第一部 世界征服を目指す物語
第二章 世界征服、それを阻止する正義のヒーロー Part2

第二章 Part2



戦闘員
 「デスリー総統帰還! 敬礼ッ!」

一人の戦闘員が声を上げると、周囲にいた同じような背格好の人達は一斉に敬礼をしてきた。

当夜
 「あ、はは……」

僕は思わず苦笑いをしてしまう。
午前中はまだふわふわした感じだったけど、美陽さんに車で秘密基地まで案内されると、僕は本当に秘密結社の総統になってしまったんだな、と嫌でも実感してしまう。

ペレ
 「デスリー総統、此方です」

当夜
 「あ、うん……山田さん」

ペレ
 「此方ではペレと呼称してください」

当夜
 「うん?」

ペレ
 「私はペレです」

それってどういう意味だろう?
僕は上乃子当夜だ、でもここではデスリー総統という事になる。
同時に山田美陽はペレでもある。
組織内では組織上の名前で呼ぶのが習わしなのかな?

当夜
 「分かったよ、ペレさん! それじゃタキオンさんのラボに案内してくれる?」

ペレ
 「ハッ」

ペレさんは言葉少なく纏めると、速やかに歩き出した。
僕はその後ろをついていく。
途中巡回している戦闘員達と遭遇しながら(そして敬礼されて)、以前とは違う通路を通ると、一気に雰囲気は無骨な機械化された通路に変わった。

当夜
 「雰囲気違うね……」

ペレ
 「此方、装飾にそれ程凝る必要もありませんから」

当夜
 「へぇ、なるほど……僕まだこの秘密基地の詳細も知らないんだよねぇ」

タキオン
 「ハハハ! そういうのはおいおい学んでいけばいいのさ!」

通路を進んでいると、前方からボサボサ髪の女性が現れた。
相変わらずのダボダボの白衣を着たドクタータキオンだ。

タキオン
 「待っていたよデスリー総統! 待ちくたびれて、迎えに行くところだったがね!」

ペレ
 「総統をご案内しました」

タキオン
 「ん、ご苦労ペレ君、ラボはもう目の前だ、ついてきてくれたまえ!」

タキオンさんはそう言うと、やや上機嫌に背中を向けた。
なんだろう? なんだか楽しそうだったな。

当夜
 (考えても仕方ないか、それにしてもなんの用だろう?)

僕はタキオンさんの背中を追うと、やがてラボに到着した。

ラボは一言で言えば滅茶苦茶だった。

当夜
 「えと……え?」

ペレ
 「ドクタータキオン、以前より更に汚くなったわね?」

タキオン
 「失礼な! 最適な配置だろう!?」

ラボの中は物で溢れかえり、何をする部屋なのかさっぱり分からない感じだった。
とりあえず、中を歩くと僕は何かを踏みつける。

グシャ。

当夜
 「うん?」

妙な触感だった。
僕は足元見ると、細い生腕が転がっていた。

当夜
 「ピィイヤアアアア!? 腕!? 誰の腕!?」

ペレ
 「デスリー総統落ち着きください」

当夜
 「お、落ち着いてられないよ!? 一体ここ何しているの!? もしかして殺しとか!?」

タキオン
 「失礼な、志願者ならともかく、拉致って改造などしていない! それにそれ、機械の腕だぞ?」

当夜
 「へ?」

よく見ると腕に付け根から配線が見えた。
あ、これ女性の生腕に見えたけど、義手って奴?
僕はその恥ずかしい勘違いに顔を真っ赤にしてしまうが……でも冷静に考えたらなんで義手が床に転がってるの?

ペレ
 「片付けます、このままではデスリー総統に危害が及びかねません」

タキオン
 「おいおいおい? あんまり勝手な事はしないでくれたまえ!?」

ペレ
 「ならば、床位掃除しなさい」

ペレさんは問答無用で床掃除を開始した。
よくよく見ると、腕やら足やら生身風の物から機械剥き出しの物まで結構散乱している事が分かった。

タキオン
 「コホン! もう一度改めて自己紹介しよう! 私はドクタータキオン! 秘密結社デスリーの頭脳! 科学者というやつさ!」

当夜
 「はぁ……科学者」

そう言えば最初に会った時も言ってたっけ。
あの時は慌ただしすぎて、全然覚えていないや。
やっぱり悪の秘密結社っていう位だから、凄い科学とかあるんだろうな。
怪人もタキオン博士が造るんだろうか?

