突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語 - 第一部 世界征服を目指す物語
第三章 正義の使者、その名は……!

突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第三章 正義の使者、その名は……!



当夜
 「んん……!」

僕の朝はいつも自然光を感じて始まる。
窓に掛けられた遮光カーテンの隙間から僅かに溢れる光。
僕はこれだけあれば起きることが出来る。
だからアラームとかはほとんど利用したことが無い。
まぁ一応学校に遅刻しないようにスマホのアラームは使用しているが、殆ど寝過ごした事なんてない。

そう、今日もいつも通りだ、少しいい匂いと共に目覚める。

当夜
 「……うん? いい匂い?」

僕は瞼を擦りながら上体を持ち上げた、すると何かが身をもたげた。

タキオン
 「う、んん……」

当夜
 「え?」

それはタキオンさんだった。
タキオンさんはパジャマ姿で僕の布団に入っていた。
僕は部屋の中をキョロキョロする。
うん、やっぱり僕の部屋だ。
僕が間違えてタキオンさんに用意したベッドで寝ていた訳じゃない。
え!? じゃあなんでタキオンさんが僕の部屋にいるの!?

当夜
 「た、タキオンさん!? ちょっとタキオンさん! 起きてください!」

僕はタキオンさんの身体を揺さぶった。
タキオンさんはパジャマ姿で、胸元が開いており、僕はなるべくそっちを見ないように意識する。

タキオン
 「うん〜……うるさ〜い……むにゃむにゃ」

当夜
 「ふえ!? ええええ!?」

突然部屋の中の物が浮かびだした!
その中には僕も含まれていた。
タキオンさんのサイコキネシスだろうか、完全に寝ぼけている!

当夜
 「そう言えばタキオンさん腕輪してない! タ、タキオンさん起きて〜!」

日本では全てのPKMは能力制御装置の装備が義務付けられている。
四六時中装備していろという訳じゃないが、考えてみればタキオンさんといい、ペレさんといい装備してないな。
制御装置はやや大きめな白い腕輪で目立つのだが、やや無骨でデザインが悪いという評価もある。
そういう関係で家では制御装置を付けたがらない女性もいるって聞いたことがある。
と、兎に角、タキオンさんを起こさないと!

当夜
 「タキオンさ〜ん!」

僕は宙に浮かびながら手足をジタバタした。
さながら部屋の中が宇宙空間だ。
無重力のようで無重力じゃない、兎に角タキオンさんが寝ぼけて念動力を放っているなら、危ないから止めないと。

タキオン
 「むにゃむにゃ……当夜君の声がぁ〜」

当夜
 「お〜き〜て〜!」

タキオンさんは寝返りを打った。
しかし状況は一向に好転しない。
念動力が弱まることも、強まることもない。
一応寝ぼけながらも僕の声は聞こえているみたいだけど、あともう少しが届かない。

タキオン
 「むにゃむにゃ……ううん」

再び寝返りを打った。
すると掛け布団がずれて、タキオンさんの下半身がさらけ出す。
すると、そこにはあられもない生足が覗いており……。

当夜
 「うう……! 見てられないよぉ」

僕は顔を真っ赤にし、そっぽを向く。
タキオンさんの身体は綺麗で、普段の粗野さとは凄くギャップがある。
思わずタキオンさんのいい匂いを思い出すと、僕はどんどんおかしくなりそうだった。

ドタドタドタ!

当夜
 「あ!」

部屋の外から慌ただしい足音が近づいてきた。
そして足音は部屋の前で止まると、勢いよく扉が開かれる。

美陽
 「当夜様! ご無事ですか!?」

当夜
 「山田さん! タキオンさんが!?」

扉を開けて中に踏み込んできたのはペレさんこと、山田美陽さんだった。
美陽さんは部屋の中を一瞥すると、改めてタキオンさんを見る。

美陽
 「なるほど、寝ぼけているのですね」

当夜
 「助けてくださ〜い」

美陽
 「畏まりました」

美陽さんはそう言うと部屋へと踏み込んできた。
しかし、それはタキオンさんの念動力空間に自ら入る事を意味する。

当夜
 「う、迂闊に踏み込んだら!?」

当然、美陽さんは念動力に捕まり、その身体が宙に浮き始める。
しかし、美陽さんは動じない。
ただ、僕とタキオンさんを一度交互に見ると、手元に触れる。
美陽さんが装着する白い腕輪、見た目は制御装置そっくりだが、その中身は殆ど入れ替えられている。

