第一部 世界征服を目指す物語
第四章 組織案内します Part2

第四章 Part2



ペレ
 「こちら食堂になります」

当夜
 「うわぁ、学食よりも広いし凄いな〜」

丁度時刻は正午を迎えた事で、僕たちは秘密結社の食堂に来た。
食堂は2階建てで、少なくとも300人以上は利用できる。

ペレ
 「2階は戦闘員食堂、1階は一般食堂になります」

当夜
 「へぇ、分けられているんだ」

ペレ
 「戦闘員と非戦闘員では食べるメニューも必然的に違いますので」

なるほど、一般人と軍人さんだったら、軍人用のメニューってタンパク質とか糖質重視って聞いたことがあるな。
やっぱり戦闘員って大変なんだなぁ。

当夜
 「そうなると、僕ってどっちで食べるの?」

僕は総統だが、戦闘員ではない。
かといって非戦闘員なのかと言われればやっぱり分からない。

ペレ
 「総統、幹部以上は個室で食べるのが通常です」

当夜
 「あ、そうなんだ……僕皆と食べるの好きなんだけどなぁ」

僕は一人ぼっちは嫌いだ。
ずっと家に一人だった時、気楽さより孤独の方がよっぽど辛かった。
だからこそ学校では光輝君や常葉さんと一緒にいるのは嬉しくて、そして家にペレさんがいるのは救いだった。

モアナ
 「Oh! デスリー総統もご飯デスカ?」

突然後ろから清掃員のモアナさんが話しかけて来た。
僕は振り返ると、いきなり抱きつかれてしまう。

当夜
 「ちょ!? モアナさん!?」

モアナさんはよく見るとタンクトップ姿で小麦色の肌が嫌でも目立っていた。
南半球の人だけにラフな格好も目のやり場に困るが、この超フレンドリーさも僕は戸惑ってしまう。

モアナ
 「ここのご飯絶品デス! Delicious♪ 一緒に食べまショウ!」

当夜
 「ま、待って待って!?」

ペレ
 「お、お待ちなさいモアナさん!」

モアナさんはすごいパワーで、僕の腕を引っ張った。
慌ててペレさんが止めると、モアナさんは振り返った。

モアナ
 「どうしました? なにか問題でも?」

ペレ
 「デスリー総統です、粗相の無いようと、説明した筈ですが?」

それを聞くと、慌ててモアナさんは手を離し、シュンとしてしまった。
モアナさんは積極的だから、ペレさんと対極でそれ故にペレさんをも引っ掻き回すのかも。

モアナ
 「ごめんなさいデス、デスリー総統……」

当夜
 「はは、別にいいよ、それよりゆっくり行こう? お昼ごはんでしょ?」

僕はそう言うと、モアナさんはまた太陽のように明るく笑うと、「Yes♪」と頷く。
今度は手を握ると、僕を優しく引っ張った。

ペレ
 「……はぁ」

当夜
 「ペレさん?」

ペレ
 「……なんでも御座いません」

ペレさんはなにか気を揉んでいるのだろうか。
兎に角僕たちは一番奥へと歩いていく。

当夜
 (モアナさんの手、大っきいな……)

僕は少し不思議だった。
女性に手を握られるのも、ほとんど経験がなく、ましてこんな優しく握ってくれたのはお母さん以来だった。
モアナさんの手は肩から下は鳥のような羽根になっている。
しかし羽根は正しくは毛のような感じだ、そして先端には5本の指。
飛ぶための器官であり、ちゃんと手としても機能している。

モアナ
 「おばちゃん! いつものー!」

食堂は、券売機を利用するようだ。
食事費用は掛からないようだが、それにしてもいつものって……。
調理場には6人程働いており、ふくよかなおばちゃんは、目を細めてモアナさんに振り返ると。

おばちゃん
 「やあ! いつものね! ほら、一杯お食べ♪」

おばちゃんは既に用意していたのか、持ってきたのは山盛りのカツ丼だった。
僕じゃ絶対に食べきれない量のカツ丼をモアナさんは受け取ると、大喜びだった。

おばあちゃん
 「おや、ペレ……なんでアンタが一階に?」

ペレ
 「総統がこちらで食べたいと、私はデスリー総統に従うだけです」

おばあちゃんとペレさんは知り合いなのか、気軽に話していた。
僕は少し意外に思うけど、でも当然なんだよね。
ペレさんにとって秘密結社は僕よりも長く居た場所だ、当然それだけ多くの知り合いや友達がいる筈なんだ。
おばあちゃんは僕を見ると、ニカッと笑った。