当夜
 「それで、僕に用って?」

タキオン
 「前書きが長いのは効率が悪いな、これを装備したまえ!」

タキオンさんはそう言うと、腕時計を渡してくれた。

当夜
 「うわ! 腕時計かぁ、社会人デビューみたいだねー!」

タキオン
 「チッチッチ! 甘く見てもらっては困るな〜!」

タキオンさんはそう言うと指を振った。
僕は首を傾げるが、どういう事かな?

タキオン
 「とりあえず付けたまえ」

当夜
 「はーい、あれ? これってもしかしてスマートデバイス?」

実際に腕に巻くと、時計部分は実は液晶画面だった。
外から見たら少し古臭い感じの腕時計に見えたから意外だ。

タキオン
 「ベルトのバックルを強く押してみたまえ」

当夜
 「え? わっ!?」

僕は言われた通り、腕時計のベルトを固定するバックルを押し込むと、突然僕は光りに包まれた。
異変はそれだけには留まらない。
突然僕の学生服が消え、代わりに黒いスーツが身体を覆い、白い手袋、特殊な靴、大きなマント、最後に頭部を覆うヘルメットが現れ、瞬時に装備された。

当夜
 「え? え? え? なになに?」

僕は戸惑ってキョロキョロする、タキオンさんは手を叩いて大笑いした。

タキオン
 「ハッハッハ! 驚きすぎだろう? 私からのプレゼントさ、それは総統服、言ってみれば総統専用の戦闘服さ!」

当夜
 「……総統服、あの……これどうなってるの?」

突然僕の服は消えるし、総統服というのに着替えさせられるし、軽くパニックだった。
どう考えても、このコスチューム一式があの小さな腕時計に収まっていたとは思えない。

タキオン
 「ふむ、総統は思ったより細かい事を気にするタイプなのだな。原理を説明してやってもいいが、どうせ理解できまい、変身ヒーローのような物とでも思っていたまえ」

当夜
 「……さいですか」

変身ヒーロー、ていうか変身ヴィランだと思うけどね?
ライダーというよりは、戦隊物のそれに近いのだろうか?
兎に角、これがプレゼントらしい。

当夜
 「悪の秘密結社デスリー総統のコスチュームかぁ」

僕は改めて自分の格好を見る。
いかにもなスーツだが、意外に動きやすく動作を阻害する感じはしない。
まぁ総統がいつまでも学生服って訳にもいかないんだろうけど、やっぱり少し気恥ずかしいなぁ。
アニメの最初の頃は変身するのを恥ずかしがるキャラの気分が分かったよ。

タキオン
 「その腕時計は総統のもしもを護るためのものでもある」

当夜
 「もしもって?」

タキオン
 「例えば敵の襲撃を受けた時、ペレ君だけでは護れないかもしれないだろう?」

敵の襲撃、僕はその言葉にドッキリするが、そもそも僕はもう普通の高校生じゃないんだなと理解する。
まして秘密結社の総統ともなれば、どこに敵がいるかも分からないんだよね。

ペレ
 「そのスーツには、なにか特殊な機能があるのですか?」

ペレさんは物を片付けながらタキオンさんに聞いた。
タキオンさんは腕を組むとフッフッフと笑う。

タキオン
 「なんたって総統専用だよ? モブとか幹部のレベルな訳ないだろう! まず機能その1! ステルス機能! 時計の側面をスライドして!」

当夜
 「うん」

言われた通りする。
すると僕の影が消えた。

ペレ
 「消えましたね」

タキオン
 「まずはステルス機能! 光学的、熱学的、そして電波さえも遮断し、完璧な隠密性を誇る! これさえあれば大体の敵から逃げれるだろう!」

当夜
 (もう一回スライドさせたら解除かな?)

僕はもう一度時計の側面をスライドさせる。
すると、影が戻った。

タキオン
 「更に機能その2! スーツを着た者は通常の3倍以上の力を得られる!」

当夜
 「え?」

タキオン
 「これを」

タキオンさんは念動力を放つと、なんだか重そうな物を僕の前に運んできた。

当夜
 「これは流石に……あら?」

鉄アレイにも似た重そうな鉄の塊だったが僕は事も無げに持ち上げる事に成功する。
あらら、本当にパワーアップしてるの?