美陽
 「能力遮断機能を試してみましょう」

美陽さんが腕輪に触れると、一瞬美陽さんの身体がプリズムの膜に覆われる。
腕輪から念動力を遮断するなんらかの力が放射され、美陽さんはストンと軽やかに着地した。

当夜
 (あ、そうか……そう言えば昨日貰った変身アイテムにも、似たような機能あったっけ)

僕は自分の机に無造作に置かれたスマートウォッチ型の変身アイテムを見る。
タキオンさんには四六時中装備しておくように言われていたが、まさかこの事態は流石に想定してなかったよ……。

美陽
 「タキオン、起きなさいタキオン、当夜様が困ってます」

美陽さんはそう言ってタキオンさんの身体を揺さぶった。
タキオンさんは「うーん」と呻き声を上げながら、中々粘ってくれる。

美陽
 「……警告します、タキオン、後5秒で起きなければ、貴方の腕を折る」

当夜
 「ちょ!? いきなり物騒!?」

しかし、美陽さんの脅しは効いたのか、タキオンさんはガバッと起き上がった。

タキオン
 「なにか、凄い悪寒がした……!」

当夜
 「……うわ!?」

タキオンさんが汗をかきながら起き上がると、急に重力が帰ってきた。
僕は受け身も取れないまま尻もち落下してしまう。
しかし、それを見越していたのか美陽さんが僕をお姫様だっこでキャッチしてくれた。

美陽
 「ご無事ですか? 当夜様?」

当夜
 「う、うん……ありがとう、ございます」

僕は顔を真っ赤にすると、小さな声でそう言う。

美陽
 「いかが致しましたか?」

当夜
 「な、なんでもない! なんでもないから!」

僕は女の人に抱っこされるのが恥ずかしいとか、この抱き方だと、美陽さんの柔らかい……その、ある物が身体に当たって正気じゃ居られなかった。

当夜
 「も、もう大丈夫だから、おろして!」

美陽
 「畏まりました」

美陽さんは特になにも感じてないのか、無表情で僕を優しく地面に降ろしてくれた。

当夜
 (はぁ〜、どうせなら僕が美陽さんを抱っこしてあげれたらなぁ)

まぁ無理だろうけど。
僕と美陽さんじゃ、美陽さんの方がずっと大きいし、多分体重でも負けているんだろうなぁ。
僕だって男らしくなりたいけど、道は険しいなぁ。

美陽
 「朝ごはんの用意、もう間もなくですので、よければお先にシャワーをお使いくださいませ当夜様」

当夜
 「う、うん……」

美陽さんはそう言うと、静かに1階に戻っていった。

タキオン
 「ふあ……久し振りによく寝たぁ」

僕は後ろを振り返ると、ベッドの上で欠伸をしながら、大きく伸びをするタキオンさんがいた。
もうタキオンさんには色々聞きたい事があるけど、僕はもう疲れてただ溜息を零した。

当夜
 「はぁ……おはよう」

タキオン
 「うん? 何故当夜君がいるのかな?」

当夜
 「覚えていないんですか?」

タキオン
 「?」

タキオンさんは上の空になると首を傾げた。
どうやら夢遊病みたいに部屋を間違えて僕の部屋に来たみたい。
まぁタキオンさんがぐっすり眠れたならそれでいいけど。

当夜
 「タキオンさんの部屋は隣ですよ?」

2階には部屋が4つある、一部屋物置小屋にしているが、余っている部屋を昨日大忙しで掃除して、ベッドを用意したのだ。
タキオンさんはボサボサ髪をポリポリと掻くと「ふーむ」と呟く。

タキオン
 「どうやら私に過失があったようだねぇ」

当夜
 「か、過失だなんて……」

僕は顔を赤くすると手を振った。
そのまぁ、ラッキーエッチと言いますか、僕も役得しましたしね。

タキオン
 「ふむ? 顔が赤いようだぞ?」

当夜
 「ッ!? あ、朝ごはんあるから、後でね!」

僕はそう言うと、慌てて立ち上がり、部屋を出た。
うぅ、勘付かれたかな? 恥ずかしい……!



