突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語 - 第一部 世界征服を目指す物語
第五章 超電磁怪人、参上! Part1

突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第五章 超電磁怪人、参上!



ジバコイル娘
 「視界良好……各部チェック……」

当夜
 「あ、あわわわわ!?」

突然、事故で目覚める怪人ジバコイル娘。
全身が機械で覆われており、紅い瞳は大きく円だった。
身長は僕より少し大きく、怪人というには見た目は小さいが、物々しいサイボーグといった感じだ。
僕はパニックになりながら、ジバコイル娘と熟睡するタキオンさんを見比べた。
え? ちょ、これ、どうすればいいの!?

ジバコイル娘
 「お聞きします、貴方が私のマスターですか?」

当夜
 「え?」

ジバコイル娘は突然首を傾げた。
僕は予想外の反応に戸惑ってしまう。
あれ、この子……怪人、だよね?

当夜
 「えと……君の名は……?」

ジバコイル娘
 「失礼しました、私はDT01、怪人ジバボーグです」

ジバボーグ? この怪人は挨拶する時、丁寧にお辞儀までした。
思ったより可愛い声だが、なんだかギャップがある怪人だなぁ〜。

当夜
 (うーん? タキオンさん寝てるのに、勝手しちゃってもいいのかな?)

ジバコイル娘のジバボーグさんはあどけない顔で、僕のヘルメット越しで表情の見えない顔を覗き込んでいた。
サイボーグっぽいと思ったけど、これペレさんに比べるとサイボーグっぽくない!

ペレ
 「タキオンは一度眠ると、まず起きません……」

ジバボーグ
 「此方の方は?」

当夜
 「ああ、その人はペレさん、君の先輩かな?」

ペレ
 「怪人ペレです、デズリー総統の身辺警護及び身の回りのお世話を任務としています」

ジバボーグ
 「怪人ペレ、メモリーに登録致しました」

当夜
 「えと、僕は上乃子当夜、デスリー総統をしている」

ジバボーグ
 「上乃子当夜様……、登録はいかが致しましょう?」

当夜
 「登録?」

今度は僕が首を傾げる番だった。
なにか、やっぱりこの娘何かズレてるなぁ。

ジバボーグ
 「上乃子様と登録するべきか、当夜様と登録するべきか、それともフルネームで登録するべきか?」

当夜
 「ど、どうでも良いよ……君の好きにして」

ジバボーグ
 「では、親愛を込めて当夜様で登録させていただきます……メモリーに登録、当夜様改めデスリー総統、おはよう御座います」

ジバコイル娘ジバボーグは改めてそう言うと、頭を下げた。
改めてもう一度全身を見ると、身長は150センチ後半位、里奈ちゃんより小さい位かな?
顔は均整がとれていて、紅いくりっとした大きな瞳が特徴的だった。
だけど、顔にも機械化の影響が出ており、左目はバイザーのような機械に覆われていた。
首から下は更に凄まじく、鋼鉄の塊だ、両肩には同じく紅いモノアイが、周囲を伺っており、サブカメラを連想させる。
両腕には巨大なU字磁石が備えられており、如何にもメイン武器って感じだ。
ペレさんとは色んな意味で対極的で生身の部分があまりに少ない。

当夜
 「えと、聞きたいんだけど、ジバボーグさんは、どうして怪人になったんですか?」

ジバボーグ
 「志願しました、タキオン博士は私の身体が機械化する上で親和性が良いと判断され、私が試作機に選ばれました」

ペレ
 「あくまで試作ですか、完成度は以下ほどでしょうか?」

ペレさんは研究室を片付けながら、蛋白に言った。
怪人とはいえ元PKM、その反応は如何なものなのか?

当夜
 「えと、怪人前はどんな子だったの?」

ジバボーグ
 「はい、私の改造前はデスリーの戦闘員でした、しかし能力不足で予備軍であり、大人しく弱気なものでした」

当夜
 「うわ……そ、そうなんだ」

思ったよりジバボーグさんの改造前はハードそうだった。
しかも落ちこぼれって、僕と一緒じゃないか!?
後、今更だけど、このタイプって脳改造するのが基本ってイメージだけど、記憶は改竄されてないんだね。