タキオン
 「勿論耐久性もバッチリだ! スーツはライフルでも貫通出来ん! 更に耐熱、耐圧機能も充分! まさに総統はパーフェクトな存在になったのだよ!」

当夜
 「……ギャグみたいだね」

僕は殊の外冷静にそう突っ込んだ。
笑えない位、能力積み込み過ぎている感じだけど、でもそれってやっぱりそれだけ危険でもあるってこと?

ペレ
 「なるほど、それなら安心です」

タキオン
 「ふふ、感謝するよペレ君、君の破天荒な指摘がなければこのスーツは完成しなかった!」

当夜
 (一体この二人にはどんな会話があったんだろう………)

タキオン
 「あと、普通に通信機能もある」

当夜
 「へぇ、便利だね」

スマートデバイス上には、一般的な機能は大体あるようだった。
僕は適当に操作すると、通話機能は勿論、様々な機能が付与されているようだ。

タキオン
 「ふわ〜! あ〜、それ造るのに徹夜だったからねぇ、もう眠い」

タキオンさんは一通り説明を終えると、大きなあくびをした。
徹夜って昨日の夜からずっとこのコスチュームを造ってたの?

当夜
 「あ、タキオンさん!」

タキオン
 「うん? なんだいデスリー総統?」

当夜
 「素敵なコスチューム、ありがとうね!」

僕はなるべく笑顔でそう言った。
するとタキオンさんは、一拍間を置くと後頭部を掻いた。

タキオン
 「と、当然の事をしたまでさっ! 君は仮にも総統なのだ、そのために心血注ぐのは当然だろう!? アッハッハ!」

当夜
 「?」

タキオンさんは背中を見せるといつもよりテンション高く笑った。
僕はちょっと様子のおかしいタキオンさんに疑問を抱く。

タキオン
 (〜〜〜っ! やばいな、あの可愛らしさは反則だろう……!?)

タキオンさんは顔を手で覆うと、乱雑に物を積まれた部屋の奥へと進んでいき、ソファーらしき物に寝転んだ。

タキオン
 「それじゃお休み〜、なにかあったら直ぐに連絡したまえ」

当夜
 「うん、頼りにしてるよ」

僕はそう言うとラボを出る。
ペレさんはすかさず僕の後ろについた。

当夜
 「ペレさん、部屋片付け中断していいの?」

ペレ
 「デスリー総統の警護が最優先です」

当夜
 (もう少しラボにいた方が良かったかな?)

僕はそう考えるが、タキオンさんの睡眠の邪魔をするのも問題だと思った。
まぁ、後々ゆっくりあの部屋の問題は片付ければいいかな?

シャーク
 「おお、此方にいらしましたかデスリー総統!」

当夜
 「あ、シャークさん」

ラボを出ると、直ぐにシャーク将軍と鉢合わせした。
この人、確かこの秘密結社デスリーのナンバー2なんだっけ。
普段はやっぱりシャーク将軍が、指揮をしているのかな?

シャーク
 「デスリー総統、早速ではありますが、作戦司令室にお越しいただけますでしょうか?」

当夜
 「作戦司令室……」

僕はゴクリと喉を鳴らした。
作戦って言うと、やっぱり世界征服なんだよね?

当夜
 「うん、分かりました……でも、あれ?」

シャーク
 「いかが致しました?」

当夜
 「あの、連絡だったら放送で良いんじゃ? わざわざシャーク将軍自ら?」

冷静に考えたら、組織のナンバー2が連絡係になるっておかしくない?

シャーク
 「め、滅相もございません! デスリー総統を放送でお呼びするなど!」

しかし、シャーク将軍は顔を青くすると首を振った。
うーん、こういう所僕はよく分からないんだけど、非効率じゃないかな?
お役所仕事ってこんな感じなのかもしれないけど、もう少し効率化した方が良さそう。

当夜
 「それならせめて使いを出すとか」

シャーク
 「いえ! デスリー総統を動かす以上此方も我々は、最大限の誠意を持って!」

ペレ
 「シャーク将軍、速く作戦司令室へ」

シャーク将軍が今、力拳を作って思いを語ろうとした矢先、珍しくペレさんが割り込んだ。

シャーク
 「おっと! そうでした! 此方へどうぞ!」

シャーク将軍は思い出したように手を叩くと、僕たちを先導した。
この秘密基地はえらく複雑で、何度も分かれ道を曲がった。
改めて地図もなく入ると、間違いなく迷うよね。