***



タキオン
 (ふむ、差し当たって決して嫌悪に思われてはいないようだ)

私は察するに彼の部屋と思われる中で黙考した。
何故私がこの部屋で寝ていたのか分からないが、まぁそれは今は些末な問題だろう。
結果的にそれが彼との友好関係に傷を付ける事になった訳じゃない。
まぁ個人的にはもっと親密になってもいいかとは思う訳だが。

タキオン
 「フゥン、クンクン」

私は掛け布団を鼻に手繰り寄せると、その匂いを嗅いだ。
彼の匂い、それは女である自分の匂いと異なる。
匂いとは汗だ、科学的にはフェロモンでもある。
私は異物である男性のフェロモンを感じ、それが心地良いと感じた。
ある説では枕の匂いが気にならないのなら、身体の相性が良いと言われているが、その説に乗っ取るなら私と彼の身体の相性は良いのだろう。
彼の匂いはそれ程不快感はなく、むしろいい匂いに感じた。
彼にはあまり男性的ではないから、その為かもしれないが。

私の今の状態は非常に良い、身体の疲れも眠気も殆どない。
昨日ゆっくりと風呂を借り、ぐっすり熟睡出来たからだろう。
だがそれに加えて考えるならば、彼の側で眠ることは私に+の価値があるという事か。

タキオン
 「ふふ、当夜君……中々不思議な子だけど、悪くないじゃないか」

私はそう言うと立ち上がった。
とりあえず久し振りに朝食を頂くとしよう。



***



当夜
 「ふぅ……」

僕は風呂場に入ると、温かいシャワーを浴びていた。
今日は特に悪い汗をかいた訳じゃないけど、これは日課だからね。
僕って結構身嗜みは整える方だから、筋トレで汗をかいてなくてもちゃんと整えておかないと。

当夜
 「はぁ……それにしても2日連続で筋トレが出来ていないとは……これは不味いぞ」

僕の身体は正に非力、もう3年は続けているんだけど、全然筋肉付かないんだよね。
もう18歳なのに、まだ女の子みたいな顔で、身体も子供っぽいなんて、やっぱり恥ずかしくて嫌だ。
特に美陽さんに抱きかかえられたのは、嬉しさよりやっぱりショックの方が大きいかなぁ。
幾ら非力とはいえ、女性に抱えられるなんて……やっぱり男らしくない。

当夜
 「もっと男らしく……! もっと……!」

ガラララ。

僕は頭からシャワーを浴びながら、力拳を作っていると、突然浴室の扉が開かれた。

当夜
 「……え?」

僕は迂闊にも扉の方に振り向いてしまった。
後から考えればこれはアクシデントだ。
だけどこの時点で僕は既にパニックだった。

タキオン
 「やぁ当夜君♪ ご一緒させてもらうよ?」

当夜
 「た、タタタタ、タキオンさん!? な、なんでお風呂に!?」

それはタキオンさんだった。
それも一糸纏わぬ裸体のタキオンさんが、タオルだけ抱えて入ってきた。

タキオン
 「何故? 君と同じだよ、汗を流したいのさ」

当夜
 「そ、そそそ、そう! そ、それなら僕はもうこれで!?」

僕は訳がわからず、兎に角タキオンさんから目線を外し、浴室の外に駆ける。

タキオン
 「あ、おい……走ったら危険だぞ!」

当夜
 「うえ!?」

少し遅かった。
浴室は水が張っており滑りやすい。
それが分かっていたのに、僕は愚かにもその場で足を滑らせてしまった。
視界がグルリと回転する。
やばい、そう思った刹那。