おばあちゃん
 「へぇ! アンタがペレの言ってたデスリー総統かい! おや、これじゃ失礼だね、デスリー総統、よろしければ外の券売機にお願いしますわ!」

おばあちゃんはまるで下町の食堂のお母さんのようだった。
凄く人が良くて僕は思わず笑顔になる。

当夜
 「はーい♪ ご飯楽しみにしてますねー♪」

僕たちはそう言うと、券売機の前に行く。
僕は少食だからあまり食べられないし、野菜炒め定食にする。
ペレさんは何度か僕の顔を見た後、鯖定食にした。

おばあちゃん
 「はい♪ いっぱい食べて強くなるんだよ!」

当夜
 「あはは、善処します」

本当に強くならないとなぁ。
僕は定食を受け取ると、モアナさんを探した。
すると、モアナさんは笑顔で手を振っていた。

モアナ
 「こっちデース♪」

当夜
 「うん、行こうかペレさん?」

ペレ
 「はい」

ご丁寧にモアナさんは席を2つ確保しており、僕はモアナさんの隣に座った。

深雪
 「……あ」

当夜
 「あれ? 経理の吾妻さん?」

モアナ
 「? お友達ですか?」

当夜
 「いや、友達ではなく……」

深雪
 「その、私はただの経理で……デスリー総統とその、親しくなるのは……」

吾妻さんはそう言うと困った様子だった。
もしかして僕は苦手意識が持たれてる?

深雪
 (ああもう〜! 組織のトップとか、どんな風に接すればいいのよ〜!?)

深雪さんは顔を赤くするとズルズルとうどんを啜った。
僕はこれ以上は迷惑も掛けられないし、大人しくする事にした。

当夜
 「とりあえず、変身解除」

僕は右手に巻いたスマートウォッチのベルトに触れた。
すると、スーツは消え、僕は私服に戻る。
それを見て、モアナさんと深雪さんが驚いた。

モアナ
 「ワオ、amazing……!」

深雪
 (う、ウソウソウソ!? しゃ、写真で見て知ってたけど、写真より何倍も可愛い……!?)

当夜
 「えと? なにか……?」

深雪
 (しゅ、集中! わ、私はショタコンじゃない! 私はショタコンじゃない!)

モアナ
 「あはは〜、女の子の顔デス、本当に不思議デスネー?」

当夜
 「うう……」

僕はそう言われるのも慣れているので、大人しく野菜炒めを食べた。
うん、この野菜炒め美味しい、なるほどモアナさんが絶賛する訳だ。

当夜
 「この味、どこかペレさんに似てるね?」

ペレ
 「はい、料理はここで学んだので」

当夜
 「て、事はおばちゃんが師匠なの?」

ペレ
 「そうなりますね……私などまだまだですが」

意外な事実の発覚だった。
ペレさんは料理上手だけど、ちゃんと教えてくれる人がいたんだな。
僕はペレさんの料理は大好きだ、でもそのルーツがここにあったなんて。

モアナ
 「うーん! 日本の料理、本当に美味しいデース♪」

モアナさんは顔より大きな椀から、ガツガツと食べた。
随分ワイルドな食べ方というか、静かに綺麗に食べるペレさんとは本当に対極だな。

当夜
 「モアナさん、頬にご飯ついてますよ?」

モアナ
 「ほえ? どこデスカ?」

モアナさんはご飯に夢中で頬に米粒がついている。
僕はそっと米粒を取ってあげた。

当夜
 「フフ、焦らなくてもご飯は逃げませんよ」

モアナ
 「エヘヘ♪ ありがとデス♪」

深雪
 (何あれ何あれ!? 尊い!? このままじゃ尊死する!?)

モアナ
 「ん? アナタ、体大丈夫?」

気がつくと吾妻さんはプルプルと震えて悶絶していた。
さっきから吾妻さんどうしたんだろう?