当夜
 「ジバボーグ以外に名前はあるの?」

ジバボーグ
 「渚風子(なぎさふうこ)という名があります」

当夜
 「あ、やっぱり普通の名前なんだ」

怪人って、妙に人間名に関しては普通だよね。
どうしてヒーロー番組の人達って、あんなにキラキラネームが多いんだろう?
おかげで、一発で名前が覚え辛いんだよね……キラキラネームって。

当夜
 「ジバボーグさんは何か聞きたいことはない?」

ジバボーグ
 「……それでは、私の遂行目標を教えて下さい」

遂行目標、ときたか。
それは勿論対ゲノセクトエースなんだろうけど。
僕はそれは首を振った。
戦う為だけのポケモンなんて可哀相過ぎる!
僕はそんな哀しい命令を彼女に下す事は出来ない。

当夜
 「ジバボーグさん、貴方の遂行目的はこの世界を少しでも良くする事!」

ジバボーグ
 「この世界を少しでも良くする事?」

ジバボーグさんは反芻した。
ペレさんは何も言わない、その表情は相変わらずの鉄面皮、でも少しだけ微笑んだ気がした。

ジバボーグ
 「遂行目標を最重要に設定、その為の行動に移ります」

そう言うと、ジバボーグさんはその場を片付け始めた。

当夜
 「あ、僕も手伝うよ」

ジバボーグ
 「構いません、直ぐに終わりますので」

ジバボーグさんはそう言うと、両肩のモノアイから赤い走査線が部屋中に走った。

ジバボーグ
 「スキャニング完了、電磁性と非電磁性を分け、分別開始」

ジバボーグさんの両腕からバチバチと電撃が走った。
すると、強力な磁力が部屋全体に放たれる。
ジバボーグさんは、ガラクタにしか見えない研究室を埋め尽くしていた資材を全て浮かせると、丁寧に分別していった。
本人が言うとおり、本当に直ぐに片付けは終了してしまった。

ペレ
 「これは逸材ですね」

ジバボーグ
 「恐縮です」

ジバボーグさんはペコリとペレさんに頭を下げた。
ただ、問題があるとすれば。

ペレ
 「静電気で、髪がめちゃくちゃです」

それはペレさんの長い長髪が全部逆立った姿だった。



***



タキオン
 「お腹空いた……」

夕方にはタキオンさんが目を覚ました。
ジバボーグさんを放って置くことも出来ず、僕とペレさんはずっと研究室にいたが、タキオンさんは寝ぼけ眼を擦ると、周囲をキョロキョロした。

タキオン
 「うん? これは……なんじゃこりゃー!?」

それはピッカピカになるまで、綺麗になった研究室だった。
片付けが終わった後、床掃除が始まると、ジバボーグさんは埃や汚れだけを電離分解し、そこをペレさんがモップで拭く。
びっくりするほど、床はピカピカになってしまった。
ジバボーグさんの能力はとても応用性が効くようで、その様にはペレさんも「素晴らしいお掃除怪人ですね」と評した程だ。

ジバボーグ
 「おはようございます、タキオン博士」

タキオン
 「うん? 何故起動している? ていうか、ここは何処だ!?」

ペレ
 「貴方の研究室よ」

如何に天才のタキオンさんといえど、眠っている間は何も分からないのだろう。
起きてみれば、掃除が終わった研究室はもはや別世界という事か。
或いは、まるで玉手箱を開いた浦島太郎の気分だろうか。

