二十二話 救済者に私はなりたい
メグがソアにギルドと探検隊の申請をお城にさせに行かせた。というか、“王政”ってこと自体初耳なのだが。天使さんの仕事ぶりが伺える。その間、僕らは暇潰しをすることになった。
「……って、メグが。」
「へぇ〜。ノンも大変だったんだね。」
ベンチに座ってカロトから、これまでの経緯を粗方話してもらった。“戦時中”ってことも初耳だった。
『いや〜、伝えるのをすっかり忘れてました〜。』
(はぁ……。)
ただでさえこの世界に関する情報が少ないのだ。しっかりしてもらわないと……。
「それで、そっちは?」
「あぁ。街をうろついていたら強盗事件がおこって、僕が殺されかけたところをフィレンが助けてくれたんだ。」
「この世界に飛ばされてたった数時間で強盗に殺されかけるって……。」
分かっている。生まれたときからツキなんて初めから信じていない。
「フィレンのことは?」
「いや、何も。メス好きってことと世界中を旅していたってことぐらいしか。」
ペンダントとポーチだけという軽装備で本当に旅ができたのかは分からないが。
「まぁ、これでお互い情報交換は終わったかな。」
「うん。こっちは他には何もないよ。で、問題が………。」
僕とカロトが一方向を見つめる。
「何だよ!ちょっとくらい話したっていいだろ!」
「駄目。」
想像はしていた展開だ。メグがノン防衛戦を行っている。
「どーせまたセクハラするんでしょ?訴えるわよ。」
「スキンシップだ!悪く言うな!」
手にキスの時点で既にスキンシップの域を越えている気がする。が、あの渦中に飛び込めば木端微塵にされかねない。カロトも完全に諦めているみたいだし、仕方なく僕も見守る。
「大丈夫ですよ、メグさん。私なら何とも思いません。」
「ノンちゃんがいいって言っても私が許さないわ。この変態なんかと……。」
「誰が変態だ!どこが変態だ!」
口論は激しさを増す。なんだか展開が読めた気がする。
『メグさんとフィレンさんのガチ対決ですね!ワクワクです!』
(ワクワクするな!)
本当になりそうだから怖い。あのパンチをソア以外が受けたらどうなるのだろう。死にはしないと思うが………。
「メグー!」
遠くからソアが叫びながら近づいてくる。何かを担いでいるのが見えた。風呂敷だろうか。
「“しんせー”してきたよー!探検隊の名前も聞かれたから僕が決めたよー!」
「はっ!あ〜、しまった!」
メグが頭を抱える。まあ、性格もつかめているので自体の深刻さは伝わってくる。
「何で名前だ?」
「えーっとね、『セイバーズ』!人間さんの言葉で“セイバー”っていうのは誰かを助けるって意味があるらしいんだ!だからセイバーズ!ピカチュウギルドのセイバーズだよ!かっこいいでしょ!?」
ソアが言っている“セイバー”は、英語の『saver』、もしくは『savior』のことだろう。どちらも救済者とか救世主とか、そんな意味があった気がする。
「おお!いいな。俺らの仕事は救助じゃなくて探検だがな。」
気に入ったのか満足げに笑うフィレンとは対照的に、メグは「また変な名前に……。」とボヤいている。
「それで………これ!」
ソアは風呂敷の中からたくさんの布を取り出した。
「“しんせー”のときに、ギルドの印になるものを頼まれたんだ!だからこれをギルドの印にするんだ!」
布はスカーフだった。赤や緑、青など様々な色がある。
「……何でこんなに?」
「バーゲンのときにいっぱい買ったんだ!」
金銭事情でバッチとかは買えないのだろう。でも、いいアイデアだと思う。
「よし。じゃあ俺は紺色だ。」
「僕は黄色!メグはピンク色で、ノンは赤ね!」
「何でよ。別にどれでもいいけど。」
「まぁ、私もどれでも……。」
各々適当に色を選んだ。カロトは黄緑、僕は橙になった。
〜〜
「それでー?なんの話なの?」
話題を変え、ソアがメグに尋ねる。メグは切り替えて前を向くと、何かひらめいたかのように口を開いた。
「ちょうどよかったわ。あんた、こいつと戦って。」
全員が反応した。ソアが戦う?どういうことだろう。明らかにメグが戦えば確実に勝てるのに。ソアもソアで死なないっていうアドバンテージはあるが、長期戦になるだけで何の得もない。
「よくわかんないけどオッケー!」
ソアも相変わらずの承諾の早さだ。
「ねぇ、変態。こいつに勝てればノンとのスキンシップを許すわ。でも負けたら、この子のことは完全に諦めなさい。一応、バトルの間だけは瀕死になるって前にこいつ言ってたし大丈夫よ。」
「だから私は何ともないと………。」
「よし、いいだろう!受けてたつぜ!」
フィレンも乗り気だ。もちろん天使さんも。
〜〜
「どっちかが降参、もしくは倒れた時点で終了。いいね?」
「オーケーだ。」
「だいじょぶだよー!」
勝負は近くの闘技場で行われることになった。テントが張られているだけだったものの、中はそこそこ広いし、地面もしっかりしている。入場料はソアが払った。どうやらそれで財布の中身が尽きたらしい。バトルの審判はカロト。もう夜に差し掛かっているが、数匹の観戦者もいる。そういえば、ソアのステータスを覗いていなかった。僕はソアを凝視する。
「ん!?」
HP無限大とかを予想していたが違った。有限ではある。ステータスがレベルの割りに高いということでもなかった。しかし、僕の瞳に映ったものはそれでも気になるものだった。
「それじゃぁ、バトル開始!」
カロトの声が場内に響いた。
と、同時にソアの顔から感情が消えた。