ズーフィリア
最近、ポケモンを見ると胸が悪くなる。
組織に入る前はポケモンのことは好きでも嫌いでもなかったが、今では圧倒的に嫌いだ。特に可愛らしい姿形のポケモン――ピカチュウ、イーブイ、メリープなんかを見かけると吐き気がする。ポケモン自体に吐き気がするわけじゃないが、見ると不愉快になる。
俺が所属しているロケット団は、ポケモンを扱った闇市場を席巻している大組織だ。意外なことにモンスターボールの制作販売や傷薬などのトレーナーたちの必需品、ドーピングアイテムと名高いタウリンなどの製造にも一枚噛んでいるらしい。らしいというのは、まあ、俺も同僚からの又聞きで知ったから真偽のほどは確かじゃないっつーことだ。確かじゃないけど、それほどまでにロケット団はでかい。幅広く金儲けをしている。そんでもって、幅広くやっているからには、資金調達の手っとり早い方法も採用されている。
色を売る。
これほど昔から金儲けに使われた手段は古今東西つつうらうら見てみてもないはずだ。客はひっきりなしに金を持ってくるし、元手が少なく手取りは多い。常套手段というわけだ。だから俺にその手の任務が回ってきたのも当然といえば当然で、もしかしたらおこぼれが頂戴できるかもと当初は浮かれたもんだ。けどそんな甘い夢は早々にぶち壊されることになる。ぶち壊されるどころかミサイル爆撃だった。
タマムシの夜の花街をぶらついていると、花売り娘たちに紛れてポケモンが佇んでいるのを見かけたことがあるだろう。俺はこの仕事に就く前は別になんとも思わないで、ひたすら女のケツとかおっぱいを追いかけていた。いくら見た目が媚びるような感じでもポケモンはポケモンだし、いくらなんでもそこにブツを突っ込むとか考えられない。だけど世の中にはいろんな人種がいるらしかった。
結果をさっさと言っちまおう。
俺たちが扱うのはポケモンだ。それはこういう俗物的な商売でも同じだ。つまるところ俺たちはポケモンに花を売らせている。
そんなことしたって誰が来るんだよと言いたい気持ちはよっくわかる。俺だって初めはそう思って、こんな計画を立てた幹部連中をバカにしたもんだ。でもな、儲けるんだよ、これが。
普段からポケモン相手に欲情してても、ポケモンが危なくて手が出せないってな客がわらわらいるんだよ。可愛いとか言われるポケモンでも人間からすれば強いし、危険だ。ピカチュウなんかに一物突っ込んだら即電気でばったりだろう。っていうかピカチュウの内臓が破裂しちまうだろ。だからピカチュウはそういうのはできない。どっちにしろ使われるのはそこそこ体格のあるやつだけだ。そういうポケモンを飼うのは案外骨が折れる。
組織もその辺をねらっていたようで、準備よくそれ用のポケモンを揃えていた。どうにも研究者たちが開発した黒いモンスターボールに入れられると、ポケモンたちは既製のモンスターボールの時よりも強く服従を促されるらしい。黒いモンスターボールで捕まえたいわゆる可愛い系のポケモンを、裏でさらに従順に仕立てあげてから店で使う。
そういうところを見たら誰だって気がおかしくなっちまう。
おかげで俺はすっかりポケモン嫌いになってしまった。
「きみの気持ちもわかるけどさあ、バトルで使うのも仕事の手伝いさせるのもポケモンからすれば同じだよ」
同僚がクリームソーダを混ぜながら言う。
「それにきみが嫌いなのはポケモンじゃなくて人間の方」
それはそうだが、気持ちの悪い客どもを連想させるポケモンも嫌いになってくる。汚いと思うともうダメで、どれほど健気に振る舞っていてもやっぱり汚くみえる。かわいそうだとかそういう風には思わなかった。
「ていうかさ、きみもそういう性癖があるんじゃないの。だって商売女見ても鼻の下伸ばすだけなのにさ、同じことさせられてるポケモンにはムカつくんでしょ。それって自分のそういう異常なとこに目を当てたくないだけなんじゃないのかなあ」
それはない。ぜったいにない。俺は人間の女にしか興味がないんだし、そもそもポケモン相手にそういう気持ちは持てっこない。
「あっそ。まあ、調教係りとしては何にも思われないと悔しいけどね。人間よりいいよ、あのこたちは」
飾りのさくらんぼをぺろりと舐め、同僚はけたけた笑った。