二十九話 僕等の基地は
===前回のあらすじ===
遺跡の探索を見事成功させ、大量の資金を得た。これでふかふかの布団と味の薄くないスープにありつけると思うと、喜びが止まらない。
集合場所に来た。場所はノンの家。すでに工事は終了し、ピカチュウギルドの基地が完成したとのことだ。
「………戦犯は……?」
「あぁ………あいつだそうだ…………。」
フィレンとノンの話はこうだ。
四日前、工事にあたってメグ、ソア、カロトは希望のデザインを聞かれた。カロトは部屋の割り振りを考え、なるべく広く、使い勝手のいい間取りを三日かけて割り出した。地上だけでは足りないので地下も使って立体的に土地を改造するという。
メグは家具や室内の装飾なんかを考え、壁紙や床板のデザインを決め、ついでに値切り交渉にもあたった。
ちなみに僕やフィレン、ノンは足りない日用品や食材の買い物を、丸四日かけて行った。
ただ、問題だったのが…………。
誰も、ギルドの入り口のデザインを考えなかったこと。みんな他のことで忙しく、そのことだけは気が回らなかった。唯一、暇をもて余していたのが…………。
『ピカチュウ柄のテントですよ!サーカスみたいで可愛いじゃないですか〜。』
(サーカスをやらないから困ってるんだよ!)
実際見るのは初めてだが、インパクトが強すぎる。新人が来てくれるかも心配だ。
というか、今日はいろいろあり過ぎじゃないか?今日あったビックリイベントをふと思い返す。
市場じゃこの不景気の煽りで野菜の価格が赤字にしか見えない額にまで引き落とされ、渡されたお金で昼食を食べてもお釣りが来るほどだった。
フィレンのナンパ癖はノンに告白したのにまだ治らず、挙げ句、相手の一匹から「ウザイ。」の一言。それなのに、ショックからは一分で立ち直った。
もとはといえば、あれが今日のこの連続イベントの始まりだった。
「なぁ……どう思う、ボーバン?」
「………酷ぇ趣味だな………。」
また一匹増えたのだ。赤い翼、青い体、僕よりも何倍もドラゴンタイプと呼ぶにふさわしいポケモン、ボーマンダだ。名前はボーバン。彼と出会った………正しくは『発見した』のは今日の午前中。広場の噴水前でノンと合流し、金物屋に向かう途中のことだった。
〜〜
「買い物リストもだいぶ消えてきたね。」
「この調子なら昼頃までには終わるんじゃねーか?」
「じゃあ、終わったら皆さんで一緒にお昼を食べましょうよ!」
こんな感じの雑談を繰り返しながら大通りを歩いていた。昨日と何も変わらず賑わい、戦時中の国は平和ボケしていた。
「あ、そうそう。お前、もう気付いたか?」
「へ?何が?」
フィレンからの突然の質問。この変化のない街で気付いたことなんてもちろんなかった。
「あれ、気付いてねぇのか。ちょっと待ってろ。」
フィレンは後ろを向き、道の脇に生えた木の方を向いた。
「おーい。居るんだろー?出てこいよー。」
そして、木に呼び掛けた。
すると、木の後ろからポケモンが飛び出し、舌打ち混じりに逃げ出した。おそらく尾行していたのだろう。
「あ、逃げやがった!追うぞ!」
フィレンは『神速』で駆け抜け、逃げたポケモンとの距離を一気に詰めた。僕とノンはフィレンを追いかける形となった。
(…というか、何で居るって分かったんだろう………。音さえしなかったのに………。)
『あくまで仮説ですが、尾行のやり口に詳しかったんじゃないですか?あれほどの女たらしですし。』
なるほどと一瞬納得してしまった自分が怖い。でもそれが本当に正解なのかもしれないというのも怖い。
追い付くと、フィレンが既に事情聴取を行っていた。例のボーマンダだ。
「だから………尾行じゃないって言ってるだろ!」
「嘘つけ!ノンちゃん目当てで後をつけてたんだろ!この変態が!恥を知れ!」
それをあんたが言うか。フィレンをなだめて、話を聞いた。
「俺はボーバン。えーと……旅…ポケモン…だな。あそこにいたのは尾行じゃなくて…………あーと………そうだ!あんたらの探検隊に入りたかったんだよ。」
探検隊に入ることを希望している。だが、しゃべり方がぎこちなく、時々言葉がつまったりするあたり、どことなく怪しい。もちろん、フィレンの考えている方ではなく。当のフィレンは「そうか!じゃあ来いよ。」とすっかり信じたため、僕も信じることにした。
〜〜
こんなことがあり、それからはこのボーマンダと行動を共にした。クールだが正しさを貫く熱意もあり、『若者』という肩書きが似合う。僕も『若者』なのだが。
おっと、余談が過ぎてしまった。これからはボーバンみたいに探検隊を志願してくるポケモンも多くなるだろう。もう来ているかもしれない。そうなると、こんなギルドの入り口でつっ立っている場合ではない。
黄色に赤や黒の斑模様のついたテントの中に進んだ。