シャーク
 「着きました、どうぞお入りください」

作戦司令室は他の部屋より薄暗い場所だった。
映画館のような暗さ、いや映画館程暗くはないか?
いかにも秘密結社の仕事場だな。

シャーク
 「既に説明させて頂いたかと思いますが、我々デスリーの目的は世界征服です」

当夜
 「う、うん……確かに聞いた。でもどうやって?」

シャーク
 「スクリーンをご覧ください」

作戦司令室の中央には巨大なモニターが内蔵されたテーブルがあった。
シャークさんはテーブルのある場面をタッチすると、部屋の奥の壁を使った巨大なスクリーンに地球が表示された。

シャーク
 「そもそも世界征服とは? 一言に言っても武力による支配、経済による支配、王権的洗脳など多伎に渡りましょう」

当夜
 「どれも現実的とは思えないね……」

世界征服って、そりゃ男の子なら、子供の時誰もが憧れたと思う。
でも世界は頑丈で、強力だ。
子供の夢は、次第に世界の大きさを知ると同時に忘れていく。

シャーク
 「一先ず、まずは組織の命題を知ってもらいもらいましょう」

続いて、シャーク将軍はスクリーンに次の映像を流す。
それは歴史だった。

シャーク
 「約今より1000年ほど前、秘密結社デスリーは成り立ちました……当初より理念が今と同じかは定かではありませんが、求めたのは人類の安寧でした」

当夜
 「人類の安寧?」

映像は流れる、古代から中世へと向かうもそれは戦争の歴史だった。
中世を終えても、世界は混沌している……時にパンデミックに苦しみ、時に戦争に苦しむ。
中世から近代へ……それは悲劇の連続だ。
そして悲惨な歴史は今から先にも続いている。
映像は、現代に追いつくと終わった。

シャーク
 「初代デスリー総統は、人類の闘争の歴史を憂いたと言います。秘密結社デスリーの最終目標は、世界征服……しかしその目的は、デスリー総統の下、全ての人民をコントロールする事にあるのです」

当夜
 「それはまた、責任重大だね……」

改めて言葉にされるととんでもない。
小心者の僕は目眩がしてきた。

当夜
 「でも、うん……僕も、分からなくはないかな?」

僕は少し気分が悪くなった。
それを見越したのか、ペレさんはすかさず椅子を用意してくれた。

ペレ
 「どうぞ」

当夜
 「あ、ありがとうペレさん」

僕はありがたく椅子に座った。
デスリー総統、僕が考えていた以上に責任重大なんだな。

当夜
 「ねぇ? 父さんは? 先代の時夜総統はどんな感じだったの?」

僕はふと、父さんの事を思い出した。
僕には一切説明してくれなかったが、父さんもデスリー総統だったんだよね。

シャーク
 「時夜様は……」

シャークさんが言い淀んだ。
しかし予想外にペレさんが話し出す。

ペレ
 「時夜様は……私の、希望、でした」

当夜
 「え? ペレさん?」

僕はペレさんを見るが、ペレさんはいつも通り無表情だった。
だけど、なにか僕はモヤモヤしてしまう。
気の性かな、ペレさん父さんの話しをする時凄く穏やかだった。

シャーク
 「先代の総統は精力的に活動する方でしたが、ご結婚後はあまり、その活動もなく……」

当夜
 (父さん……僕、ますます父さんが分からないよ)

僕の知っている父さんは優しくて母さんと僕を愛してくれた人だ。
運悪く事故で亡くなった時、僕はあの時の恐怖を今でも覚えている。
あれは二人が旅行に行った時だ、僕はたまたまついていかず、あの日は少し熱があった。
部屋で寝込んでいると、光輝君からスマホに連絡が来て、驚いて確認した時には、両親の乗る飛行機は、残骸となって炎上するニュース映像だった。
後日両親の死亡確認が取れた時、僕はどんな顔をしていただろう。
後から弁護士がきて、遺産の相続手続きをして、混濁した頭はあの当時を明確には思い出せない。

当夜
 (駄目だ……父さんの事を考えるのはやめよう)

父さんの事を考えるとやっぱり苦しい。
それよりも組織の今後の方針か。

シャーク
 「まずは方針を決めましょう」

当夜
 「うん、世界征服と言っても、まずどうするかだもんね」

シャーク
 「まずは世界全体ではなく、日本から征服するべきです」

当夜
 「え? そういうのって世界中を同時攻撃とかするんじゃないの?」

ペレ
 「だめです、そのパターンは日本だけ絶対に勝てません」

当夜
 「ペレさん?」

ペレさんは「コホン」と咳き込む。
ペレさん普段は無口だけど、たまに口を挟むと印象的な事を言うよね。
日本だけ負けるって特撮の話じゃ?

