すメグに、詠唱の終わったティルは『火炎放射』で迎え撃つ。メグは回避し、突撃を試みる。が、火炎が急に変形し、行く手を阻んだ。炎に当たらないよう、メグが足を止めた。その時…………。
「………っ!?」
メグに突然、強い念動力が襲い掛かった。
〜〜
「『未来予知』ですね。」
キリマルが呟いた。『未来予知』とは、エスパータイプの強力な技。発動に時間差が発生するが、その分効果は絶大。先の詠唱で発動させたんだろう。
「とにかく、これで勝敗は見えてきましたね。」
メグは、耐久能力はあっても有限。既に観客はメグのズタボロの体に大盛り上がりだ。あと何回攻撃を耐えられるかも分からない。
メグは、顔を前に向けて、相手の顔を見た。
別に、目は死んではいなかった。ニヤリと笑った顔は勝ち誇っていた。
メグは目を瞑った。寝息を立て始めた。
『ねむる』。メグの体は眠ったことであらゆる傷が癒えていく。ここまでの行程がすべて無になった。
しかし、眠っていることで技が使えない。畳み掛けるならむしろ今だ。
ティルは『瞑想』をおこなって集中力を養おうとする。すると…………。
メグは急に立ち上がり、走り出した。急なことに対応を遅らされ、熱波を送ったり、『サイコキネシス』を使ったりして誤魔化そうとするが、一切効かない。
メグは大きく振りかぶって、尻尾をティルに叩き付けた。力が加わった瞬間、ティルは勢い良く吹き飛ばされ、場外の壁に叩きつけられた。
観客は一斉に静まりかえり、誰もが現状の理解に苦しむ。
何しろ、メグはまだ眠っていたから。
〜〜
「………そうか………!」
「サンさん、何か心当たりが?」
「『ねごと』だ。」
『ねごと』とは、眠っている状態でも行動できるようにする技だ。今のは、『ねごと』で発動した『でんこうせっか』だったのだ。さらに、眠っているせいか、ダメージを受ける感覚がないらしく、動きが全く止まらない。これは厄介なことになった。
レベル差で何とか耐えきったらしい。ティルは崩れた壁から立ち上がり、再びメグと向かい合う。メグは、地面に手を突っ込むと、思いきり引っ張りあげた。一メートル近くの細長い岩が手に付いてくる。メグは槍投げの原理で岩をティルに飛ばす。すんでのところでティルは『サイコキネシス』を使い、岩のミサイルを空中で停止させた。そしてメグの方へ飛ばし返すも、岩は走ってくるメグの頭に当たると粉々になる。そのままティルの方へ。
傷が酷いが、『でんこうせっか』は何とか回避する。が、どうやらメグは目を覚ましたらしい。
「どう?気分は。」
形勢は逆転しつつあった。
「いくらあんたが攻撃しても、いくらあんたが守りきろうと、私にはそんなの関係無い。」
「ぐっ………。くそっ…………。」
傷を押さえ、メグを見る目は冷静さを失いつつあった。そんなティルに、追い討ちをかける。
「結局、あんたよりあたしが何倍も強いのよ。ザコは無駄に足掻くだけ損よ、損。降参しなさい。」
「な……………おい…………今、何て言った………!」
嘲るような目は、ティルの正気を完全に失わせた。メグの『いばる』は完全に成功したのだろう。