第一部 世界征服を目指す物語
第三章 正義の使者、その名は……! Part2
第三章 Part2



光輝
 「今日の当夜、やっぱり変だぞ?」

移動中、そう言ったのは真横を歩く光輝君だった。
変、か……そうだよね、だって変わったんだから。

当夜
 「僕も男だからね」

光輝
 「は?」

当夜
 「ほら、男子三日会わざれば刮目して見よ、て言うじゃない?」

僕は得意げに諺を用いた。
しかし光輝君は呆れるように僕の頭に手を乗せ、上から抑えると。

光輝
 「いや、毎日会ってるだろうが! そういう時は能ある鷹は爪を隠すが正解じゃねぇか?」

当夜
 「うぐ!? 確かにそうかも!?」

はぁ、思いっきり墓穴を掘った。
諺の知識でさえ、僕は光輝君に敵わないのか。

光輝
 「あと次いでに言うが、情けなさは変わってないと思うぞ?」

当夜
 「うぐぅ!?」

致命傷だった。
光輝君の言葉はナチュラルで悪意が無いのは間違いないが、僕の心をドリルでグリグリ抉るっていうか、破砕する勢いで壊していった。
もうやめてぇ……僕のメンタルはもう0だよぉ。

光輝
 「でも……やっぱり違うんだよな?」

当夜
 「ふえ?」

光輝
 「少し、男らしくなったか?」

当夜
 「えええっ!?」

僕は泣き顔から一気の笑顔に変わった。
光輝君に男らしくなったって言われた!
そうか、ついに僕の悲願は達せられたのか!

光輝
 「いや、ないな! やっぱりこれは気の性か」

当夜
 「はううううう〜!」

直ぐに項垂れた。
や、やっぱり気の性って……僕、頑張ってるんだよ?
そんな無駄な努力みたいに言わないでよぉ。

男子生徒A
 「ゲラゲラゲラ! 本当上乃子ちゃんはおもしれーよな!」

光輝
 「あん? 何がだ?」

光輝君は僕がちゃん付けされたのが気に食わないのか、珍しく威圧的な目で前方を歩く男子生徒を見た。
男子生徒は少しだけビビリながら、言った。

男子生徒A
 「い、いや、だってよ? 笑ったり泣いたりテンション上げ下げ激しくて、見てて楽しいじゃん?」

当夜
 「あ」

僕って感情表現は豊かな方だと思うけど、周りからはそう見えていたんだ。
そして光輝君はなにか気づいたのか、僕を見た。

光輝
 「そうか、当夜が変わったのは……自分を隠さなくなったことか」

当夜
 「隠す?」

それは意外な言葉だった。
僕は自分を隠していたのか?
いや、確かに誰だって隠し事はある、今の僕がデスリー総統である事は当然秘密だし、美陽さんにだって内緒の事は勿論ある。
でも、僕は自分を隠していた?

光輝
 「今までの当夜って、恥ずかしがり屋な性分の性か、いつも遠慮してたよな?」

当夜
 「そ、そうかな?」

光輝
 「それが、どういうわけか、今の当夜を見ると、自分の意見を言えるようになった」

当夜
 「うーん?」

やっぱり僕にはよく分からないなぁ。
光輝君は合点がいったのか、腕を組むと「うんうん」と何度も頷いた。
自分にとっては、自分とはいつもの延長線であり、何が変わったのか分からない。
でも光輝君がそう感じるのは、その通りなのかも。



***



体育の授業はフットサルだった。
このサッカーから延長線上で生まれた競技で、光輝君に敵う者は誰もいない。

光輝
 「おっしゃー! ハットトリック!」

サッカー部でも、スタメンでフォワードの光輝君のシュートは強烈過ぎて、キーパーもビビってしまう代物だ。
改めて欧州リーグ殴り込みも現実味を感じてしまう程レベルが違う。

光輝
 「ヘイヘイヘイ! どうしたお前ら!? そんなヘナチョコディフェンスじゃ俺の攻撃は防げないぜ!?」

ピピー!