シャーク
 「ま、まぁ、現実的問題、世界同時攻略するには資金も人材も足りませんからなぁ」

当夜
 「あ、そうか〜、そうだよね、確かに人材が足りないか」

考えてみれば人類は80億、国は194、1組織が管理運営するには無理がある。

当夜
 「昔の作品って、無茶な作戦多かったけど、あれ具体的にどんな効果があったんだろう?」

昔の特撮作品ではお決まりの世界征服だが、採石場でドンパチしてばっかりで、具体的にどうすれば世界征服出来るのかさっぱり分からない。
酷いときは都市を沈黙させたりしてたけど、結局それが世界征服に繋がるのだろうか?
ただ都市機能を麻痺させて、経済損失を出すだけじゃないだろうか?


当夜
 「まぁこっちには正義のヒーローがいないだけマシかも知れないけど」

シャーク
 「いえ、います」

当夜
 「え?」

シャークさんは、真顔でいると言った。
僕はポカンとすると、シャーク将軍は机上のモニターを操作して、スクリーンにある映像を映し出す。

当夜
 「これは?」

シャーク
 「これはデスリーの戦闘記録です」

戦闘記録?
映像は採石場のようで、紫色のコンバットスーツを纏ったヒーローっぽい人物だった。
その周囲にはいかにも怪人っぽい黒尽くめの人達が取り囲む。
大きな大鎌を持った怪人がヒーローに襲いかかるが、ヒーローはそれを片腕で受け止める。
数の有利を活かして、怪人は正面から襲いかかるが、ヒーローはそれを前蹴りで倒すと、大鎌を持った怪人を蹴り倒した怪人に向かって投げる!

ヒーロー
 『いまだ! トアー!』

ヒーローは怪人たちが怯んだのを見ると、その場で飛び上がった。
そして、空中で一回転すると、急降下キックを怪人たちに叩き込む!

当夜
 「おおお!?」

僕は思わず声を出してしまう。
凄い大迫力で、ヒーローのキックが炸裂すると。

ドカァァァン!!

大爆発、その後映像は砂嵐に包まれた。
短い、僅かな戦闘時間だったが、僕は思わず手汗を握ってしまった。

当夜
 「あれが、ヒーロー?」

シャーク
 「そう、我々デスリー因縁の相手! ヤツの名は!」



***




カランカラン♪

そこは街中にあるスイーツショップ、マリアンルージュ。
閉店時間を迎え、カフェスペースの清掃を始める一人の女性がいた。

里奈
 「ゲノンさん、先に帰っていいですよー!」

店の奥、キッチンから顔を出したのは常葉里奈だった。
ゲノンと呼ばれる女性は、長い紫色の長髪を腰まで伸ばし、エプロン姿だった。
どこか憂いを持った目をしており、彼女は最後の椅子を片付けると。

ゲノン
 「里奈ちゃん、キッチンの手伝いはいいの?」

ゲノンは里奈より年上だ。
しかしこの職場においては里奈の方が先輩である。

里奈
 「後は明日の仕込みをするだけだから」

ゲノン
 「そう……凄いね里奈ちゃんは、もう立派なパティシエだね」

里奈
 「わ、私なんてまだまだですよ」

里奈はそう言って謙遜するが、里奈のお菓子はよく売れる。
ゲノンはコーヒーを入れる事しか出来ないから、余計に里奈の優秀さが際立った。

ゲノン
 「それじゃあ、お先に失礼します」

ゲノンはそう言うとエプロンを脱ぐ。
更衣室に向かうと、自分のロッカーから私物を取り出した。
紫色のライダースーツ、ゲノンは着替え終えると、ライダースーツを着込んだ。
直後、ライダースーツの首元から声が聞こえる。


 『聞こえているか、ゲノン君!』

ゲノン
 「ハッ! こちらゲノン」

ライダースーツには通信機が内蔵されていた。
通信機から初老を越えたであろう男性の声が聞こえた。
それはゲノンが秘密裏に所属する司令官の声だった。
彼女は表の顔はゲノン・セクターと名乗っているが、裏の顔は違った。