タキオン
 「ペレ君、デスリー総統? 少し説明がほしいのだが?」

当夜
 「あはは〜、偶然ジバボーグさん起動させちゃってね? そしたらこうなった」

僕はなるべく笑顔(どうせ相手からは顔は見えないのに)で、そう言った。
タキオンさんはボサボサ髪を掻くと、思考を纏め始める。

タキオン
 「ふーむ、大体理解した。ジバボーグ、君の遂行目標は?」

ジバボーグ
 「この世界を少しでも良くする事、です」

ジバボーグさんはおくびも出さず、僕の教えた事を言った。
タキオンさんはそれを聞くと、いつものようにハイテンションで笑い、手を叩いた。

タキオン
 「ハッハッハ! これはいい! ただの戦闘マシーンより、愛嬌もあって実に良い!」

当夜
 「ごめんなさい、タキオンさん。僕が勝手に決めっちゃったんだ」

僕は素直にタキオンさんに謝ると、タキオンさんは不思議そうに首を傾げた。

タキオン
 「何故総統が謝る? ジバボーグはデスリー総統の所有物、その行動を決定するのもデスリー総統なのだぞ?」

当夜
 「え? でも本当はゲノセクトエースを倒すためじゃ?」

僕は本来のジバボーグさんの開発目的を思い浮かべる。
怪人はデスリーの世界征服の為に生み出された筈だ。

タキオン
 「そんな事は些事だよ、考えてみたまえ? ジバボーグはこの世界を良くすると言ったのだ。なら君の目的を妨害する者は、ジバボーグは進んで戦うだろう?」

そう言ってタキオンさんはジバボーグさんを見る。
ジバボーグさんは胸に手を当てると頷いた。

ジバボーグ
 「はい、ゲノセクトエースが立ち塞がるなら、私はそれを粉砕します!」

ジバボーグさんがそう言うと、タキオンさんは満足そうに何度も頷いた。
正直タキオンさんの考えは僕にはよく分からない。
ただ、ジバボーグさんは進んでこの身体になったけど、タキオンさんはどんな気持ちで改造手術を行ったんだろう?

タキオン
 「はぁ……しかし疲れた、1週間位は休みが欲しいぞ」

当夜
 「だったら、今日は家に泊まります?」

僕はそう提案すると、タキオンさんは顔を明るくした。
僕はやっぱり、タキオンさんは悪い人じゃないなと思う。
そうじゃなければ、ペレさんと仲良くなれないと思うし、ジバボーグさんもタキオンさんを慕っているようだ。

タキオン
 「フフフ、それではお言葉に甘えようかな?」

ジバボーグ
 「私はどうするべきでしょう?」

タキオン
 「ついてき給え! 君も主人がどういうものかもっと学ぶべきだからな!」

タキオンさんは立ち上がると、背伸びをした。
ボサボサの白衣は相変わらず身嗜みが悪い、顔色も悪くて、髪も綺麗なのに、手入れがまるでされていない。
本当に残念な美人って感じのお姉さんにジバボーグさんは小さく頷いた。

ジバボーグ
 「任務了解、ついていきます」

当夜
 「それじゃ晩御飯も兼ねて、早めに戻ろうか?」



***



ペレさんの操縦する黒いアンティークじみた車は4人乗るとギュウギュウ詰めだった。
僕は前部座席に座っているからいいんだけど、後ろにいるタキオンさんとジバボーグさんはややきつそうだ。
原因はジバボーグさんの横幅だ。

タキオン
 「ぬぅ? もう少しコンパクトに改造するべきだったか?」

ジバボーグ
 「申し訳御座いません」

ジバボーグさんは少しだけシュンとしたが、身長は低いのに、肩幅は一番大きい。
改めて改造ポケモンって、不便なんだな。
因みにジバボーグさん、今は光学的には普通の少女だった。
その姿は若干ジバコイルらしさがあるが、大して機械化もされておらず、どこにでもいるPKMのお姉さんという感じだった。
光学的な偽装だそうで、その見た目は恐らく改造前の姿なのだろう。

当夜
 「そういえば二人は何か食べたい物はあるー?」

タキオン
 「ふむ……兎に角糖分が欲しい……」

ジバボーグ
 「私は少々のオイルが頂ければ」

ペレ
 「タキオンの方はともかく、オイルですか?」

改造ポケモンだからか、食べたい物の発想が斜め上だった。
タキオンさんは窓の外を眺めながらジバボーグさんの仕様を補足していく。

タキオン
 「ジバボーグは、半有機だ。一応食物でもエネルギーは得られる、だが最も効率がいいのは電力だ、食べる事でも発電出来るが、一番はバッテリーだな」

因みにオイルはあくまで潤滑油らしい。
機械の部分は油を差さないと劣化するらしい。

ペレ
 「それなら甘い煮物などでも作りましょう」

タキオン
 「おお! ペレ君の料理は絶品だからな、楽しみにしているよ!」

ペレ
 「私など、まだまだです」

僕はそんな様子を見て、クスリと笑った。
秘密基地を離れ、交差する車が目立つと、僕は変身を解除した。
これで僕はデスリー総統から、ただの上乃子当夜という人間に戻った。
同時にペレさんは山田美陽に、タキオンさんは牧村睦美、そしてジバボーグさんは渚風子になる。
表と裏の顔、少し不便だけど、僕にとってこれが現実で日常なんだ。

やがて、車はいつもの街へと帰ってきた。
ペレさんはいつものように馴染みのスーパーマーケットを向かう。
僕は改めてジバボーグさんこと、風子さんを見た。
風子さんはキョロキョロと街並みを見ていた。

当夜
 (やっぱり、思ったより人間してるんだなぁ)

それと同時に美陽さんが僕は疑問に思えた。
一切改造なんてされておらず、しかし父さんの時代から、デスリーに忠誠を誓う美陽さんは、誰よりも機械的でサイボーグじみている。

当夜
 (本当に不思議だよね、どうしてペレさんはそんなに無感情なんだろう?)

