疾風戦記

















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二章 -バカに薬は効かない-
十三話 超高性能勉強サイボーグ
幼い頃、父に言われた。『オスはどんな時でも強くなければならない。』と。
だからとりあえず、身体を鍛えていたわけだが、ある時期から同年代のポケモンとのバトルに全く勝てなくなった。病院での診察の結果、レベルの割にステータスが極端に低くなっていた。しかも、単純に上がりにくくなっていたわけではなく、ステータスがあるレベルから上昇しなくなっていたという。病名は分からない。
それからというもの、運動という分野を完全に捨て、二の次にしていた勉学の方に勤しんだ。暇なときは読書ばかりしていた。学問においては何故か異常に成功した。通っていた学校で成績トップなんて当たり前というくらいに。運動について完全におられていた僕にとってこの成功はかなり大きかった。しかし、周りから距離を置かれるようになった。陰口を何度耳にしたことだろう。僕は独りになることが多くなった。
そんな時に、一通の手紙が届いた。大学への転入、つまるところ跳び級の話だった。希望が見えた。もしかすると僕を認めてくれるのではと。
すぐに返事をした。母はそもそも他界しているし、父は一年前の出兵以来安否さえ知らない。なので、完全に僕の独断だった。前の学校から今居る街の大きな大学へと僕は転校した。
現実がそこまで甘いわけがない。僕は認められるどころか否定された。知識もない若造呼ばわりされるのが当然のなり行きだろう。一応、様々な分野の本を読破し、知識においては絶対の自信がある。が、それを意図も容易く否定する彼らは相当賢いポケモンか、相当なわからず屋なポケモンのどちらか二通りだ。講義も意味がないだの、年配者が優先だのと受けさせてくれない。僕は日々、大学で“雑用に近い仕事”に励んでいる。

「……今日は水汲み…か。」

今日も平凡に一日が始まった。背中のコウラに桶を乗せ、川へ向かう。むしむしとした空気が全身に伝わる。水道ができ始めているとはいえ、まだよく止まる。そのため汲み置きしておくのだ。幸いにも川は街の中央を流れているため、運動音痴の僕にはかなりの親切設計だ。もっとも、川の周りに街はできるものなので、ごく自然なことなのだろうと、また余計なことを考える。
ただ、それでもバテてしまうのはさすがに運動音痴の度が過ぎていると思う。ナエトルという種族上、足が遅くスタミナも消費しやすい。普通のナエトルにはある打たれ強さが僕にはないため、さらに消費が加速する。
おまけにビビリな性格なので、上の連中に直談判にもいけやしない。父の言葉に背くようだが。
川辺で身を屈める。冷たそうな水だ。オケをコウラからおろし、持ち手をくわえて川から水を掬う。こぼれないようにまたコウラの上に乗せる。川に背を向け、僕はまた歩き出した。


〜〜


「すみません……メグさん…。」
「いや、別にいいんだけどさ…。」

街を歩く私は前方を軽快にスキップしながら歩くバカの監視をしている。今日は川の近くなので、昨日よりかは涼しい。
……だが、昨日の道徳教室であっさりと仲間になったノンが私の背後にベッタリとくっついている。道徳教室の件に関しては、感じ方とか立場によって受け取り方も変わるものだし、まあそれはいいとして、問題は……。

「すみません……ここまでポケモンが多いところは初めてで……。」
「うん、何となくやりたいことはわかるんだけどさ……。」

六年間引き込もっていたのが大きかったらしく、内気且つコミュ障のノンは、周囲から目立つまいと私の背中の後ろで身を屈めながら歩いている。透明化すると、私が見失うという配慮がなされているのだろうが……。

「あのさ…体格差って分かる?」

私とノンでは大体三倍くらいの身長差がある。周りから見ればかなり面白い光景だろうが、ノンが真剣に目で訴えてくるのでやめろとも言いづらい。オスという生き物が大っ嫌いな私にとって、メスの友達はかなり嬉しい。が、もう少し、こう………まともなやつがよかった。私はまたため息をついた。

「あ、メグさん。」
「ん?何?」
「ほら、ソアさんが…。」
「ああ、あいつがどうかしたn…。」

私が前を見ると、そこではソアが全速力で走っているのがた見えた。その先には一匹の草ポケモンがいた。あのバカのことだ。おそらく………。


〜〜


…………未来をこれほど的確に予想できたのは初めてだ。
正面衝突は避けられなかった。両方とも気絶している。ぶつかったのはナエトル。頭の苗木とコウラが特徴のポケモンだ。

「とりあえず、こっちのバカは考えなくてもいいとして、問題はこっちのナエトルね。」

正直、起きる気配がしない。そばにはオケが転がっていて、中に入っていたであろう水は全てこぼれてしまっている。川に落ちなかっただけ運がいいと思うべきだろう。

「……とりあえず、ここだと邪魔になりますし、家に運びましょう。」
「そうね。包帯とかもあるしね。この人混みだと歩いたら時間かかりそうだし、ノンちゃん運んで。飛べるでしょ。」
「はい!頑張ります。」

ノンはナエトルを背中に乗せる。

「落とさないようにね。じゃ、帰るわよ。」
「え?待ってください、メグさん。」

私が歩こうとすると、ノンが引き留めた。

「ソアさんはどうするんですか?」
「あいつも乗せたら重いでしょ。それに、だいたい二十分経てば勝手に帰ってくるわよ。」

ノンは、何だか申し訳なさそうに了解した。
あいつに慈悲は要らない。

■筆者メッセージ
なんだか改めて自分の文章を見返すと、山場の盛り上げが滅茶苦茶下手くそだな、と思いました。
精進したいです。一番大切なところですからね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

追記:11/24 一部訂正を行いました。
フィーゴン ( 2015/11/19(木) 00:17 )