司令官
『秘密結社デスリーに動きがあった! 世界征服を再開したのかもしれない!』

ゲノン
 「しかし、総統はすでに死去している筈では?」

司令官
 『わからん! 新しい総統を担ぎ上げたのかもしれんが……!』

ゲノン
 「何れにせよ、任務了解しました。今度こそデスリーを壊滅させてみせましょう」

それは決意の籠もった声だった。
デスリーに対するなんらかの憎悪か、必然とその手にも力が籠もった。

ガチャリ。

里奈
 「あれ? ゲノンさんまだ居たんですか?」

ゲノン
 「すぐ出ます」

部屋に入ってきた里奈も仕事が終わったのだろう。
ゲノンは入れ替わるように更衣室を出て行った。

里奈
 「お疲れさまでした」

ゲノン
 「はい、お疲れさまです」

ゲノンは店の裏口から出ると、ヘルメットを被った。
ヘルメットはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)になっており、外側からは分からないが、ゲノンの眼の前には様々な情報が提示されている。
秘密結社デスリーの活動活発化、ゲノンはその情報に注目しながら駐車場に駐めていたバイクに跨った。
バイクも特注品だ、普通のバイクではない。

ゲノン
 「いくわよ、ジェノセッター」

既に街は暗くなっていた。
ただ、紫色のライダーは風になって、夜の街を駆ける。
デスリーの野望を打ち砕くため、人知れず闇へと。



***



当夜
 「ねぇ、山田さん、これで足りるー!?」

作戦司令室を出た僕は、その後帰宅する事になった。
どうしても学生で総統ってやっぱり時間的に無理がある。
それでも僕は投げ出したくは無かった。

ずっと何者なのかも暗中模索の中、社会の落ちこぼれだった僕が始めて、何者か分かった時、僕は確かに変わったんだと思う。

美陽
 「はい、それで足りるかと」

タキオン
 「美陽君〜、白滝も必須だよな〜?」

そして僕は今、家から一番近いスーパーマーケットにいた。
スーパーマーケットには僕と美陽さんの他にタキオンさんもいた。
秘密基地を出て行こうとした時、タキオンさんと鉢合わせて、タキオンさん昨日からなにも食べてないらしい。
だから僕は「晩御飯ご一緒にどうですか?」と誘ったら、タキオンさんは喜んで車の後部座席に乗り込んで今に至る。

当夜
 「すき焼きなんて久し振りだな〜」

今日の晩御飯はタキオンさん提案のすき焼きとなり、僕たちは買い込んでいるんだけど、すき焼きを最後に食べたのはまだ両親が健在の時だった。

タキオン
 「おーい! 当夜君! 逸れると迷子になっちゃうぞー?」

当夜
 「も、もう! 子供扱いしないでよ!」

タキオン
 「ハッハッハ! 私からすれば子供さ!」

僕はそんなやり取りをしながら微笑を浮かべた。
一人は寂しくて苦しくて、でも美陽さんがいるとそれらが消え、そしてタキオンさんが一緒だとなんだか楽しい。
この二人のお姉さん達が、一緒だと僕はこんな人生でも良いって思えた。

美陽
 「当夜様、此方です」

当夜
 「あ、荷物持つよ!」

タキオン
 「おー? その細腕でかい?」

当夜
 「もう! 馬鹿にしないで!」

確かに僕は平均より細い。
背だって二人より低いし、非力なのは自覚している。

当夜
 「こう見えても僕は毎日筋トレしてるんだから! 甘く見てもらっちゃ困るよ!」

僕はそう言うと、美陽さんが持っていた籠を奪う。

当夜
 「う! 結構重い」

籠の中身は3日分を想定した買い物であった。
籠いっぱいの商品は結構な重量だった。

美陽
 「やはり私が持ちます」

美陽さんはそう言うと、あっさりと僕の籠を奪った。
そして実に平然としている。
僕は彼我の能力差を思い知り愕然とした。

当夜
 「そ、そんなぁ」

タキオン
 「まぁ、美陽君は特別な訓練を受けているからな、君と比べるのは酷というやつさ」

美陽
 「当夜様が落ち込んでいる……どうすればいいのでしょうか?」

タキオン
 「笑えばいいんじゃないかい?」

結局、何やっても僕はこの二人のお姉さんには敵わないというの思い知った。
無口だけど、パワフルで優しいペレさん。
タキオンさんは饒舌家で、言葉が時々難しいけど、僕を弟のように可愛がってくれた。
僕はこの二人に比べると弟みたいで照れくさい。
だけど、これがずっと続けばいいな……そう思った。



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第二章 世界征服、それを阻止する正義のヒーロー

第三章に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/23(火) 15:43 )