タキオン
 「よっと、少し落ち着きたまえ? 当夜君?」

突然僕は後ろからタキオンさんに抱きかかえられた。
タキオンさんは母親のような優しい顔で僕を諭す。

当夜
 「あ、あああの、タキオンさん? な、なんで僕が使っているのに浴室に?」

タキオン
 「やれやれ……君は私が嫌いか?」

当夜
 「そ、そんな事……ありませんよ」

タキオンさんはそれを聞くと「フフ」と笑った。
タキオンさんの事、嫌いな訳がない。
何考えているか分からない所は美陽さん以上だけど、僕にとってお姉ちゃんみたいな人で、嫌いにはなれなかった。

タキオン
 「私も一緒だよ、だから君ともっと親密になりたいと思っている」

タキオンさんはそう言うとギュッと僕を抱きしめた。
僕の首にタキオンさんの胸が当たり、タキオンさんの心拍音が聞こえそうだった。
僕は顔を真っ赤にすると、タキオンさんから離れる。

当夜
 「し、ししし、親密!? 親密な関係って、それって! それって!?」

タキオン
 「落ち着きたまえ、ようは仲良くなりたいという事だ」

当夜
 「な、仲良く?」

タキオン
 「フフ、君は愛情のほうが欲しかったのかな?」

当夜
 「ぼ、僕!? し、失礼しますっ!」

僕は心の中を見透かされたように思い、立ち上がると浴室を飛び出した。
タキオンさんの妖艶な顔は魅惑的で、取り込まれそうだった。
僕はタキオンさんに甘えている?
タキオンさんは僕の全てを包んでくれそうで、少し怖くなった。

当夜
 「健全に、健全に……!」



***



朝ごはんは昨日よりも少しだけ豪華になっていた。
豪華と言っても一品増えた程度だが、そもそも朝はパンで済ませる程簡素な僕には、この温かいご飯で充分幸せなのだ。

美陽
 「当夜様、如何でしょうか?」

当夜
 「うん、とっても美味しいよ」

タキオン
 「安心したまえ、美陽君はいつでも嫁にいける腕前さ」

美陽
 「お嫁……ですか?」

僕は白ごはんを頂きながら、タキオンさんを見た。
タキオンさんは本当に何を考えているのか分からないなぁ。
夜勝手に僕の布団に入ってきたのはアクシデントだとしても、シャワーを浴びている所に入ってきたのは確信犯だ。
しかも裸を見せて恥ずかしがる様子も無かった。
あれは僕を男として見ていないんじゃないかって気もするけど、真相は闇の中だ。

当夜
 「そ、そうだね、美陽さんって、凄く気配りできるし、きっと素敵なお嫁さんになるんだろうなぁ」

美陽
 「当夜様……」

て、僕何言っているんだろう?
僕は言っててなんだか恥ずかしくなってしまう。
僕は早めに朝ごはんを食べると、ご馳走さまするのだった。

当夜
 「ご馳走さま!」

タキオン
 「ふふ、よく噛んだかい? 早食いは消化にも良くない、先人の知恵は参考にしたまえ」

タキオンさんはそう言うと、マイペースに食べた。
一応僕の身体の事を思って言ってくれているんだよね?

当夜
 「そう言えばタキオンさんって普段何しているんですか?」

タキオン
 「う〜ん? そうだな殆ど自分の研究を進めて過ごしているが、たまに大学に顔を出しているかな?」

当夜
 「え? タキオンさん大学生?」

僕はちょっと意外な言葉に驚いた。
そもそもタキオンさんって生粋の天才って感じで、学校に通っているイメージが湧かない。

タキオン
 「そんなに不思議かな? 私だって表の顔があるんだよ?」

当夜
 (そうなんだ……)