当夜
 「吾妻さん、体調が良くないんですか?」

深雪
 「はひ!? ち、違います! これは、その……あわわわ!?」

当夜
 「???」

深雪
 (い、言えないわよぉー!? 超私好みの男の子が、あんな健気な姿見せられたら、反応しちゃうのよ! でも隠すの! オタクの私は絶対隠すの!!)

ペレ
 「……デスリー総統、ご飯が冷めます」

当夜
 「ああ、うん!」

ペレさんはそう言うと、既にお茶を飲んで一服していた。
相変わらず我関せずというか、ペレさんは平常運転だなぁ。
僕は慌てて食べるのだった。



***



ペレ
 「……」

ペレさんは食べ終えると、食堂をキョロキョロと見回していた。
まるで誰かを探すように。

当夜
 「誰を探しているの?」

ペレ
 「あ、デスリー総統……ドクタータキオンを、です」

当夜
 「タキオンさん?」

僕はあの特徴的なズボラな白衣はないか探すが、見当たらない。

当夜
 「いないね」

ペレ
 「……やっぱり」

ペレさんはそう言うと溜め息を吐いた。
そういえばここ最近タキオンさんの顔見てないな。

当夜
 「次、開発室行く?」

ペレ
 「……了解」



***



開発部、正式名称、タキオン科学兵器開発研究室はドクタータキオンの管轄だ。
だが実質開発部はタキオンさんのワンマンだ。
開発室に入った時、ペレさんは頭を抱えた。

ペレ
 「……前より散らかってる」

僕たちは開発室に入ると、タキオンさんの姿を探す。

当夜
 「タキオンさーん? 居ますかー?」

タキオンさんはほぼここで生活しているという。
ただ不衛生で、目的のためならタキオンさんは何もかもを犠牲にすると言う。
ペレさんはそれを危惧していた。

タキオン
 「ん? おお、やあやあやあ! これはこれはデスリー総統じゃないか! 一体どうしたんだい!?」

部屋の奥、色んな物が散乱する中でタキオンさんはいた。
タキオンさんはいつものように饒舌だったが、その違和感は僕でもわかった。

当夜
 「はぁ……ペレさんの危惧した通りだったね」

ペレ
 「はい……」

タキオンさんは声も枯れていて、目元も隈があり、色々とやばい状態だった。
これがペレさんの言う、タキオンさんのマッドな部分。
タキオンさんは自分の研究を進めるためなら、寝ない食べないと、命の危機が迫ってもお構いなしだ。
だけど、ここまで放置するのはペレさんも覚えがないという。
一体何を開発していたのだろう?

ペレ
 「タキオン、ちゃんとご飯は食べたのですか? ちゃんと眠ってますか?」

ペレさんは少しだけ顔を怖くした。
しかし、それを見たタキオンさんはボサボサ髪を掻いて弁明する。

タキオン
 「まあ聞き給え、ようやく完成したのだよ!」

当夜
 「完成?」

タキオンさんはニヤリと笑った。
僕たちはタキオンさんの前に向かうと、手術台のような物が見えた。
その台には少女が眠っている。

当夜
 「これは?」

タキオン
 「怪人さ」

当夜
 「怪人!? この子が!?」

手術台に眠っていたのは全身が機械化された少女だった。
一言で言えば、生物というより機械人形にしか見えない。

タキオン
 「ジバコイルの改造怪人、この子は私の最高傑作……さ……」

ペレ
 「タキオン!」

突然タキオンさんはフラフラすると、背中から倒れた。
ペレさんは慌てて、抱き止めると、タキオンさんは寝息を立てていた。

ペレ
 「……無茶ばかりするのですから」

当夜
 「タキオンさん、体大丈夫かな?」

ペレ
 「タキオンもポケモンです。その内お腹を空かせて起きるでしょう」

ペレさんはそんなに気にしてない様子だったが、少なくとも3日は寝ていないのだろう。
エスパータイプ故か、タキオンさんの集中力は凄まじい。
だけどこれは寿命を縮める行為だ。

ペレさんはタキオンさんを優しく、開発室に置かれたハンモックのようなベッドに寝かせた。
僕は改めて台で眠る怪人を見る。
全身を機械化したジバコイル娘は、今はピクリとも動かない。
まるでロボット、機械人形だ。