無口で無表情で無感情の三冠。
誰よりもミステリアスで、でも僕が憧れる女性。
なんだか不思議、この巡り合いさえ、奇跡のような物なのだから。



***



風子
 「……」

その日夕食はとても賑やかだった。
睦美も絶賛するペレの手料理は、機械化された風子の表情も綻ばらせた。
睦美からは、良く当夜を観察しろと言われている。
風子はその言葉の通り、当夜をずっと観察した。

買い物する時は、積極的に荷物持ちをしようとするが、当夜は非力で、美陽に当夜ごと荷物をぶら下げられると、流石の当夜もショックを隠せていなかった。
晩御飯なら、タキオンの捲し立てる言葉に、苦笑いしながらも、一言も聞き逃さない真面目さがあった。
食事を終えると、当夜は食器を洗い台に運び、水に付け部屋に戻った。
風子はスキャニングで、壁の向こうから当夜を観察した。
当夜の帰りを喜ぶロトボットのろとぼんが出迎えていた。
当夜は真面目に机に向かって勉強するが、あまり頭は良くないらしい、何度もろとぼんが指摘していた。
勉強を終えると、筋トレを開始した。
スキャニングによると、かなり心拍数を上げていた。
通常なら期待出来そうな訓練だが、どういう訳か効果がない。

しっかり運動をし終えた当夜は着替を持って1階に降りてきた。
美陽はまるで、当夜の動きを完全に察知していたかのように、風呂場に湯を張っていたが、それはタイミングバッチリだった。
当夜が脱衣室に入ると、テレビを見ていた睦美が立ち上がった。
美陽は洗い物に専念して気にかけない、しかし睦美はバスタオルだけ持って、当夜の後を追った。
突如、当夜の悲鳴が木霊した。

風子はずっと観察した。
当夜から絶対に目を離さない。
それと同時に、両肩のサブアイは美陽や、それ以外を捉え続ける。
美陽は全く動じず、時折風呂場の方を見ていた。
風呂場では脈拍が跳ね上がった当夜が浴槽に顔まで浸けていた。
どうやら睦美は背中を洗って貰おうとしているようだが、当夜は首を振って拒否したようだ。
このままでは逆上せないか心配になったが、どうやら睦美が気持ちよさそうにシャワーを浴びている間、浴槽から出られないようだ。
当夜の下腹部に充血が見られる。
風子はそれを性的興奮と捉えた。

当夜は睦美を女性として好んでいるのだと理解した。
一方、当夜は普段美陽を好んでいると思った。
つまりこれが三角関係か、風子は当夜の人間関係を理解する。
やがて、睦美がシャワーを浴び終えると、入れ替わるように当夜が浴槽を出た。
しかし、勢い余って浴槽の縁に足を引っ掛けた当夜が転倒する。
それを睦美は念動力で支え、当夜を優しく抱きとめた。
そのまま睦美は当夜を優しく降ろす。
それと同時に美陽が冷蔵庫から、冷たいオレンジュースを取り出していた。
冷やしたコップにそれを注ぐ頃には、顔を真っ赤にした当夜が脱衣室から出てきて、美陽は抑揚の無い声で、当夜を饗す。
当夜はオレンジジュースを一気飲みすると、一息ついて、ため息を吐いていた。
どうやら、睦美に対し好意はあるが、困っているらしい。
風子は理解した、当夜は過剰なスキンシップを好まないのだと、そして睦美は積極的なアプローチを好むということ。