なんだか少し不思議な感じだけど悪の秘密結社って言っても、案外普通の人が勤めているのかな?
シャーク将軍の表の顔とか全然想像できないけど。

タキオン
 「こう見えても私は立派な大学生だよ、本名牧村睦美(まきむらむつみ)、普通の一般人だよ」

当夜
 「これまた想定外な程普通の名前が……!」

山田美陽といい牧村睦美といい、案外悪の幹部って普通の名前なんだね。
僕てっきり本名からタキオンさんなのかと思ってたよ。
だって外でも気にしてる様子すらないんだもんなぁ。

当夜
 「じゃあ外ではやっぱり牧村さんって呼ぶべきかな?」

タキオン
 「まぁどっちでも構わないが、強いて言えばそれは少し他人行儀ではないかい?」

当夜
 「えっ?」

タキオンさんはずいっと顔を近づけると持論を述べる。

タキオン
 「そもそも私は親愛を込めて君を当夜君と呼んでいるのに、君は他人行儀に牧村さんじゃ、ちょっと距離がないかい?」

美陽
 「……なるほど、確かに一理あります」

当夜
 「え? え?」

美陽さんまで顎に手を当て頷いた。
え? え? これって下の名前で言わなきゃいけないパターン?

タキオン
 「さ、デスリー総統でもある当夜君ならどうする?」

美陽
 「タキオン、その名は決して口外しては」

タキオン
 「おっと、すまないすまない、で? 当夜君?」

当夜
 「うぅ」

僕は顔を真っ赤にすると、縮こまった。
いや、分かるんだけど女性を名前で呼ぶなんて凄く恥ずかしい。
僕って女性への免疫意外と低いのかなぁ?
常葉さんとか、学校の女子とかとは普通に喋れるんだけど、やっぱりこの二人距離感が近過ぎるからかなぁ?

当夜
 「逆に言うけど、そこまで親しくする必要はあるんですか?」

「え?」とタキオンさんは意外な顔をした。
同時に普段無表情なサイボーグポケモン娘な美陽さんまで表情を変えた気がした。

タキオン
 「そんな……私は所詮使い捨ての駒なのかぁ〜、ヨヨヨ」

タキオンさんは顔を手で覆うと、悲しそうな声で泣いた。
僕は慌てて、席から立ち上がる。

当夜
 「わっ、わっ! な、泣かないでください〜!」

美陽
 「当夜様、嘘泣きです」

タキオン
 「ち、ネタバレは嫌われるぞ?」

嘘泣きだった、タキオンさんは顔を出すとか一滴も涙なんて流れてなかった。
僕は思わず脱力してしまう。
女性の演技力が怖いのか、僕が甘いのかどっちだろう?

タキオン
 「でも、考えてみたまえ? 既に同じ釜の飯を食い、そして寝たんだぞ? それなのにバッサリ切り捨てるのは無情じゃないか?」

当夜
 「そ、それは……」

確かにその通りだ。
正直言って僕だって二人とは仲良くなりたい。
ただ、タキオンさんのスピード感には戸惑うんだよねぇ。

タキオン
 「うぅ〜、当夜く〜ん」

当夜
 「む、睦美、さん」

僕は舌足らずになりながら、タキオンさんの名前を言う。
すっっっごく恥ずかしかったけど、タキオンさんは目をキラキラさせて。

タキオン
 「うむうむ♪ やっぱり可愛いなぁ♪ 当夜君は♪」

タキオンさんはそう言うと抱きついてきた。
僕はびっくりして引き下がろうとするが、思いの外タキオンさんの力は強く離れられない。

当夜
 「た、助けて美陽さ〜ん」

美陽
 「っ! か、畏まりました!」

僕は美陽さんに助けを求めると、美陽さんは直ぐにタキオンさんを引き剥がす。
なんか、いつもより美陽さんのテンション高かった気がしたな?