当夜
 「怪人、か」

ペレ
 「私も怪人です。最も私の場合、肉体改造はしていませんが」

そう、ペレさんという怪人を知っているからこそ、僕は改めて怪人がどういうものか忘れていた。

当夜
 「世界征服の尖兵……そして正義のヒーローを倒すための存在」

ヒーロー作品において、一体どれだけの怪人は描かれ、そして倒され散ったのだろう。
世界征服という身勝手な野望、だけど誰かが世界を変えなきゃこの悪い世界は一生変わらない。
僕は矛盾は分かってる。
世界征服を必ずしも不幸を前提に行う物ではない。
だけど、デスリーの野望を阻止する正義のヒーローがいる。
だからこそ、正義のヒーローに対抗する悪の怪人が必要なんだ。

当夜
「ジバコイルさん、目を覚まさないね?」

ペレ
 「おそらく電源が入っていないのでしょう」

当夜
 「電源って」

人と言うよりまるで電化製品かなにかのような例えに僕は苦笑した。
ペレさんは呆気らかんとそう言い放つと、周囲の掃除を開始した。
なんだかんだ、ペレさんって世話好きだよね。

当夜
 「一つ気になったんだけど、ペレさんってタキオンさんとどれ位の付き合いがあるの?」

ペレ
 「タキオンとは1年ですね……タキオンは外からやってきました」

意外、もっと長い付き合いがありそうなのに、まだ1年なんだ。
つまりそれはそれだけお互いの気が合うのかもしれない。
なんだかんだ、二人って仲良しだし、ペレさんもタキオンさんをいつも気に掛けているもんね。

当夜
 「そっか〜、僕達も1年後にはどうなってるのかな〜?」

僕はなんとなく、そんな未来の事を考えた。
来年って、当然僕はもう高校を卒業しているんだよね。
進学か就職か、高校生には選択肢もチャンスも少ない。
進学すれば僕のデスリー総統としての任は、今と変わらないのだろうか?
けど就職なら、本格的にデスリー総統として働くのだろう。
僕は表向きでは普通の高校生、でも裏の顔はデスリー総統。
結局この両面を僕は演じ分けなければいけない。
1年後……やっぱり分からないなぁ。

当夜
 「まぁ、ペレさんや、タキオンさんとは一緒にいる気はするよね?」

僕はそう言うと手術台にもたれ掛かりながら、「ハハハ」と笑った。

ペレ
 「私とデスリー総統が……ですか」

ペレさんは顔を俯かせた。
いつも通りの鉄面皮なんだけど、なんだか寂しそうにも思えた。

ペレ
 「デスリー総統が就任した事で、世界征服計画は進みます……本当に、1年後私は……」

当夜
 「ペレさん!」

ペレさんの身体は震えていた。
まるで悪い想像をするように。
僕はそんなペレさんの肩を掴んだ。
ペレさんはビクッと身体を震わせると、驚いた顔でゆっくりと振り向いた。

当夜
 「ペレさん? 僕はペレさんを護るよ? 今はペレさんより弱いけど、1年後には強くなるんだから!」

僕はそう言うと、いっぱい笑ってみせた。
それを見たペレさんは微笑を浮かべる。

ペレ
 「はい……、ですが護るのは私です、誰にもデスリー総統は近づけさせません」

ペレさんはそう言うと、いつもの顔に戻った。
僕はいつものペレさんに安心した。
無口で無表情だけど、優しくて頼もしいペレさんが、やっぱり僕は好きだ。

当夜
 「はは、ペレさん、もっと笑顔ならもっと素敵なんだけどねぇ?」

僕はそう言うと、もう一度手術台にもたれ掛かった。
しかし、その時僕は何かスイッチか何かに触れてしまったのか?
突然、僕の腕が掴まれた。

当夜
 「え?」

僕は恐る恐る後ろを振り返った。
死んだように動かなかった怪人ジバコイル娘が僕の腕を掴んでいた。
そして赤い目を開き、ギョロリと僕を見ていた。

ジバコイル娘
 「システム起動……」

当夜
 「ひぃっ!?」

僕は血の気が退いた。
きっと凄く情けない顔をしたことだろう。
ただ、僕は体の底から恐怖が沸き立つ。

当夜
 「うわああああああ!? 喋ったぁぁぁ!?」



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第四章 組織案内します 完

第五章に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/23(火) 16:54 )