光輝
 「おっと! 前半戦が終了したか!?」

当夜
 「はぁ、はぁ!」

僕は光輝君とは敵のチームになり、必死でディフェンスしたけど、全く敵わなかった。
最もそれは皆一緒で、僕だけが失態を犯している訳じゃないのが救いだけど。
兎に角前半が終わり10分間休憩が出来る。

僕は皆から少し離れた場所で息を整えた。
やっぱり僕って体力も無い方だよなぁ。

ろとぼん
 「ポーン! トウヤサマ、スーツハツカワナイノデスカ?」

突然目の前からろとぼんの声が聞こえた。
ミラージュスキンで透明化したろとぼんが目の前にいるみたいだ。
あくまでも学校では隠密に僕を見守っているろとぼんは僕の前でも姿は現さない。

ろとぼん
 「ポーン! デスリースーツナラバ、コノシアイアッショウカノウデス!」

当夜
 「うーん」

僕は腕に巻いた変身アイテムを見た。
体育の時間では普通は外さないといけないけど、これもろとぼんと同じ技術で、変身アイテムは透明化しており、周囲からは見えない。
総統専用スーツ、僕のため、そして組織のトップのためのスーツだ。
それだけに凄まじい性能があり、更に見た目の偽装まで出来てしまう。
正に総統のためのスーツだ……だけど。

当夜
 「ろとぼん、ズルはいけないよ?」

ろとぼん
 「ポーン! ナゼデショウ? ショウリノタメサイゼンヲツクスノハトウゼンデハ?」

当夜
 「それはスポーツマンシップに則ってすることだよ」

ろとぼんはどうも倫理観に欠けているみたいだ。
まぁ悪の組織のマスコットロボっぽい感じはするけど、スポーツにはルールがあり、だからこそスポーツマンシップが必要だ。

ろとぼん
 「ポーン! スポーツマンシップ……ろとぼんニハリカイフノウ」

当夜
 「ふふ、人間って効率だけで生きている訳じゃないからね」

光輝
 「おーい! 当夜ー! そこで何やってんだー!?」

当夜
 「あ、ううん! なんでもない! 息整えていただけ!」

後ろから光輝君が大きな声で僕を呼んだ。
僕は汗を拭うと、皆の元に戻る。

光輝
 「当夜、言っておくが自信を無くすなよ?」

当夜
 「は?」

光輝
 「俺にボロ負けして、ショックで一人になりたいってのはよぉーく分かる! しかし俺と当夜では住んでいる次元が違うのだ! だから気に病む必要はないぞ! ハッハッハ!」

当夜
 「……」

僕は呆然とした。
いや、レベルの差は初めから分かってるし、光輝君はよくサッカーではこれだけ自信過剰になれるよね。
いや、傲慢チキになれるだけの才能もあるから仕方ないのか。

当夜
 (スーツ、か)

ふと、ろとぼんの言葉を思い出すと。
確かにスーツを使えば光輝君を圧倒する事は可能だろう。
スーツは人知を超えた正義のヒーローに対抗する為でもある。
でも、そんな恐ろしい力を、こんな些細な理由で使ったらどうなるんだろう?
僕はやっぱりそれは怖い。
そして何よりそれはアンフェアだ。
光輝君が実は正義のヒーローでした、って言うんならフェアだけど、まぁそんな漫画やアニメみたいな展開はないよねぇ。
光輝君ってどう考えてもアニメじゃ被害者枠だし。

ピピー!

光輝
 「おっし! 後半戦! 10点は取るぞ!」

当夜
 (そんな無茶な……)

と思いつつも、光輝君なら本気でやりかねないなと思うのだった。
そしてその後だが、光輝君は本気で計13得点するのだった。
その喜びっぷりといえば、先生も「よくあれだけレベルが違うのに、大喜び出来るものだ」なんて言っちゃう始末。



***



キンコンカンコーン。

放課後になった。
全ての授業が終わり、僕は疲れた体を起こした。

光輝
 「よーし! 部活だー! また来週なー!」

1時間目に無茶した結果、体力を散々使い果たした僕はまだ疲れているのに光輝君はもう元気一杯で、教室を出て行った。

当夜
 「光輝君本当に凄いなー」

里奈
 「上乃子君、大丈夫?」

常葉さんは僕を見ると心配してくれた。
その万人に向けてくれる優しみは僕も嬉しくって、ついつい頬を緩ませてしまう。

当夜
 「えへへ、大丈夫だよ」

里奈
 「そう……あまり無理しちゃ身体に悪いからね?」

当夜
 「う、うん……気をつけるよ」

確かに光輝君に合わせていたら体力がとても持たない。
光輝君は体育の授業でもあれだけ元気ならば、その後の部活でみっちり体力を使うのだ。
僕の何倍の運動量だろう?
僕と基礎も違い過ぎるとはいえ、僕の努力はまだまだなのかな?