改めて風子は自分に設定されている優先行動を確認した。
当夜の安寧は守らなければならない。
その為なら二律相反するが、睦美に行動を示さなければならない。

当夜はしばらくすると、部屋に戻った。
部屋に戻った当夜はろとぼんにお休みと言い、早めにお休みになられた。
スキャニングによると、睡眠に入るのは早いようだ、30分程で意識は完全に落ちていた。
当夜が寝ていても、観察は終わらない。
風子の身体は開発によって、殆ど睡眠を必要とはしなかった。
とはいえ、スリープモードに定期的に移行しなければ、パフォーマンスが低下してしまう。
睦美が長風呂を終えると、風子はメンテナンスを兼ねて部屋に招かれた。
風子は了承し、睦美の部屋でスリープモードに移行したが、サブアイのスキャニングは実行し続けた。

そして……日が開けたのだ。

当夜
 「ふあ〜、あ、おはよう御座います風子さん」

風子
 「はい、おはよう御座います当夜様」

当夜の朝は早かった。
朝ごはんも前に筋トレを行い、汗を流した当夜が部屋を出ると、風子と出くわした。
当夜は穏やかな笑顔を浮かべると、シャワーを浴びに行った。
1階では一番早く起きた陽子が朝ごはんの用意をしていた。
睦美は今もベットで熟睡している。
睦美の睡眠時間は長いようだ。

風子
 「世界をより良くするために」

風子は小さくガッツポーズすると、自分の遂行目標を確認する。
1階に降りると、美陽にも挨拶された。

美陽
 「おはよう御座います、風子」

風子
 「はい、おはよう御座います。何か手伝いましょうか?」

美陽
 「いえ、結構です」

美陽はあまり喋りが上手ではない。
これは周囲に誤解を与えかねない、当夜もまた、美陽の淡白な反応には困っているのだ。

風子
 「美陽さんは、笑えないのですか?」

美陽
 「……」

美陽は無表情で沈黙した。
風子は、美陽を観察するが、美陽から読み取れる物はあまりにも少ない。
心音、呼吸、脳波さえコントロールしており、風子よりもより完璧な怪人だった。
ここまで冷徹に自分を管理出来る美陽は凄まじい。
でも、それが当夜を不安にしていないか?

美陽
 「笑う……とは、当夜様のようにでしょうか?」

美陽は少しだけ不安そうに心拍を早めた。

風子
 「そう、当夜様のように!」

風子は手を叩いて、肯定した。



***



当夜
 「ふう、さっぱり♪」

僕は朝シャンすると、気持ちもさっぱりして、浴室を出た。
こう見えても、身嗜みは人一番気にしているからね。
僕はちゃんとドライヤーで髪を乾かすと、脱衣室を出る。

当夜
 「ふぅ」

僕はそろそろ朝ごはんかと思い脱衣室から出ると、キッチンには美陽さんがいた。

美陽
 「当夜様」

当夜
 「え、なに?」

美陽
 「アッハッハッハ」

当夜
 「は?」

美陽
 「アッハッハッハ」



***



睦美
 「ふわ〜」

睦美は欠伸しながらベッドから出た。
そのまま昼くらいまで寝ていてもいいのだが、そろそろ大学の単位が不味いので、朝飯を取ろうとした。
とはいえ、まだ急ぐほどでもない。
パジャマ姿のまま、睦美は部屋を出て、階段を降りるとそこには、睦美以外揃っていた、が。

美陽
 「アッハッハッハ」

睦美
 「は?」

それは美陽だった。
エプロン姿の美陽は相変わらずの鉄面皮で、なにやら笑って(?)いる。
睦美は怪訝な顔をした、思わず美陽の思念を探るが、相変わらずまともな思念は得られない。

美陽
 「アッハッハッハ」

睦美
 「なんで○イレム版○パルタンX?」

よく見ると、風呂上りの当夜も口をポカンと開けて呆れていた。
ただ一人、風子は自信満々にガッツポーズしていた。
どうやら風子が要らない入れ知恵を美陽に吹き込んだようだな……。



***



当夜
 「いや、驚いたよ……美陽さんが壊れたオルゴールになったのかと思った」

美陽
 「大変申し訳御座いません……」

あの後、美陽さんはあの笑い方が間違いだと思い知った。
なんらかのチャレンジだと思うが、結局いつもの美陽さんに戻った。
その後はいつものように朝ごはんを食べるのだった。

睦美
 「風子、お前何故美陽に入れ知恵をした?」

風子
 「入れ知恵ではありません、美陽さんは致命的に感情表現に欠けています、コミュニケーションにおいて深刻です」

睦美
 「自分を棚に上げてか」

睦美さんも苦笑した。
まぁ風子さん、美陽さんに比べればマシとはいえ、こっちもあんまり表情筋動かないからな。

風子
 「とにかく、私は理解しました。美陽さんも! 睦美博士も! 当夜様を困らせすぎです!」

当夜
 「え?」

いきなり僕が当事者になった。
てか、え? 僕が困ってる?

