九話 天然というより不治の病
「ふぁ〜、おっはよー!」
…起きた。私はパソコンの前から立ち上がりソアの方を向く。
「歯ァ食い縛んなさい。大丈夫。今日はあと百回くらいで終わるから。」
右前足に力を入れる。
「え!?なんで!?待って待って!」
「しゃべったら舌噛むわよ。それとも、永遠にしゃべれなくした方がいいかしら?」
「待って!今回は、“はなし”があるの!だから待って!」
今回は…。ということは、前回までは訳もなく話してきていたということか。
ここまできて“話”となると光熱費とかの話だろうと大体想像はつくので、それだけ聞いたら前回までの分をきっちり殴っておこう。
右前足を下ろすと、ソアはホッと胸を撫で下ろした。
「ここ最近、“しゅしつ”がかさばってきているのは前にも伝えたよね。」
「うん、“支出”ね。確か戦争でまた税上がったんでしょ?」
戦争。この国、というかこの島は現在、近くにある大陸、“炎の大陸”にある国、“クレセント”と戦争を行っている。
といっても、話によれば二十年前に向こうから攻め込まれてきたのを撃退しているだけだそうだ。つまりは自己防衛。最小限で押さえているらしく、誰かが死んだとかはあまり聞かない。
どこら辺まで領土を奪われたとかも一切聞かないが、クレセント国が三十年前に世界ではじめて工業の道を切り開いてから世界の一、二を争うくらいの強国になっている。
しかも、最近ではポケモンを殺傷するためだけに使う道具、“武器”というものまで作っているそうだ。うちの国も戦争前までは文化交流とかで機械とかはたくさん入ってきたが、全く比にならない。だから、そこら辺まで来ていてもおかしくない。
まぁ、来たら来たでぶん殴れば済むはずだ。
「そ!そんで、ボクの貯金とメグの“にゅーしゅー”だけじゃもうたりそうにないんだー。」
「“収入”ね。いちいち難しい言葉使おうとしなくていいから。」
私が余計なことを考えているうちに、ソアは話を進めていく。
「そこで…。」
ソアは自信ありという顔で私を見つめる。
「な、何よ。」
「ふふ〜ん、聞きたい?」
「もったいぶらずに早く言って。」
「えっとね!」
「ボクらでギルドを開いて探検隊をやろう!」
〜〜
「…ごめん。もう一回。」
「だーかーら、ギルドを開いて探検隊をやろう!」
「……。」
言葉も出ない。こいつがひどいバカだとは知っていたが、まさかここまでとは…。
「……十字固めって痛いらしいわね。」
「え!?待って!理由も聞いて!」
理由…って言ったって…。
「どうせあれでしょ?最近はやりのあの映画。『空の軌跡』だっけ?言っとくけど、あれノンフィクションにしては出来すぎてるから。第一に主人公がもと人間よ?いくら有名なプクリンギルドでもそんなやついる訳n…。」
「へ?何その映画?ボクも見たーい!」
ソアはとぼけた反応だ。
「…知んないの?」
「あ!あれなら知ってるよ!ジュペッタがゾンビをバーンバーンってたおしてくやつ!」
…こいつに常識をぶつけた私がバカだったらしい。こいつと話しているといちいち時間がかかるから面倒くさい。
「じゃあ、理由って?」
「えっとね!探検隊になると、いろんな“おたから”を集めたり、つよーいポケモンとバトルしたりできて、お金ももらえるし、何よりかっこいーんだよ!」
ソアは目を輝かせている。こうなったこいつは止まらない。
以前、雪の日だからって「お城を作りたいっ!」って言い出して、寒かったから放置していたら数時間後にソアがガーディさんに連れてこられたことがあった。高さ七メートルを超えるほどの謎の雪の塔が庭に立っていた。
なので、放っておくとかえって迷惑だ。こういうときは監視しながら飽きるのを待った方がいい。もちろん…、
「わかった。けど、商店街で売ってるあのお菓子買ってね。」
こういう所はぬからない。うまくいけば大金持ちだし、大体こいつに任せておけば何とかなる。
ソアはまたピョンピョン跳ねて喜んでいた。