三十話 ギルドの基地は地下深く
===前回のあらすじ===
探検隊の新入り、ボーバンを連れて出来上がった基地を見に行くと、どっかのバカのせいでサーカス会場になってしまっていた。不安がよぎるものの、僕らはテントの中へ入る。
「ようこそピカチュウギルド…………ってフィレンたちか………。待ってたよ。」
テントの中はノンの家ぐらいの広さだった。ノンの家を骨組みだけ残して改造したのだから当たり前なのだが。
入ってすぐの右手には受付コーナーが設けられ、その左右に掲示板を構える。奥にはノンの家の台所とリビングを改造して作ったであろうレストランが見える。今は無人のようだが近いうちに大盛況になることだろう。
一階はこれだけのようで、階段は受付コーナーの向かって反対側しか見られない。よくもこう小さく収めたとおもう。
「中々じゃねぇか。あそこのレストランは誰がコックとかやるんだ?」
「メグがやってくれるって。ウェイターはバイト募集してる。」
フィレンは気に入ったらしい。ノンも元は自分の家だったのに目をキラキラさせながら壁の装飾を眺める。
「二階は展望台。望遠鏡も置いといたよ。」
それから地下の説明をされた。どうやら敷地面積が足りなく、新しく土地を買うのよりも、地下深くまで掘った方が費用上良かったらしい。そりゃぁ、ドリュウズなんていうドリル生物が平然といるのだ。地下を掘る方が安くなるのもうなずける。
地下は三階まであり、それぞれの階では鏡を埋め込んで外の風景を楽しめるようにしたらしい。素晴らしい心遣いだ。
「ところで…………。」
カロトはボーバンを見る。
「そのポケモンは………。」
「あぁ、ボーバンのことだな。探検隊に入りたいらしい。メンバー登録してやってくれ。」
「分かった。じゃぁ、書類作るからボーバンだけ残ってね。」
カロトはボーバンをソファに待たせ、受付の奥に消えた。
「それじゃぁ、実際に見に行きましょうよ!」
フィレンもノンも少しはしゃぎ気味だ。
地下一階に降りた。土の壁はペンキで固められ、クリーム色になっている。通路が左右に別れ、その通路に一定の間隔でシックなドアが並べられている。二〇部屋はあるだろう。試しにそのうちのひとつのノブに手をかけた。ドアを開けると、それなりの広さの部屋が現れる。ベッドは二人分、机が中央にあり、鏡、小さいながら暖炉も完備。ホテル経営でも出来るんじゃないか?
他の部屋もつくりは一緒らしい。団長の部屋というネームプレートのぶら下げられた部屋もあったが、中からいびきが聞こえてきたので開けないでおいた。
地下二階は食料倉庫と会議室、あとは医務室らしい。特に何もなさそうなのでここも飛ばす。そして地下三階。カロトの話によるとここは…………。
「うぉぉぉぉ!『たいあたり』ー!」
「させるかー!『ほのおのきば』!」
闘技場。三十分という時間制限をつけてお金をとっているらしい。どこで嗅ぎ付けたのか、観客席はポケモンで埋まっている。
「まだ夕方にもなっていないのに…………。何してんだろう………。」
こいつら仕事はないのか?上司にしかられたりしないのだろうか。
「いえ、そうではありませんよ。」
僕の独り言に応えるポケモンがいた。横を見ると、観客席に座っているポケモンがこちらを見ている。水色の体、ラッコのような外見、腰にはホタチが二枚備えられている。フタチマルだ。
ただ、普通のフタチマルと違うとすれば、こいつはメガネをかけていいて、インテリな雰囲気を出している。
「お初にお目にかかります。私はフタチマルのキリマルと申します。以後、お見知りおきを。」
メガネがキラッと光った。
「……お見知りおきっていうのは?」
「私は貴方が所属するピカチュウギルドに加わっているのです。ここにはいませんが、メスのキュウコンのグレンとオスのデンリュウのランペアめ私と同じ探検隊、『フルカラー』所属です。」