里奈
 「あ、そうだ! ねぇ今日は暇?」

当夜
 「え? 予定はないけど」

秘密結社デスリーの動向はまだ確定してはいなかった。
近々大きな作戦を起こすかも知れないけど、それまでは僕も比較的フリーである。
常葉さんはそれを聞くと笑顔で手を叩いた。

里奈
 「ふふ、だったらマリアンルージュに来て♪ 甘い物を食べれば疲れた体にも良いわよ?」

当夜
 「ええ?」

里奈
 「じゃ、お店で待ってるからねー♪」

常葉さんはそう言うと、鞄を持って出て行った。
マリアンルージュ、常葉さんが働くスイーツショップ。
勿論場所は知っているし、行った事も何度もある。
でもそれは光輝君の付き添いで行くことが殆どなんだよね。
あの店男性には少し恥ずかしいというか、一人だと行きづらい。

当夜
 「あ、そうだ」

確かに一人だと行きづらいけど、二人なら別だよね。
多分学校の校門前で美陽さんが待っている筈、二人で行ってみよう!



***



美陽
 「洋菓子店ですか?」

案の定美陽さんは校門前にいた。
僕は早速美陽さんを誘うが、美陽さんは無表情だ。

当夜
 「もしかして甘い物は嫌い?」

美陽
 「いえ、そうではありません……しかし私は護衛です、私の意見を聞く必要はないかと」

当夜
 「そんなことないよ! 美陽さん、一緒に行こう!」

僕はあくまでも美陽さんを護衛ではなく、対等の女性として扱いたかった。
僕は手を差し出すと、美陽さんは少しだけ無言でそれを見ると、頷いた。

美陽
 「畏まりました」

ろとぼん
 「ポーン! トウヤサマ、マリアンルージュヘノサイタンルートヲアンナイシマショウカ?」

当夜
 「うーん、AIの道案内ってイマイチ信用出来ないけど、お願いしようかな?」

僕が外に出たことでミラージュスキンを解除したろとぼんは僕が承認すると先行して飛び始めた。

当夜
 「それじゃしゅっぱーつ!」



***



マリアンルージュ、駅からも程よい距離にある街の洋菓子店だ。
外観はルージュというよりはピンクという感じで、遠目でも目立つ外観だ。
中は外よりは落ち着いているが、カフェスペースはベージュ色に統一しており、ここも少し男性には敬遠されてしまうかもしれない。
しかし合せて20席近くあるカフェスペースの座席は半分が埋まっており、そこそこに繁盛していた。

ゲノン
 「お友達が、ですか?」

ゲノンは里奈より先にエプロン姿で給仕を勤めていた。
里奈は既に着替え終え、キッチンで働きながら言った。

里奈
 「うん! 仲の良い子なんだよ」

ゲノン
 「ふふ、男の子?」

里奈
 「? そうだけど……?」

ゲノンはそれを聞くと目を細めた。
そうか、里奈ちゃんもお年頃なんだもんね、そういう下卑た顔だった。
しかし流石、意思の神と呼ばれるポケモンのPKMか、里奈はゲノンの下世話な意思を察知すると、顔を赤くした。

里奈
 「ち、違うから! あくまでも友達だから!」

カランカラン♪

ゲノン
 「はいはい、お客さんきたから」

ベルが鳴ると来客を知らせる。
入ってきたのは二人だった。
一人は黒髪の小さくて可愛らしい少女だ。
何故か男子制服を着ているが、そういう趣味だろうか。
一緒に入ってきたもうひとりの女性は、こちらは身長が高く緑がかった黒髪を腰までスラッと伸ばした大人の女性だ。
親子かな? そう思える程その二人はアンバランスだった。

ゲノン
 「いらっしゃいませ、店内をご利用でしょうか?」

少女の方
 「あ、はい……その、二人です」

ゲノン
 (やだ……可愛いい♪ まるで小動物みたい♪)

少女は慣れていないのか、やや目線が泳いでおり更に不安そうに両手を握り、そこにかとない儚さを感じてしまう。

里奈
 「あ、上乃子君いらっしゃーい♪」

少女の方
 「あ、常葉さん!」

ゲノン
 「え? え?」

少女は里奈ちゃんと知り合いなのか、里奈ちゃんは笑顔で手を振り、少女も笑顔で里奈ちゃんの方に向かった。
大人の方はただ無言無表情で少女の後ろをついていく。

ゲノン
 「あれ? 里奈ちゃん、来るのって男の子じゃ?」

里奈
 「そうだよ? 彼、上乃子君」

彼?
ゲノンはちんぷんかんぷんになっていると、少女(いや、少年か)は彼女に振り向きお辞儀した。

当夜
 「どうも初めまして、上乃子当夜と言います」

ゲノン
 「え? 嘘!? こんなに可愛い男の子がいるだなんて!?」

当夜
 「可愛い……」

少年はそう言われるのは複雑なのか、脱力するが、その仕草も可愛らしかった。
嘘でしょう……凄い女子力高そうなのに、男性って反則でしょ?
ゲノンはただ真顔で固まってしまう。

里奈
 「あの人ゲノン・セクターって言うの、外国から来た人だけど、日本語は大丈夫よ」

当夜
 「あ、そうなんだ」

里奈
 「ところで上乃子君の後ろの人は?」

当夜
 「あ〜、山田美陽さんって言うんだけど、今ウチにホームステイしているんだ」

ゲノン
 (山田美陽!?)