タキオン
 「チェ、これくらいのスキンシップ普通だろうに!」

当夜
 「僕にとって、普通じゃないです」

僕は脱力しながら、そろそろ学校へ行く準備をすることにした。
とりあえず着替えたら、鞄用意しないと……。



***



睦美
 「ああ、当夜君」

今日は少し慌ただしく、家を出るときいつものように鍵を掛けると、タキオンさんこと睦美さんが何かを思い出したように声を掛けた。

当夜
 「なに? 家になにか忘れた?」

睦美
 「いや、そうじゃないが……君にある物をプレゼントしよう」

当夜
 「え? もう変身アイテム貰ったのに?」

僕はそう言うと右腕に巻いたスマートウォッチ風変身アイテムを見せる。
この変身アイテム、いかにもディスプレイの方が重要そうだが、実はメインの機能はベルトの方にあるらしく、実にタキオンさん考案の変身アイテムって感じだよね。
しかし睦美さんは首を振ると、指を鳴らす。

睦美
 「出てきたまえ! ロトボット!」

ロトボット? 聞き慣れない単語が出てくると、突然睦美さんの後ろの景色が歪み始めた。
まるで空間移動するように、体長30センチの特徴的な黄色い塗装のドローンが出現した。
3対のローターで飛ぶそれはポケモンのロトムに似ている物だった。

当夜
 「え? これって、本物のロトム?」

ロトボット
 「ポーン! イイエ! ワタシハドクタータキオンノカイハツシタ、ジュンスイナロボットデス!」

当夜
 「うわ!? 喋った!?」

そのロトムそっくりなロボット、ロトボットは意外な事に抑揚の無い機械じみた音声で喋った。
なんていうか最近発達の著しいAIを搭載しているみたいだけど、新しいような古臭いような?

睦美
 「こいつはロトボットと言って、普段は君を影から見守っているのだ」

当夜
 「え? そうなの?」

ロトボット
 「ポーン! ソノトオリデス!」

ふえ〜、知らなかったなぁ。
こんなロボットまで僕の護衛をしていたなんて。

当夜
 「美陽さんは知ってた?」

美陽
 「はい、一応は……」
 (喋るのは知りませんでしたが……)

知らなかったのは僕だけって事か。

睦美
 「ロトボットは優秀な人工知能を搭載している、君を助けるマスコットさ!」

ロトボット
 「ポーン! ヨロシクオネガイシマス! トウヤサマ!」

当夜
 「あ、うん、よろしくね」

マスコットかぁ、なんかそれっぽい感じもするけど、少し恥ずかしい気もするな。
でもペットロボットっていうのも存在するんだし、これはこれでアリかな?

当夜
 「うん……それじゃあよろしくロトボット! ううん、ろとぼん!」

ロトボット
 「ポーン! ソノ、ろとぼんトハ?」

当夜
 「名前、ロトボットじゃ無機質で可愛くないでしょ?」

ろとぼん
 「ポーン! ロボット二カワイイトハ!?」

当夜
 「はは! そういう事だから、宜しくね!」

僕はそう言うと、歩き出した。
ろとぼんは戸惑いながらも一定の距離をキープして追従してくる。

ろとぼん
 「ポーン! トウヤサマ、ろとぼんニハマダマダリカイフノウ」

睦美
 「ハハハ! さて……私は久し振りに大学へ行ってくる! またな!」

睦美さんはそう言うと、直ぐに僕たちから離れた。
僕の通学路には少し後ろに美陽さん、そしてロトボットのろとぼんがついてきた。
静かという意味ではいつもと変わらない。
でも僕の気持ちはいつもより賑やかに感じた。