この際、ネーミングセンスについては突っ込まない。それより、この形式ぶったしゃべり方………。メグに嫌われないだろうか。
「じゃぁ、さっき違うって言っていたのはもしかして、こいつら全員うちのギルドの仕事のない連中ってこと?」
「いえ。」
キリマルは前を向いた。
「まぁ、少なくとも半数以上はそれに当てはまりません。大半は探検隊は探検隊でも他のギルドの所属です。ここのギルドの闘技場は格安ですから、他よりも人気があるのかと。」
そういえば三〇分で一〇〇ポケぐらいだったはず。使う上でのルールを決めるだけにしてここまで安くしているのだろう。
話をしているうちにゴングが鳴った。勝敗が決まり、互いが挨拶をしてからフィールドを降りた。フィレンは出たいのかさっきからうずうずしている。
すると、フィールドに一匹のポケモンが出てきた。
「休憩終わったわー。じゃ、もう一戦。誰か来なさいよ。」
ラスボス到来。メグの洒落にならない強さは既に広まっているらしく、観客席はざわつき始める。お前が行けとはやしたてる声も聞こえる。
「俺が出る!」
僕から見て反対側の観客席で名乗りを上げたのはオオスバメ。フィールドに立つと、メグと向かい合う。
「俺はオオスバメのスラッシュだ!所属はレントラーギルドの『フラッシュバード』!出身はここから南の小さな村だが、素早い動きと何をも貫く攻撃は誰にも負けねぇ!」
僕は目に力を入れる。Lvは64。ステータスも見事なものだ。観客席からも期待の声。
「はいはい。じゃ、始めて。」
ゴングが鳴った。始めに仕掛けたのはスラッシュ。
「『おいかぜ』!」
スラッシュが羽ばたくと、風が一方向に吹き出す。スラッシュはその風に乗り、機動力を得る。逆にメグの動きは少しだけ遅くなったらしい。そこをスラッシュは見逃さなかった。
「『ブレイブバード』!」
相手の隙を見ての大技。少し高い位置に上昇すると、降下と風の勢いを利用して一気に加速する。標的はもちろんメグ。でも、あのメグだ。擦り傷程度に……………。
いや、いける。レベルはスラッシュが上。何より、あの速さ。追い風の勢いを利用している分、火力は増大する。奇跡は起こるんじゃないか……?応援の声はさらに高らかに響いた。
勇猛な鳥はメグの眼前に迫った。
オオスバメは技の反動で深手を負った。息を整えて振り返った。
「………なっ!?」
一方、メグは頬の小さな傷から出た小さな傷を物珍しそうに見つめるだけ。
「はいはい、おめでと。じゃ、さよなら。」
メグは四股に力を込めると、雷のように駆け抜けた。
「『でんこうせっか』。」
スラッシュは吹き飛ばされ、場外の壁に激突。ノックダウン。
『うわっ。痛そうですね〜。』
結局こうなるのか。
スラッシュが医務室に運ばれた後、回復薬を使ったメグが闘技場内に叫ぶ。
「他にいないの〜?」
誰も名乗りを上げなかった。勝てないという察しは付いたらしい。
「ふ〜ん……まぁ、誰も戦わないって言うなら降りるけど………ま、そうよね〜。」
メグは少し口調を煽り気味にした。
「オスなんてどーせそんなものよね〜。怖気付いたら何もできないんでしょ〜?」
覚えないはずの挑発が上手い。お陰で隣のフィレンは………。
「なぁ、あいつぶっ飛ばしてもいいか?いいよな?な?」
こんな調子。
「やめときなよ。さっきのみたいになるのがオチだよ。」
「いや、それでもなんかあいつに一発拳当てねぇと気がすまねぇ……。ちょっと行ってくる。」
「あ、ちょっと!」
フィレンが人混みを掻き分けてフィールドに向かう。こらっ!天使さん、ワクワクするな!
「おい、俺が………。」
フィレンが名乗りをあげようとした、その時だった。
「そこまで言うんなら、いいよ。俺が相手になってやるよ。」
赤茶色の体と黄色の顔の、狐のようなポケモンはステッキを片手にフィールドに立った。