二十六話 灯台の下は暗すぎて
===前回のあらすじ===
ひとつ目の依頼を見事に成功させたものの、お金が足りなさすぎて基地はまだつくれない。
そんなとき、ソアが夜中に平原の下を掘ると…………。
『何もない平原』という名前は詐欺だったらしい。僕の下には大きさの計り知れない人工物が埋まっていたのだ。街からそう遠くないのにも関わらず、誰もが探せなかったのだ。
いや、近かったからこそ見つけられなかったのかもしれない。
だとしたら、ソアはこんなものがあるとどうしてわかったのだろう。これも、前にメグが言っていたソアの謎の一つなのだろう。
「じゃぁ、早速行こっ!」
ソアが先陣をきって突入する。
「ちょ……ちょっと待って!」
「ん?」
階段に足をつけようとしたソアを引き留める。
「こんなに暗いわけだし、明日にしよ。みんなを連れて来れば攻略も簡単になるし。」
それに今は、何故か天使さんと会話ができない。熟睡しているか、仕事を放棄しているかのどちらかだ。
「えー、でもさー。フィレン言ってたじゃーん。『ぜいは急げ』って。」
「それを言うなら『善は急げ』ね。『ぜい』だったら確定申告みたいだからさ。」
「でも、寝てる間に別の探検隊に入られちゃうかもしれないじゃーん。」
子供みたいな反論だ。だが、ソアの言うこともうなずける。とはいえ、暗い上に中がどうなっているか、ポケモンはいるのか、それすらも全くなのだ。危険過ぎる。
「じゃーこうしよ!僕がいせきの中見てくるから、サンはみんな呼んできてー!」
「ダメ、絶対。」
悪いがソアに探検をさせるのは無謀だ。迷子、罠、問題行動…………考えられる最悪のケースはいくらでもある。
「じゃぁ、サンが行く?」
「それがいいんだろうけど、でもなぁ………。」
僕は今、星の光があるとはいえソアの姿が辛うじて見える程度なのだ。ソアの場合は自分自らが発光体になることができるが、光も何も出せない僕が行くのも無謀だろう。
みんなを呼んでくるのを待つにしても、ソアの言っていた別の探検隊がいつ来るかも分かったものじゃない。
「あ!もしかして暗いの?ちょっと待って。」
ソアが自分のスカーフの下を探り始める。首飾りのようなものを引き出すと、ボタンの部分を押した。
辺りは急にその首飾りを中心に明るくなった。ソアが持っているものは小型のライトだった。
「ほら!大陸にいたころ見つけたんだ!すごいでしょ!こんなにちっちゃいのにこんなに明るいんだよ!」
ソアはライトを僕に向けて自慢げだ。大陸とか聞こえたが、それよりも気になるのは………。
「………それ持ってきたのって、暗かったからだよね?」
「うん!」
「……なんで今までつけなかったの?」
「忘れてたんだー!」
やはりソアを行かせなくて正解だった。僕は気づかれないようにため息をついた。
〜〜
ソアはみんなを呼びにいき、僕はライトを持って遺跡の中を進んだ。
中は地下と言うことを忘れそうなくらいの広さだった。壁にはよくわからない紋章や、恐らくポケモンとわかるくらいの絵が刻まれていた。規模も大きいし、相当な文明だったと見れる。となると、お宝とかもたくさんあるのかもしれない。基地の建築費用ぐらい簡単に出てくるかもしれない。床は地下水が流れ込んでいるのか少し濡れていて、歩きにくい。天井は土で支えられており、地下にしては高いが、飛べるほどではない。時々水や砂粒が落ちてくるが、崩れる心配はないだろう。
少し進むと、広間に出た。中央に石碑が立っており、文字がビッシリと刻まれている。
(………これって………。)
見覚えがあった。アルファベットに似た形のアンノーンというポケモン。そのポケモンの形で彫られた文字、『アンノーン文字』だ。
言ってしまえばアルファベットが刻まれているようなものだ。配列からしてローマ字ではなく英語の方だ。幸いにも僕は英語が得意分野だ。読めないこともない。
「hi……sto……ry……。history…。『歴史』か。」
文明に関する経緯が書かれているのだろう。僕はその記述を翻訳することにした。英語なんてどこで使うのだろうと思っていたが、まさかこんな形で役に立つとは………。持てるものは何でも持つべきなのだろう。
「……dieだから『死ぬ』か。えーと、……って痛っ!」
突然、右手に痛みを感じる。横を見るとガマガルが『みずでっぽう』で攻撃してきていた。翻訳に専念していたため、気がつかなかった。
「『ドラゴンクロー』!」
すぐさま応戦する。隙を与えずに連続で攻撃を仕掛けて倒した。一息ついて回りを見渡した。
十匹ぐらいに囲まれているのに今更気づいた。
「やっべ………。」
地震を使いたいが、あくまでここは地下だし、爆音波は音が跳ね返ってくれば自分もダメージを受ける。
面倒なことになった。
〜〜
「『ドラゴンクロー』!」
ガマガルの体を切り裂く。これで最後だったらしい。強さは大体、あのガチゴラスくらい………まぁ、あのガチゴラスとザコとを同じくらいの強さというのもどうかと思うが………。
そもそもあのガチゴラスは防御能力がガタガタで効果が抜群の技だったとはいえ、あんなにもコロッと倒れるとは思ってもいなかった。今でもあの驚きは覚えている。
引き続き石碑に向かい、翻訳を始める。あともう少しだ。
「………、よし、これだけか。」
大体はつかめた。
内容を要約するとこうだ。
『シリウス王国は全能の神、[アルセウス]のご加護によって創世され、[カイリュー]によって指導された。[カイリュー]は神の生まれ代わりであり、彼のお告げに誰もが耳を傾けた。………』
こんな感じの文章が長々と続いている。いかにも神話という話だ。
『……。紀元三〇〇年、十一代国王の長期出兵により、我が国に反抗する勢力は完全に消えた。国民に残る不安はあの災禍を呼ぶポケモンのみとなった。……』
あのポケモンとは何だろうか。災いを呼ぶといえばアブソルというポケモンがいるが、それなのだろうか。
とあるところから、付け足す形で書いたのか、箇条書きのように述べられていた。
『……。紀元四五三年、十七代国王死去。
紀元四七六年、海の向こう側に巨大な島を発見。渡来したポケモンが先進技術を伝えた。
紀元四九二年、十八代国王死去。
紀元四九八年、百年に一度とも言われる豊作。収穫祭が行われた。』
ここで終わっている。かなり栄えた文明だったのだろう。ただ、どれだけ栄えていても、最後にはこんな風に地下に沈んで忘れ去られてしまうのだろう。そう思うと少し怖い。
他にもあるが、この辺にして先を目指すことにした。広間の先にはまだ道が続いていた。
天井から水が滴り落ちた。