当夜
 「えと、なんのこと?」

風子
 「まず、睦美博士、貴方は当夜様に甘えすぎです!」

睦美
 「なに? これでも自重してるんだぞ!?」

当夜
 「えっ?」

僕はなんとなく、睦美さんの普段を思い出す。
確かに睦美さん、スキンシップが割と激しいんだよね。
あれ、甘えてたんだ? まぁスキンシップだけならモアナさん、美陽さんも戸惑う程激しかったし。
正直僕はあんまり気にしないかなー?

風子
 「そして、美陽さんは致命的にコミュニケーション不足! 当夜様も困ってしまいます」

当夜
 「え? 別に困るほどでは……」

そりゃ確かに会話が続かないとか日常茶飯事だし、美陽さん業務連絡程度しか率先して喋らないもんな。
とはいえ、それは美陽さんの個性だし、僕は尊重するかな。

当夜
 「風子さん」

僕はお箸を置くと、優しい声でヒートアップする風子さんを静止する。
風子さんは赤い目をキョトンとさせて、振り返った。

当夜
 「風子さんのがんばり屋な所はとても素敵です、でも睦美さんも美陽さんも今のままで素敵だと、思います。どうか見守るだけに留めてくれませんか?」

睦美
 「……」

美陽
 「……」

風子
 「……は、はひ」

アレ? 僕は急に沈黙した食卓を見渡した。
何故か、3人とも顔を赤くしており、風子さんなんか舌足らずになっていた。

睦美
 「んんー! それじゃ当夜君に甘えさせて貰おうかなー!?」

当夜
 「わ!? ちょ!?」

美陽
 (不覚にも見惚れてしまいました……)

風子
 (当夜様、お優しい方かと思いましたが、あんな包み込むような、はうう……!)

突然睦美さんは上機嫌に顔を上気させると、抱きついてきた。
美陽さんは目線を反らしてモジモジして、風子さんは縮こまりながら、大人しくなった。

当夜
 「僕変な事言った!? ただ皆今のままが良いって言っただけだよ!?」

睦美
 「ハハハ! 大丈夫さぁ! それで当夜君の想いは十分すぎる程伝わったよ!」

なんだか知らないけど、睦美さんはやる気満々だった。
まぁ、普段低血圧というか、ダウナーだから丁度良い(?)かな。



***



ろとぼん
 「ポーン、ミナサンガデスカ?」

朝食を終え、部屋でゆっくり学校に行く準備を終えると、僕は家を出た。
睦美さんは大学に上機嫌(!?)に行き、ペレさんが戸締まりをして、風子さんも出てきた。
僕はろとぼんに皆の事を相談したのだ。

当夜
 「はぁ、僕、ちょっと自信ないよ……皆個性的だからさ?」

ろとぼん
 「ポーン、シカシミナサン、モンダイガアルヨウニハオモエマセン」

当夜
 「そうだね、僕も問題はないと思う、けどやっぱり分からないんだよなぁ」

そう、女性というのは時に分からない。
女顔とか、男性ホルモンより女性ホルモンの方が多いとか、揶揄される僕だけど、やっぱり分からない物は分からないのだ。
軽はずみな一言が、皆のテンションをおかしくした。
何かミスがあったなら、治したいんだけど。

ろとぼん
 「ポーン、トウヤサマハ、キットカリスマガアルノデス!」

当夜
 「カリスマ〜? そんなのあるなら、学校生活だって楽になるでしょ〜」

ろとぼん
 「ポーン、トウヤサマハモットジブンニ、ジシンヲモツベキデス!」

自信かぁ、それを付けるのが問題なんだよな。
結局僕は何やっても駄目で、自分に自信がない。

ろとぼん
 「ポーン、イッソカノジョタチニソウダンシテハ?」

ろとぼんはそう言うと後ろを振り返る。
後ろには絶妙な距離で美陽さんがいた。
更に後ろに風子さんもいる。
この二段構えの警備態勢も大概だが、しかし相談か。

当夜
 「うーん」

僕は迷った。
はっきり優柔不断な態度は問題だけど、これは簡単じゃない。
僕が自信を付ける方法、相談で付くものか。
よく筋肉が付けば自信も付くって言うけど、僕はどれだけ鍛えても成果が出ない。
そりゃ光輝君を見てたら、彼は自信が溢れているし、分かる話だけど。