ゲノンは顔色を変えた。
あの無口無表情なPKMは山田美陽だと言うのか?

美陽
 「なにか?」

しかし視線に気がついたのか美陽はゲノンを振り返った。
その冷たい視線は、ゲノンに何を物語っているのか。

ゲノン
 「い、いえ……」

ゲノンはそう言うと給仕に戻った。
美陽は無表情でその背中を追う。

当夜
 「あれ? 美陽さんどうしたの?」

気がつくと当夜はトレイを持っていた。
里奈という少女も既にキッチンに戻っており、話は終わったようだ。

美陽
 「いえ……」

美陽の言葉は短かった。
一度意識を変えると、二人は空いている席に向かう。



***



当夜
 「うーん♪ 美味しい♪」

マリアンルージュのケーキは絶品だ。
僕は実は洋菓子が大好きだから、密かにこれが楽しみなんだよね。
僕たちが買ったのは店名と同じ名前のマリアンルージュというケーキ。
イチゴをふんだんに使っており、クリームまでルージュに輝く、この店を象徴するケーキだ。

当夜
 「美陽さんはどう?」

美陽さんは席についてからも、しばしば無表情だった。
いや、それはいつも通りなんだけど、ケーキを見て?を浮かべている。
もしかして嫌いなのかな? と思うが美陽さんは恐る恐る、ケーキにフォークを突き刺すと口に運んだ。
僕はニコニコ笑顔で感想を待つ。

美陽
 「! 初めて、です」

美陽さんはマリアンルージュを一口頂いただけで目を見開き、顔を綻ばせた。

当夜
 「美味しい?」

美陽
 「美味しい、です」

良かった、美陽さんも気に入ってくれたみたい。
美陽さんって普段どんな生活しているのか全然分からないけど、美味しいって幸せな気持ちになれるからね。

当夜
 「ふふ、良かった。美陽さんも気に入ってくれて」

美陽
 「はい、びっくりしました」

当夜
 「ビックリかぁ」

僕は思わず笑ってしまう。
美陽さんやっぱり普段はこういう食べないんだろうなあ。
そういう意味じゃ連れてきて正解だったね。
美陽さんも美味しそうに少しだけ頬を赤らめケーキを頂いた。

ゲノン
 「コーヒー、お待たせしました」

ゲノンさんという店員さんはそう言うと、コーヒーカップをテーブルに置いた。
一瞬その目は美陽さんを向く。

ゲノン
 「それではまた何かあれば、お声掛け下さい」

ゲノンさんはそう言うと、また次の仕事に向かった。
美陽さんはその背中を追う。

当夜
 「どうしたの?」

美陽
 「……ゲノン・セクター……ですか」

当夜
 「?」

僕はそれが何を意味するか分からなかった。
ただ美陽さんは、それっきりケーキに目を戻すと美味しそうに頂いた。



***



夜、暗くなるとマリアンルージュもいつも通り閉店時間を迎えた。
ゲノンはいつものようにライダースーツを纏い、ヘルメットを被り、愛用のバイク『ジェノセッター』に跨ると、走り出す。
夜の街に輝くネオン、ゲノンは一筋の軌跡になりながら走った。
しかし、その後ろには不穏な気配を感じた。
すかさずゲノンはバイクを巧みに扱いルートを変更した。
通信機からゲノンに慌ただしい連絡が入った。

司令官
 『ゲノン君! どうした!? 何が起きたのだ!?』

ゲノン
 「こちらゲノン、後ろを不審なバイクが3台追跡中」

司令官
 『なに!? デスリーか!?』

ゲノン
 「わかりません、ですから確認をとってみます」

司令官
 『うむ、君に限って万が一はないと思うが!』

ゲノンは狭い路地裏を巧みなドライビングテクニックで切り抜けると、寂れた廃工場に突入する。
中は広く、ゲノンはバイク痕が残る程ドリフトをしながらバイクを止めると、廃工場の入口を見た。
強い光、複数のバイクから放たれた光によってハレーション効果が起きている。
ゲノンはヘルメット越しにその先にいる者を見た。

ゲノン
 「デスリーの怪人か?」

怪人?
 「……」

光の中から現れたのは、おぞましい姿をした人型の怪物だった。
見た目こそ生物的だが、いつもの怪人型ロボットだろう。
だからこそ、ゲノンは良心の呵責なく戦える。

怪人は口を開くと、溶解液を放った!
ゲノンはすかさず側転し、それを回避する。
溶解液はアスファルトの地面にかかると、直様煙を放って溶かした。
かなり危険な溶解液だ、だからこそ早期に決着をつけねばならない!

