疾風戦記

















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三章 -偶然は道端に-
二十四話 走り始めはありきたり
===前回までのあらすじ===

紆余曲折ありながらも、ギルドを結成して探検隊になりようやく職業にありつけた。けれど、やっぱり出だしは順調とは行かないそうで……………。


ギルドといってもあくまで個人企業でしかない。RPGとかだと、主人公が入るギルドはそこそこ有名か、名は知られていなくとも最低限の用意はある。ギルドを立ち上げるのも、それは大体有名な探検隊だったり、頼りにできるものがあるとかで、最初は順風満帆になるのが至極当然だ。ただ、知名度もなし。頼れるポケモンもなし。そんな状況で一企業を成り立たせていこうとすると……………。

「お金がない!」

基地が建てられないから、ノンの提案により、彼女の家を基地代わりに集まっている。が、外にたてた駆け出しギルドの掲示板には何も貼られない。僕とフィレンは喫茶店に居座るなどしてどうにか食と住は賄っている。

「まぁ、メグさん。そう考え込まずに………。」
「そうは言ったって………。この前またちゃっかりと税上がっちゃったし………。」

利益ゼロのためニートに近い。この集まりも、もはやただの交流会になってきつつある。職についても結局飢え死にしそうじゃないか。

「どの道この状況はマズいと思う。フィレンの稼ぎ分とソアの貯金だけじゃ、あと何日もつかも分からないし…………。」
「いっそのこと依頼なしでも適当にフラついてくるか?盗賊ぐらいどっかいるだろ。」
「動いたら動いたらで食費で余計削れるし、依頼の報酬狙いしかないよ。バイトするにしても今雇用厳しいし。」

納税が収入の大半を占めているというこの島で、雇用数が低下していることは数日前に来た僕でもわかる。
二、三日くらいこの調子で、進展が何もない。ソアに至っては話し合いに参加もせずに、外の掲示板を見つめ続ける始末だ。むしろ、その方がいいが。

バタンとドアが開いた。ソアが入ってくる。

「ねぇねぇ!」
「何?やっと来たの?」
「うん!おたずねものだって!」

ソアが一枚の紙をこちらに向ける。
『何もない平原』でガチゴラスのガーゴスの盗賊団が潜伏しているという。捕まえてこいとのことだ。おたずねものの依頼なので、依頼者は当然警察になっている。

「要はあれだな。『何もない平原』が『何かある平原』になったから戻してこいと。」
「そ!じゃあ早速いこう!」

ソアはやる気満々だ。その一方で…………。

「あたしはパス。なんか動きたくない。めんどくさい。」
「えー、いいじゃ〜ん。行こうよ〜。」

ソアがメグを引っ張る。この格差は一体どこから生まれるのだろう。

「おい、ソア。善は急げだ。早くしないと別の探検隊に取られちまうかもしれないし、放っといてやれよ。」

フィレンがソアに声を掛ける。ソアはふてくされながらもメグのところを離れた。


〜〜


『何もない平原』は本当に何もなかった。一面に背の低い草が生えているだけで、木も生えてない。遠くに絶壁っぽいものなら見える。
喧嘩っ早い連中とか、盗賊のしたっぱとかがうろついているらしく、急にポケモンが襲いかかってくる。フィレンに技のコーチをしようかと言われたが、自分で頑張ると断った。厳密には、自分独りではなく…………。

『そうです。そうやって手を下に添えて…………。』
(………こう?)
『はい。それでオッケーです。』
(ところで、何て技なの?)
『何って………“地震”ですよ。』
(“地震”かぁ〜。って危なっ!)

地震。ゲームの世界では相手に強力なダメージを与える地面タイプの技だ。ただデメリットとして、攻撃が味方にも当たってしまう。僕等のうち、フィレンやソアには地面タイプの技がダメージが特に大きい。気を付けないと味方まで倒してしまうのだ。

(ちょっと天使さん!)
『はいはぁ〜い。気を付けます〜。』

適当な返事だ。やる気がないのがうかがえる。これですべての技を確かめたが、地震と爆音波は事故が発生する可能性が高い。まともに使えるのは岩なだれとドラゴンクローぐらいだろう。岩なだれでさえ、時々危ないのだ。
フィレンが中心となって敵を倒したため、苦戦することもなかった。ノンもなるべく加勢し、カロトは逃げながらも援助。ソアは……………あれ?