ろとぼん
 「ポーン! ゼンポウチュウイ」

当夜
 「へ?」

突然ろとぼんが前方注意を警告した。
僕は周囲を確認すると、そこには一番会いたくない相手が待ち構えていた。

不良A
 「よぉ、上乃子ちゃーん?」

当夜
 (うげ!?)

それは美陽さんが初めて家にホームスティするようになった日にも出会った不良だった。
相変わらず金髪リーゼントを決めており、改造学ランも着こなし、自信満々の姿だった。
はぁ、逆になんで不良って、そんなに自信満々なんだろう?
僕3年だよ? 普通に大人しく生きているだけなのに、未来も見えないのに、なんで不良はこんなに人生楽しそうなのか。

当夜
 (さて、面倒な事になる前にさっさと逃げないと……!)

僕はもう初めから不良と関わる気はない。
兎に角、脱兎の如く逃げるのみだ!
だが、今回は不良の方が賢かった。

不良B
 「上乃子ちゃん、ちょっと聞きたいことあるのよ?」

僕の前方を抑えたのは、角刈りの不良だ。
ガタイが良く、格闘技でもやっているのか、不良とは思えない程鍛え抜かれており、頬には十字傷まである。

不良C
 「なぁ? 前にこの辺りで美人のネーチャンに〜」

3人目はスキンヘッドデブ、デブだが動けるデブだ。
危険度としては一番やばいかもしれない。

当夜
 「う、うぐ……」

僕は後ずさった。
これでは逃げられない。
だが、別の意味でやばい、僕よりも寧ろ不良が!

ドガァ!

突然スキンヘッドデブが吹き飛んだ!
目にも見えない早業は、先端に巨大なU字磁石の付いた鎖だった。
僕は後ろを振り返る、そこには凄い形相の二人がいた。

不良A
 「な、なんじゃこりゃー!?」

不良B
 「お、おいあのネーチャン!?」

ジャラララ!

今度は凄まじいスピードで風子さん、いや怪人ジバボーグが、磁石を地面に吸着させ、その勢いで今度は角刈りを踏み倒した!

不良B
 「ぐふ!?」

風子
 「当夜様に何をする気ですか?」

不良A
 「ひい!? 前と違うネーチャンだぁ!?」

当夜
 「風子さんストップ! 殺しちゃ駄目!」

その瞬間、僕はヒョイっと誰かに担がれた。
それは美陽さんだ、美陽さんは僕を担いで凄まじいスピードで走った。

美陽
 「危険領域から離脱します!」

当夜
 「え!? 風子さんは!?」

美陽
 「直ぐに回収します!」

美陽さんは、不良たちが見えない所まで走ると、僕を優しく下ろした。
そして、再び風のような速度で、戻っていった。

ろとぼん
 「ポーン! テイアンシマス、ココハカノジョタチ二マカセテ、ガッコウヘイキマショウ」

当夜
 「でも、二人は……」

ろとぼん
 「ポーン、カノジョタチハコノタメニイマス、カノジョタチカイジンヲシンライシマショウ」

怪人を信頼する……僕は掌を強く握り込んだ。
僕は二人を信頼する、だってデスリー総統だもん。
だから、僕は通学路に急いで戻った。
あの素敵な怪人さん達を信じよう。



***



ドシャア!

風子
 「敵性体、沈黙」

風子はジャラジャラと右腕に装備されたアンカーマグネットを右腕に戻す。
アンカーマグネットは、最大射程100メートル、先程のように打撃武器としても有用だが、本来の使い道ではない。
電波を用い、当夜を常に監視していた風子は、当夜の危機を察知すると、美陽よりも先に体が動いてしまった。
今、風子の足元には3人の不良が気絶している。

