二十八話 ヒロインも遅れてやって来る
===前回のあらすじ===
遂に遺跡の財宝の番人、キングドラと対決。やはり番人というだけあって相当手強く、遂に負け寸前まで追い詰められる。その時に、目の前に茶色のポケモンが飛び出してきて………。
イーブイは激流を跳ね退けた。凍り付いた地面に飛沫がかかる。
「なっ………貴様、何者だ!」
「『貴様』って偉そうな口利くんじゃないわよ。」
着地すると、全身をぶるぶる震わせて体に付いた水を飛ばす。首にはソアに渡されたものと同じ種類のライトがぶら下げられ、部屋全体は明るさを取り戻した。
「メグさん!何故ここに!?」
「ソアに叩き起こされたのよ。ったく………こうゆうのは昼間やんなさいよね。」
そういえば今は夜だった。ソアの未来が見えた気がする。
「じゃあ、他のみんなも!?」
「ノンちゃんは危ないから外で待たせてるわ。カロトは入り口近くのアンノーン文字を解読中。だいたい二時間かかるって。バカ二匹は私と手分けしてあんた探してたとこ。それより、急に何かが崩れる音やら叫び声やらで来てみれば、瓦礫で通路が塞がれてるわ床が凍ってるわ………この短時間にあんた何したのよ。」
自然の成り行きと説明しても納得してくれないだろう。
雨が上がり、視界も完全に回復した。メグが僕の付近の氷を割ってくれたことで、自由に動けるようになる。
「で、あとはあんたね。」
キングドラの堂々とした態度は既に崩れかけている。
「そこのフライゴンの仲間か。私の『ハイドロポンプ』を受けて平然としていられるとは……。」
「堅苦しい喋り方やめてくんない?イライラするから。」
対してメグは余裕がある。有利なのは一目瞭然。
「ま、あんたみたいなザコは小細工でもしなきゃ私に勝てないんでしょ?」
「な……何!?」
メグがキングドラを嘲笑する。当然黙っていない。
「さっきの『ハイドロポンプ』だって痒くもなかったわ。『みずでっぽう』の間違いじゃないの〜?」
「き…貴様、よくも………!」
キングドラはメグの挑発に完全に乗せられた。イーブイは『ちょうはつ』は使えないはずだが。
「その言葉、撤回させてやる!『ハイドロポンプ』!」
冷静さをなくし、怒りに任せて攻撃してくる。
「……おっそ。」
キングドラの技の構えの途中、メグは『でんこうせっか』のスピードでキングドラにぶつかる。
衝突後、キングドラは壁にぶつかり、気を失った。
また助けられてしまった。まあ、仲間に頼ることも大切だし、良しとしよう。
〜〜
「はい。準備ぐらいして行きなさい。」
「あ、ありがと………。」
メグからオボンの実を受けとる。準備をしていなかったのはソアの方だが。一口かじるだけでさっきまでの疲労や痛みが嘘のように抜けていく。メグは僕が食べ終わると倒れたキングドラに近付く。
「おら、起きなさい。」
「うっ……ぐっ………。」
キングドラの喉元を掴み、無理矢理起き上がらせる。
「さ、白状しなさい。」
「な……何をだ……。」
「とぼけないでよ。この部屋、出入り口が一ヶ所じゃないの。」
「宝の………場所は……教えない……。」
どっちがメスだろうか。喉元を掴んでキングドラを尋問している方でいいのだろうか。
「あっそ。じゃ、次に手っ取り早い方法を使わせてもらうわ。」
メグは、付近の壁に自分の前足を突っ込み、引っ張り出した。壁が破壊され、土が露になる。キングドラが冷や汗をかき始める。
「ここじゃない、か〜。じゃあ次は……。」
「ま、待て!それだけは………。」
「じゃぁ答えなさい。」
「ぐっ………。」
キングドラは悔しそうに目をつむる。
「左側の壁の…………中央の紋章の右下に………仕掛けがある。」
渋々答えた。メグが僕に目で物を言う。
左側の壁の中央の紋章の右下…。確かにスイッチのようなものがある。ゆっくり押してみた。
すると、地鳴りと共に右の壁が動く。通路が出来た。
「ありがと。お陰で手早く済んだわ。」
手を離したことでキングドラの頭が床に付く。オスに対する扱いが酷い。
「さ、行きましょ。」
彼女の横暴はいつまでも続くのだろう。
通路を進むと、途端に先が眩しくなった。耐えられずに目を閉じる。再び目を開けるとそこには………………。
「良かったわね。大当たりじゃない。」
銀世界ならぬ金世界。首飾りに王冠、金貨は数えきれない。全部売ったらどうなるだろうか。
メグが玉座に座り、王冠を頭に乗せる。これだけ見ると別にかわいいのに。
「で、これ全部どうやって運ぶ?」
「分担すれば一回で運べると思う。カロトは少ししか運べないけど、フィレンもいるし。」
これだけあれば結構豪華な基地を作ってもまだお釣りが来るかもしれない。
その後、フィレン、ソアが部屋にたどり着いた。フィレンとソアとメグと僕が、六対四対一対三くらいの割合で分担した。明らかに扱いに格差を感じる。遺跡歩いている途中でカロトとノンと合流した。ノンは外で急に雨が降りだしたから中に入ったらしい。カロトが解読したアンノーン文字は僕が解読した文章の通りだった。
今回の遺跡探検で得た報酬はなんと総額五〇〇万ポケ。内、三〇〇万で基地の建設依頼、一五〇万を貯蓄の方に回し、残り五〇万を均等に分けた。メグなりにだが。
今回の一件で『何もない平原』は『遺跡への平原』に名前が変わり、うちのギルドの名前は一気に島中に轟いた。ギルドの新入りもどんどん増えることだろう。天使さんは朝になったらちゃんと起きたが、謝罪もしなかった。腹が立ったが何もできないのでストレスだけがまた増えた。
だが、近いうちに干し草生活から脱却できると思うと、自然と腹の虫も収まった。
〜〜
カタンコトンと汽車が走る音が耳に入る。窓に寄りかかりながら新聞に目を通す。戦時中だってのに未だに緊張感の欠片もない記事だ。
三面の端っこに少し大きめに書かれた記事が俺の目を釘付けにした。
「………『ピカチュウギルド セイバーズ大快挙』 ………。」
団員の名前を見た。そのうちの一匹を見て、俺の行く場所は変わった。
「……あいつ、あんなとこにいたのか………。」
汽車を止めてもらい、何もない荒野に下ろしてもらった。そして、線路を逆方向に歩き始めた。
「………待ってろよ………。」
「……メグ…………。」