十五話 バカぢからは結構強引
「ふ〜ん、つまんない半生ね。」
「うぐっ……。」
正論だ。返す言葉が全くない。苦笑いしてごまかすくらいしかできない。
「仕方ないですよ、メグさん。誰にだって失敗はありますよ。」
「こいつの場合、失敗する場所を間違えてんの。独断で大学入学とか何考えてんの?バカ?」
せっかくのノンのフォローをメグがゼロにして僕にぶつける。
「まあ…。自分で選んだ道だし、文句は言わないよ。ただ、これからは間違えないように気を付ける。」
「気を付けるって何を?」
「え、えーと…。選択肢を間違わないように……。」
「どうやって?」
「え?」
まるで警察の尋問だ。息を継ぐ暇も与えず質問攻めだ。頭が追い付かなくなる。
「よく考えて…。正しいのか見極めて……。」
「はぁ、ダメね。あんた、いつまでも同じままよ。」
「え!?」
「メ、メグさん。それってどういう……。」
「そんなの、こいつが自分で考えることでしょ。放っとけばいいのよ。」
このメグというポケモンは、とことん僕のことが嫌いらしい。正確には、“僕みたいなやつ”が正しい。だけど、嫌われたことが何回もあったのに、このポケモンの嫌い方は今までの嫌われ方と何かが違う気がした。話の内容でも、言っていることの意味や意図がいまいち読み込めない。
「そうだ、何分たった?ノンちゃん。」
「えっと…。三十分ですね。」
「まだ三十分かー…。」
メグは机に突っ伏した。うんざりだという表情をしている。理由は大方、まだ聞こえてくるドアを叩く音なのだろう。新聞の売り込みだっけ。さっきの言い訳はかなり支離滅裂だったので嘘だとは容易く分かるが。
「…帰っては………。」
「ダメ。あいつがすかさず入ってくる。」
「バッて出てバッてドアを閉めたら……。」
「ムリ。あいつをなめちゃいけない。」
やはり帰れそうにない。声や行動からしてかなり気の抜けたポケモンなのだろう。なのに、なめてはいけないとはどういうことだろう。
「あ!ところでメグさん、カロトさんを探検隊に迎えてはどうでしょう?」
「え!?」
僕はメグの方を見た。このポケモンたち探検隊だったの!?何で教えてくれなかったのだろう。考えるのに十秒も要らなかった。なぜなら……。
「やだ。こんな弱いの要らない。」
答えを教えてくれたから。ぐっ……また正論…。さすがに傷つく。確かに僕に探検隊は不向きだ。でも、できれば……。
「……入りたい…かも…。」
大学にずっといるよりかは……だけど。
「ほら!カロトさんもこう言ってますし!」
ノンが一緒に申し出てくれた。さっきから僕の味方ばかりしてくれている。天使だ…。心から感謝したい。
「う〜ん。じゃあ、条件三つね。」
「条件?」
「近付かないこと。
足引っ張らないこと。
いざというとき盾になること。」
「待って!三つ目おかしい!」
「この三つを守れるなら、私たちの探検隊の正規隊員代理ぐらいにしてもいいわよ。」
「待って!それ実質、探検隊に入ってないから!」
「短気な私がここまで寛容な条件を出してあげてんのよ?素直に呑みなさい。」
「うう……。」
黙り込む。前の二匹も僕の返事を待って黙っている。静かになった。そう、異常に。さっきまで鳴っていた音が鳴っていない。僕はドアの方を向いた。メグさんやノンさんも気付いたのか同じ方を向く。
バリィィィィィィィン!
無音が途絶えた。ドアが粉々になる。激しい音に僕は怯んだ。
「やったー!」
ピカチュウがバンザイして喜んでいる。手には、どこで手に入れたのかハンマーが握られていた。
「あ!お客さんだー!」
ハンマーを捨てて家の中に入る。
「誰々〜?名前何〜?」
「え、カ、カロト……。」
「カカロトだね!よろしく!」
「“カカロト”じゃなくて“カロト”ですよ、ソアさん。」
「そっか!よろしく!カロト!」
「よ、よろしく…。」
ハイテンションなポケモンだ。ソアと呼ばれたそのポケモンは僕の顔を見るのをやめ、メグの方を向く。
「なんの話してたの〜?」
「ああ、カクカクシカジカよ。」
「それで伝わるんですか?」
「こいつに伝える必要なんてないでしょ。」
メグが嫌いなポケモンは、一応僕以外にもいるようだ。オスに対する扱いが酷いとも見れる。
「そっかー!わかったー!」
「分かったの!?」
どうやって認知したのだろうか。横でメグが「こいつはいろいろと謎が多いから。」と言っているものの、さすがに無理がある。
「よーし!カロトは今日から僕らの探検隊の一員だよ!一緒に頑張ろう!」
ソアがワイワイ喜んでいる横で、メグがため息をついた。「またか…。」とい聞こえた気がした。