風子
 「敵性体スキャンング、生命反応正常、ちゃんと当夜様の指示を守れました」

美陽
 「風子、撤収しなさい」

当夜を直ぐに安全圏へと運んだ美陽は戻ってきた。
時速40キロは出していた筈だが、美陽は息も切らしていなかった。

風子
 「畏まりました」

美陽
 「風子、能力の使用はなるべく控えるべきです、怪人の正体は知られるべきではありません」

風子
 「はい、同意します……ですが、体が先に動きました」

風子は多少精神制御されているのだろうか。
怪人として相応しいよう振る舞いも設定されている筈だ。
しかし、感情を制御出来なかった。
それだけ風子は当夜が大切な存在なっているのだろう。
これを睦美が見れば、手を叩いて賞賛するだろうが、なるべく正体を隠さなければならない。
美陽はこの風子の行動には少し警戒せざるをえなかった。
美陽ならば、手際良く不良を無力化できた筈だ。
以前にも同じ不良を相手しており、怪人にとっては赤子の手を捻るような物だ。
風子の対処は実際素晴らしい、だが今後もこのような対応ではいずれ足が付く。

美陽
 「兎に角当夜様に危害が及ばなかったのは幸いでした」

風子
 「その点はすみません……当夜様の安全が最優先でしたのに……」

美陽は風子が怪人としてより、同じ人間として判断をした。
その結果は、彼女は感情で動く人間だ。
睦美を責める訳ではないが、怪人としては疑問が残る。
睦美は嫌に当夜をアテにしている節がある。
この子ならばゲノセクトエースに勝てるのか?

美陽
 「今は当夜様が優先です……私は直ぐに学園に向かいます」

風子
 「畏まりました、私も当夜様をお守りします」

美陽は走り出した。
美陽は速い、時速40キロは当たり前に出すし、トップスピードは誰も知らない。
それに比べれば風子は鈍重だ、元々鈍くさい方だったが、走る足は一般人とそれ程変わらない。
それに見合う能力はあるのだが、スピードでは美陽とは比べ物にはならない。

風子
 (……まだまだ、私は未熟なようです、あの程度なら美陽さん一人でも問題なかった、きっと彼女なら私より鮮やかに解決しただろう)

風子は当夜をスキャニング可能な距離に捉えるように走り出すと、今回の結果を反芻した。
風子は当夜の100点の存在になりたい。
美陽に負けたくない、最高の怪人になりたいと強く願った。

風子
 「少しでも世界を良くするために……」

風子にとって最も大切な行動理念。
それを反芻すると、風子はある物をスキャニングした。

風子
 「空き缶?」

それは道端に落ちていた空き缶だった。
よく見ると空き缶だけじゃない、煙草の吸殻もある。
風子は周囲をスキャニングすると、少なくとも4件このようなポイ捨てが見つかった。

風子
 「当夜様はまだスキャニング出来ない……」

風子は足を止めると、学校のある方角と空き缶を交互に見た。
風子は高速処理出来るように改造された電子頭脳で高速処理する。
当夜の優先事項は高い、だが同時に少しでも世界を良くするという遂行目標は同じほど重要だった。

風子
 「少しでも良い事をすれば、当夜様は褒めてくれる!」

最終的に得た結論は、風子は空き缶を磁力で吸着した。
吸い殻も集めると、街の清掃を開始した。

風子
 「周辺の清掃完了、当夜様の下に向かいましょう」

風子はゴミを回収すると、分別し、指定のゴミ箱に捨てると再び学園に向かい出す。
しかし、それも直ぐにまた足を止めた。

風子
 「大変です! お婆ちゃんが困ってます!」

風子は横断歩道の前で蹲る老婆を発見した。
風子は少しでも世界を良くするため、善行を積んでいく。

風子
 「大丈夫ですか? どこか痛いのでしょうか?」

お婆ちゃん
 「びょ、病院に行かないと、行けないんだけどねぇ?」

風子はその老婆をスキャニングした。
腰と足に異常があり、放置しては足腰が立たなくなる恐れがある。
風子は迷わず、老婆の前でしゃがんだ。

風子
 「背中にお乗りください、少し乗りづらいかと思いますが、直ぐに病院へ行きましょう!」

お婆ちゃん
 「す、済まないねぇ?」

老婆はよろよろと、風子の無骨な背中にしがみついた。
光学的には普通の背中だが、実際には無骨な装甲化された背中は硬い。
だが、風子はそんな事は構わず、走り出す。
病院をサーチすると、最寄りの病院へと急行した。

風子
 「急患です!」



第五章Part2に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/09(火) 18:03 )