「こんにちは、盗賊さん!」

…………あいつは一体何をしているのだろう。盗賊がソアの言葉に驚いている隙にフィレンが片付けた。

そんなこんなで散歩程度の道を進むと、絶壁の中にいかにもという洞穴が見られた。

「………うん、間違いない。ここだよ。」

カロトが依頼の紙を手に答える。

「よし!じゃあちょっと行ってくる!」
「あぁ、フィレン!」

フィレンが先に洞穴の中に入る。「僕も!」と言いながらソアも後を追う。

『中がどうなるか予想がつきますね。』

相手から見れば地獄絵図だろう。僕等も中に入ることにした。

横幅が狭いため、一列になって入る。ちょっとした傾斜になっており、湿った土のにおいがする。昔、坑道として使われていたのか、腐食した木の柱が見受けられる。一本道になっていて分岐は全くない。余裕そうだ。途中、壁面に五、六匹気絶したポケモンが埋まっており、肩を揺らすなどして目を覚まさせると声を揃えて「お助け〜!」と叫びながらウサギのように逃げていった。

「………大胆にやってるね。あの二匹。」
「全くだよ………。」

ガチゴラスを捕まえて警察に突き出せばいいだけなので、こいつらは放っておく。更正して正しい道に進めばいいと思うだけだ。

「………皆さん、静かに!」

ノンに言われて口を閉じる。耳を澄ますと何か聞こえる。地響き?どんどん近づいてくる。
道の先に青い点と黄色い点とが見える。フィレンとソアだ。

「フィレン!ソア!まったく何を………。」

言いかけた途端、フィレンとソアの後ろに巨大な岩が出現する。

「逃げろぉぉぉ!」

フィレンの叫び声で一斉に出口を目指して走り出した。

「ちょっと、待ってー!」

カロトのことを忘れていた。僕はカロトのところへ行き、背中に乗せた。

「『高速移動』ー!」

ソアの走るスピードが段違いになる。あっという間に僕等に追い付いた。

「ちょっと!フィレン!あれ何!?」
「洞穴の奥で罠仕掛けて待ち伏せしていやがった!」

入ってきたポケモンをこれで全て追い返していたのだろう。

「どんどん加速してますよ!」
「えーと………出口まで大体一〇〇メートルくらいだから………。」
「計算している場合じゃない!」

ゆったりとでも傾斜になっているため、間に合いそうにない。一本道だからふりきれそうにもない。

「フィレン!銅像持ち上げたんでしょ!そのときの馬鹿力で止めてよ!」
「無茶言うな!あの速さだぞ!巻き込まれるに決まってんだろうが!」
「何でもいいから!」
「何でも………あ!そうか!」

フィレンは立ち止まり、転がる岩を見つめる。

「………今度のはバックステップとかはないからな………。」

爪を鋼鉄のように鋭く尖らせ、岩が近づいてきたところを………。

「『メタルクロー』!」

玉砕。粉々に砕け散った。

「あぶなかったー!」

もうすぐでぺしゃんこだった。

「ありがとう、フィレン。」
「ありがとー!すごかったよー!」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。フィレンさん。かっこよかったです!」

口々にフィレンに礼を言う。ただ、フィレンには一匹の言葉しか聞こえなかったらしい。

「か………『かっこよかった』………のか?……俺が?」

フィレンが何だか嬉しそうにノンを見る。

「はい!かっこよかったです!」

次の瞬間、フィレンは仰向けに倒れた。ノンが心配して駆け寄る。まぁ、助かったし良しとしよう。フィレンは僕が担ぐことにした。奥にたどり着く頃には起きるだろう。

■筆者メッセージ
こんにちは。
以外にも長くなりました。今回からあらすじなるものをつけるようにしました。一週間もたつと、内容も忘れてしまうかもしれませんからね。あと、こっちの話にシナリオとして組み込めないものを短編集に書くことにしました。軽い宣伝ですが。ここまで読んでいただきありがとうございました。
フィーゴン ( 2016/02/07(日) 17:57 )