ゲノン
 「変・身!」

ゲノンはそう言ってポーズを取ると、ライダースーツが光り輝き、更にヘルメットが変形する!
それはコンマ1秒にも満たない変身時間だ。
ゲノンが立っていたその場所には全身から蒸気を放つ正義のヒーローだった。
紫色のコンバットスーツで全身を覆い、赤いマフラーが風に靡く。

ゲノン
 「正義の使者、ゲノセクトエース、参上!」

怪人はゲノン、いやゲノセクトエースを見ると、襲い掛かった。
怪人の振り上げる右腕の強烈な一撃をゲノセクトエースは受け止める!

ゲノセクトエース
 「ふん! この程度かデスリー!」

ゲノセクトエースは怪人を投げ飛ばす!
怪人は仰向けに倒れると、既にゲノセクトエースは飛び上がっていた。

ゲノセクト
 「くらえ! トアー!!」

ゲノセクトエースは空中で一回転すると、怪人に急降下キックを放つ!
それは緋を纏い、強烈な一撃は怪人を破壊する!
怪人は爆発四散した!
ゲノセクトエースはすかさず飛び退いた。
そして、ジェノセッターに乗り込むと走り出す。

ゲノセクトエース
 (やはりデスリーは復活した! そして山田美陽……あの人は!?)



***



シャーク
 「……以上で戦闘記録は終了か」

秘密基地で先の戦いを見たシャーク将軍は首を振った。
ちょうど、秘密基地に寄っていたドクタータキオンは苦笑する。

タキオン
 「ゲノセクトエース、些かも衰えなし、かな?」

シャーク
 「やはり旧式の怪人ではこのザマか」

先程怪人は旧式だった。
すなわち先代、3年前に使われた怪人だった。

タキオン
 「まぁ所詮は旧式、データ取りに成功しただけで良いでしょう?」

タキオンはそう言うと肩を竦めた。
シャーク将軍は鋭い赤い瞳をタキオンに向けると。

シャーク
 「ドクタータキオン、先の戦いではお前はまだデスリーには所属していなかった、だからゲノセクトエースを知らない」

タキオン
 「だが同時にゲノセクトエースも私やペレ君、デスリー総統を知らない訳だ」

シャーク将軍は俯いた。
やはり憂いがあるのか。

タキオン
 「なに、勝つよ……その為に私はデスリーにいる」

デスリーの若き天才科学者牧村睦美ことドクタータキオンは怪しく笑った。
つかつかと研究室へと向かうと、シャーク将軍は出口でドクタータキオンを止めた。

シャーク
 「ドクタータキオン、デスリー総統をこんな些細な問題で煩わせてはならん! いいな?」

タキオン
 「……はは、もちろんさ!」

タキオンはそう言って薄ら笑うと、作戦司令室を出て行った。

カツカツカツ……無音の通路を歩きながらタキオンはデスリー総統、つまり当夜に想いを耽る。

タキオン
 (当夜君を煩わせるな、か……はてさて、何も知らされてない当夜君はどう思うか、いやシャーク将軍の想いも分かるがな?)

シャーク将軍は正直不安だった。
当夜は優しすぎる、ペレやタキオンにはそれでいいかもしれないが、もしも怪人が敗れることに悔いるようであれば、当夜はデスリーの世界征服の足を止める存在になるだろう。
シャーク将軍は生粋の武闘派だ。
本人が陣頭指揮をすれば、鬼のような強さを持つ。
だからこそ力なき当夜の矛となれるのだが、タキオンは苦笑した。
まだシャーク将軍は当夜を理解していない。
タキオンはある種確信があった。

タキオン
 「当夜君はね……私が真剣に尽くしたいって思ったんだよ、デスリー総統だからじゃない、彼が上乃子当夜だから、さ」

カツカツカツ……。

誰も聞いていない独り言。
ただ足音だけが響いた。



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第三章 正義の使者、その名は……!

第四章に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/23(火) 16:25 )