疾風戦記

















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二章 -バカに薬は効かない-
十九話 人事を尽くせば天命が下る
サイコキネシスを完全に封じることは不可能だ。だが、少しでも解除できれば望みが生まれる。記憶では、部屋の左に薬品棚があったはずだ。

「タネばくだん!」

薬品棚にタネばくだんを当て、ガラスを割る。破片が飛び散り、一部がラレスの体に迫る。

「な!?」

ラレスは驚きながらも、ガラスの破片にサイコキネシスをかける。これにより、僕の方にかかっていたサイコキネシスが一時的に解除され、地面に着地する。よし、読み通り。これなら……。

「はっぱカッター!」

ぼくの技も通る。仕留められないのも承知の上。だから、目を狙う。

「ぐわぁぁぁぁ!」

ラレスは破片の対処に集中していたので、僕の攻撃は直撃した。目は潰した。ここからだ。
ラレスは動きの遅いポケモンだ。ということは、バトルにおいて必ず相手の攻撃を耐えきる前提で戦う。そうなると、防御能力や再生能力も高いと見れる。視界を奪っても一分程度で完全に戻るだろう。その間に、状況をひっくり返す。はっぱカッターを連続で飛ばした。全方位に。本に当たり、紙片が舞う。次にタネばくだんも同じように飛ばし続け、爆風で棚を倒す。本の重量を削れば、おのずと倒れやすくなる。ほとんどの本棚がテーブルやソファに引っ掛かり、下に隙間ができる。僕は、その下に潜り込み、息をひそめる。

「くっ………どこだ……殺してやる……!」

回復しきったようだ。サイコキネシスは視界の相手に効く技だ。だから、死角から攻撃を繰り返すか、視界で隙を与えず攻撃を繰り返せばいい。先手を打たせてはならない。僕を探して室内をうろついているはずだ。足元にボトルが二本転がっている。薬品棚から転がってきたものだ。片方には『HCl』と書かれたラベルが貼られている。塩酸だ。お目にかかるのは初めてだが、知識はある。
僕は、二本のボトルを口にくわえて棚の下から這い出る。振り向くと、ラレスが背を向け、サイコキネシスで本棚を持ち上げている。塩酸のボトルの中身をラレスに向けてぶちまける。振り向き様のラレスに見事に命中した。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

塩酸には皮膚や金属を溶かす性質がある。濃度が高ければ、火力ははっぱカッターの何倍にも相当する。
断末魔と共に隙ができる。僕は、残った方のボトルを部屋中に撒き散らした。ラベルは『C2H5OH』と書かれている。
エタノール。アルコールの一種だ。そして、周囲には先程はっぱカッターで散らした紙片。紙片の少ないところに移動する。あとは……。

「タネばくだん!」

火を点けるだけ。空気中の酸素が一気にか無くなる。部屋中で火の手が上がる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

相当な火力になるだろう。僕へのダメージも大きいが、こうごうせいでなんとかチャラにできる。
だが、これではまだ倒れない。火が弱まったあたりでラレスが立ち上がる。次の策に移ろう。


〜〜


「そこまでだ。」

空気が揺れた。ラレスではない声が耳に入る。前を向くと一匹の黒色のポケモンがいた。影をイメージさせる、ダークライというポケモンだ。

「ク……クレイ…様……。」

重傷のラレスがダークライ、クレイを見る。

「緊急召集だ。大陸西岸で大規模反乱だ。加勢しろ。応急処置は向こうでする。」
「し……しかし……この街は……。」
「放っておいて構わん。もう充分だろう。」

どうやらクレセント国の上官らしい。ラレスは「了解……しました……。」と言うと、クレイが作った何かの穴に入った。クレセント国につながっているのだろう。

「おい。」

クレイが僕の方を見る。冷徹な眼差しが送られる。戦うとなれば不利な状況だが、退いたら完全に負ける。僕も強気にクレイを睨む。

「……成程。どうやら今後、君や君の仲間と戦うことになりそうだ。楽しみにしているよ。」

“仲間”というと、ソア、メグ、ノンの三匹のことだろう。それを知っているということは、こいつがスパイとして動いていたのだろう。
クレイはそのあと、ラレスの入った穴に入り、姿を消した。


〜〜


極端な緊張が一気に解けて、僕は気を失ったらしい。丸一日寝ていたらしい。
その後はメグの話によると、メグが教員に丁重に話を行ったことで僕の退学は例外的に認められたらしい。大学で放火発生ってことでマスコミが大学やらソアの家やらに押し寄せて来たらしいが、これも全員メグが丁重に対応してくれたという。「丁重に」以外全て真実なのだろう。
これによって僕は、探検隊に正式に入ることができた。まだギルドも出来ていないことは初耳だが。まあ、何はともあれ悪夢は消えた。足を引っ張ることになるだろうけれど、できることを精一杯やっていきたい。
メグからの話を一通り聞き終え、僕は、

「じゃぁ、これからよろしく!」

と、手を差し出した。意気込みの証明のつもりだ。

「はぁ?気安く話し掛けないでよ。うざい、消えろ。」

一生分の毒を吐かれた。「ご、ごめん……。」と返して萎縮してしまう。
僕のヘタレはまだ治ってなかった。

■筆者メッセージ
どうも、こんにちは。間違いでナエトルが『つるのムチ』を覚えると思っていました。
アニメでやってた気がするんだけどなぁ。フシギダネとごちゃごちゃになったのかなぁ。
「本棚をつるで倒して……」ってことにしようと思っていたので想定外でした。カロトさんには爆風で倒してもらいました。こういう風にミスが多い作者ですが、今後ともよろしくお願いします。ミスの指摘はしていただければ嬉しいです。変更するか、大学の理事長云々のようにこじつけるかはちゃんと追記に書いておきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
フィーゴン ( 2016/01/03(日) 22:50 )