当夜
 「なんだか不思議」

ろとぼん
 「ポーン! ナニガフシギナノデショウカ?」

当夜
 「だって、ちょっと前まで僕は普通の高校生だったんだ、なのにほんの数日でこんなに僕の周りは変わった、それがなんだか不思議でね!」

美陽
 「迷惑、でしたか?」

突然美陽さんが口を開いた。
美陽さんは相変わらず無表情で、その顔からは喜怒哀楽が読み取れない。
でも、少し重たく感じる言葉だった。

美陽
 「もし、私があの時、当夜様の腕を掴まなければ……当夜様は今も普通の生活を……」

僕は迷わず首を振った。
そして笑顔で振り返る。

当夜
 「ううん! 逆だよ! ありがとう美陽さん♪」

そう言うと、少しだけ美陽さんが表情を変えた。
本当に少しだけ、驚いたような、嬉しそうな顔をすると、微笑を浮かべる。
そう、僕は普通が嫌だった。
運動神経が良い訳じゃない、頭も良い訳じゃない……おまけに身長も低くて、身体も男っぽくない。
自分にコンプレックスばかりあって、その上友達はキラキラしている普通じゃない人達。
僕だって憧れたんだ、普通じゃない人たちに。
そして僕は成れたんだ、普通じゃない人に。
それは決して人前で言える物ではないけれど、それでも僕は感謝している。
あのとき、強引に僕の腕を掴んで、車に押し込んだあの事。
僕は秘密結社デスリーの総統、こんな馬鹿げた裏の顔、それでも僕は受け入れたんだ。
世界征服なんて子供が考えそうな夢を大真面目に追いかける人たちがいて、僕もその夢を追いかけたいって思えた。

当夜
 「これからも宜しくね♪ 美陽さん♪」

美陽
 「……はい、どこまでも、いつまでも……当夜様に付いていきます」



***



男子生徒A
 「おはよう上乃子ちゃーん!」

当夜
 「あー、うん、おはよう」

男子生徒B
 「あれ? 上乃子、今日は言い返さないんだな?」

そりゃ、君たちといつまでも言い合うのは僕としても疲れるからね。
学校についた僕は、美陽さんと別れた。
美陽さんはそれでもまぁ学校周辺を警戒して、ウロウロしているみたいだけど。
僕は廊下で談笑する生徒たちを掻き分け、教室に入る。
そして自分の席に向かいながら、窓の外を見た。

当夜
 (ろとぼんって、外で見ているんだよね?)

ろとぼんは学校に着くと、目立たないように自身を透明化(ミラージュスキンという技術らしい)して、窓の外に待機している。
いざという時は僕を助けてくれるらしいけど、まぁ学校でそのいざって時は来ないと思うけどね。

光輝
 「よ、おはよう当夜!」

当夜
 「うん、おはよう光輝君」

いつものように僕は友達の光輝君と挨拶すると、光輝君は不思議そうな顔をした。
僕は訳も分からず首をかしげるが、なんと光輝君は。

光輝
 「当夜、なにか良い事あったか?」

当夜
 「え? 突然なに?」

光輝
 「いや、なんか明るいっていうか……上機嫌だよな?」

当夜
 「っ!」

僕は驚いた。
自分自身で気が付かなかったからだ。
確かに今の僕は充足を得ている。
ややもや光輝君に劣等感さえ抱いていた僕は、今ではもう違う。
美陽さんや睦美さんが僕に充実感を与えてくれたんだ。
それが表情に出ていたのか。

里奈
 「あ、上乃子君おはよう」

当夜
 「あ、常葉さんもおはよう!」

光輝
 「なぁ常葉、当夜変じゃね?」

僕が席に座ると、いつも仲良し光輝君と常葉さんが僕について話し出す。
なんていうか、すっごく不思議な感じだよね。
いつも話題は寧ろ常葉さんと光輝君が独占しているのに、今日に限って僕だなんて。

里奈
 「え? そうね……明るくなったかな?」

光輝
 「だよなぁ、何があったんだろうな? ちょっと心覗いてみないか?」

光輝君はそう言うといじらしく笑った。
しかしそういうハラスメントに厳しい常葉さんは明確に怒りを現し。

里奈
 「もう! 駄目だよ! そういうデリカシーが無いことは!」

常葉さんが怒ると、教室中の目線が常葉さんと光輝君に向いた。

光輝
 「だぁー! 悪かった! ちょっとした出来心なんだから!」

女子生徒A
 「なに? 新央君、常葉さん虐めたの?」

女子生徒B
 「いやいや、ありえないって! どうせしょーもない夫婦喧嘩でしょ?」

男子生徒C
 「ゲラゲラゲラ! 夫婦喧嘩は他所でやれー!」

夫婦喧嘩、僕目線で二人はお似合いだと思うけど、二人は顔を真っ赤にした。

光輝
 「う、うるせぇ外野! だ、誰が夫婦だ!?」

女子生徒C
 「ねぇ知ってるー? 常葉さんと新央君って小学生からの付き合いなんだってさー!」

男子生徒D
 「熟年夫婦か!」

里奈
 「うぅ……違うのに」


 「はーいはいはい! ガキども席につけー! ホームルーム前にバカ騒ぎしやがって!」

そこへ御影先生が乱入してきた。
いつの間にかチャイムは鳴っていたのか、杏先生はイライラしながら教壇に出席簿を打ち付けた。


 「大体なにが夫婦喧嘩だ!? 高校生が甘い事言ってんじゃないわよ!?」

光輝
 (あ、杏先生、またお見合い失敗したんだろうなぁ)

当夜
 (先生超美人だけど、男運だけは悪いらしいからねぇ)


 「あーもう! いいか!? 結婚は甘くないのよ!? 夫婦に夢を抱くな!?」

里奈
 「せ、先生ホームルームを!」

結婚や夫婦というワードは先生方の間でも御影先生の前ではタブーだと聞いた事があるけど、本当に重症なんだなぁ。
先生は怒りを抑えるように、深呼吸をすると、点呼を始めた。

当夜
 (でも……結婚か)

僕はふと上の空になって考えた。
僕なんてモテないし、結婚なんて無理だって考えていたけど、いざとなったらどうするんだろう?
僕の憧れは常葉さんだ、正直高嶺の花なのはわかっている。
でも何度だって僕が変わりたいと思えたのには、常葉さんと対等になりたいって想いがあった。
まぁ結局僕たち3年生の残り時間は少なくて、それは無理そうなんだよね。
でも、ふと美陽さんや睦美さんなら、そんな事が脳裏を過る。

当夜
 (美陽さんや睦美さんなら僕を受け入れてくれるかな?)

でも結婚って御影先生じゃないけど、軽くない。
僕の想いも、そして花嫁の気持ちも重要なんだ。
その上で考える、僕は誰が好きなんだ?
そして美陽さん、睦美さんは僕をどう思ってる?
睦美さんは明らかに僕を弟か妹のように思っている気がする。
僕を女の子扱いこそしないけど、やっぱり可愛いって言われるの結構複雑だもんなぁ。
美陽さんは本気でわからない。
マジでサイボーグ何じゃないかって位無口で無表情だし、任務だから僕と付き合っている気がする。
でもそれって要するに、僕はデスリー総統だから、仕事で付き合っているだけで、美陽さんからしたら僕はアウトの可能性もあるんだよね。
いや、むしろ高い気がする……始めて美陽さんに誘拐された時、むしろ怖かったし!
僕はあくまでデスリー総統、美陽さんはやっぱり上乃子当夜なんて、これっぽっちも興味無いんだろうなぁ。


 「上乃子! 上乃子当夜! ちょっと聞こえれるの!?」

当夜
 「あっ!? は、はい!」

気がつくと僕の番だった。
僕は慌てて点呼に応える。


 「上乃子どうしたの? ぼーっとして?」

当夜
 「か、考え事です……」


 「はぁ……上乃子、アンタ成績良い訳じゃないんだから授業でまでぼーっとするのは辞めなさいよ?」

当夜
 「は、はい……」

先生は溜息をつくと、もう一度点呼を再開する。
うぅ、恥ずかしいなぁ、結婚の事考えてたら、周りの声が聞こえなくなるなんて。


 「おし、全員いるわね? 一時間目は体育だから、男子は移動しなさい!」

先生はそう言うと、出席簿を持って教室を出て行った。
僕たち男子は体操服に着替えるために席を立って教室を移動する。



第三章 Part2に続く。

KaZuKiNa ( 2021/11/23(火) 16:07 )